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自然にすっと目が覚める。体内時計がきっちりと稼働して、サイドテーブルに置いてある時計を見たら朝の5時ぴったりだった。しかし、違和感。私の部屋にはないはずのベッドから起き上がりあたりを見渡して思い出した。簡素な部屋、ごわごわのシーツ、そういえばギアッチョの家に泊まらせてもらったのだった。いや、泊まらせてもらったというより、泊めさせられた。ギアッチョのキレてばかりのお説教は深夜まで続き眠りかけ、終わったと思いあの公園へ戻ろうとしたら問答無用でこのベッドに放り込まれたことを思い出す。ベッドからのそりと出てリビングへ行くと、ソファでギアッチョが眠っていた。私がベッドを取ってしまったらしい。子供にベッドを譲るとは、ギアッチョはすぐ怒るけど結構いい人なのかもしれない。泊めてくれたし、まずかったけどご飯もくれた。今日は仕事があったらいいなあ。仕事が来てお金が入ったらまずギアッチョに宿代を渡して、それからまた考えよう。よくわからないロゴのTシャツから着替えようと家の中をがさごそと探す。リビングのところから探したが、結局ベッドのそばにハンガーでかけられていた。もしかしたら洗濯もしてくれたのかもしれない。サッと着替えてベッドの脇にTシャツを畳んでおく。リビングを探している間に見つけた鞄を持ち、寝ているギアッチョの横を通って外へ出た。狸寝入りだろうから、鍵は気にしなくていいや。
出勤までまだまだ時間はある。とはいえギアッチョの家がどこにあるかわからない。これは骨が折れそうだ、とりあえずゲンさんと手分けしてアジトへの道を探すことにした。

なんとか時間ぎりぎりになったが間に合った。アジトにはメローネとホルマジオ、プロシュートとリーダーだけがおり、ギアッチョはいなかった。今日は仕事があってほしいが、リーダーの様子だとまた無さそうだ。そう思っていたら、お昼頃になって「ナマエ、ポルポが呼んでいる」と声をかけられた。すぐに行け、と言われたのでデブのところへ行くと、やっと仕事があった。今日中というの指示に喜んで、とデブのところから出てそのまま現地へ向かう。
ターゲットはドイツ人だって言ってた気がするけど、私に外人の判別が出来るとは思えない。みんなイタリア人と言われればイタリア人に見えるし、みんなドイツ人だと言われればドイツ人なんだろうと思ってしまう。仕方ないのでターゲットのいる店先からゲンさんで様子を見ること数分、電話にイタリア語ではない言葉で出た男を発見した。おそらくあれがドイツ語だろうか。そういえば、どこかでも聞いた気がする。
流石に昼間からこんな場所で襲いかかるわけにもいかないため、今回はゲンさんに頑張ってもらうことにした。近くのベンチに座って知らないふりをする。私がてきとうにアイスクリームのお店を見ている間に、ゲンさんは銃を作り出しターゲットらしき男に向ける。もうあいつでいいや、違ってもまた殺せばいい。そんな勢いでパシンとゲンさんが撃つと、男の脳天に命中したようで、頭から血が吹き出し椅子から崩れ落ちるのがゲンさん越しに見えた。ゲンさんを消すと銃も消える。……もしかして、弾も消えていたりするのかもしれない。そうしたら弾の足もつかないし、便利な方法だ。ゲンさんの新たな技を発見した。
思ったよりも早い時間に終わったため、またその足でデブのもとへ行き報酬を強請るとデブは大いに喜んだ。しかしなにかお気に召さないことがあったらしく一発殴られてしまった。一体私が何をしたというんだ、ただ仕事をやっただけじゃないか。そんな早口でまくし立てられても、もともとあまり良く分からないイタリア語がもっと分からないだけだ。ぼーっと呪文みたいな言葉を聞いていると、もう一発殴られてしまった。
デブのところから出るころには日も落ちて就業時間を過ぎていたため、普通に公園に戻った。殴られた頬が腫れたが、そんな大したこともないだろうと芝生にごろりと横になる。スプリンクラーに近いところを選んだからだろうか、少し草が濡れて服が濡れた。

何時間が経っただろうか、ふと誰かの気配が近くによってきた。目を開けると、目の前に黄色いスニーカーと黒いズボンが見えた。誰だろうか、こんな近く、目の前まで来て私に何か用なのか。ス、とゲンさんを出し構える。

「チッ、来い」

聞こえた声に一瞬ドキリと止まる。その隙をつかれたのだろう、鞄を持たれ、腕を引いて立たされる。そのままスタスタと私の鞄を持って行ってしまうギアッチョを慌てて追いかける。隣りに並んだとき、何故、という疑問をぶつけられずに黙っているとギアッチョはまた舌打ちをして「黙ってついてこいっつーんだよクソ」と言った。仕方なく言われた通りについて行くと、昨日も来たギアッチョの住むアパートに来てしまった。ギアッチョは私の鞄を返してくれないまま中へ入ってしまう。入っていいものかとまごつくが、そのままドアを開けっ放しにしているのでいいのだろうとお邪魔した。
奥の部屋に私の鞄を放り投げたギアッチョは入口のそばで立ったままの私を担ぎ上げた。

「っ、わ、」
「暴れんな落とすぞ」

突然担がれたら誰だって暴れる。視界が唐突に高くなり少し怖かった。私を担いだギアッチョはそのままバスルームへ向かい、空の浴槽に私を落とした。降ろすではない、落としたのだ。ぶつけたお尻をさする。

「脱げ」

いつの間にパーカーを脱ぎ、Tシャツにズボンの裾を捲った姿のギアッチョが片手にシャワーを構えている。まさか、と浴槽から出ようとすればギアッチョは低い声で「きったねえまま出ようとするんじゃあねぇええ!」と怒る。仕方なく靴を脱ぎ、上着を脱いだ。しかしギアッチョは未だ構えたままだ。これ、全部脱がなきゃダメなのかなあ。子供だしあまり抵抗はないものの、迷ってしまう。しかしこのままでも埒が明かない。私は無言でパンツから靴下まで全部脱いだ。
脱いだ私の服をギアッチョはビニール袋に入れると、よし、とひとつ言ってからジャアアと勢いよく私にシャワーをかけた。

「ひっ、つめたっ!」
「時間かかんだよ、我慢しろ」

冬じゃないのが幸いか、シャワーの冷たさに震えながらギアッチョにがしがしと洗われる。シャンプーにはこだわっているらしい、少し高そうなものを手にしたギアッチョに乱雑に髪を洗われた。痛い、毛が抜けたんじゃないか。髪の泡を流されている間にシャワーは無事お湯となり、徐々に私の体を温める。またバスルームには湯気がたち、ギアッチョの眼鏡が曇っていった。

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