お互いを赤面させないと出られない部屋
ジリジリと地面から上が揺らめいて見える。陽炎ってやつだ。室内の温度はおそらく30度を超えている。ハア、と吐く息も熱くて頭の中がどうにかなりそうだ。でも私以上に酷いのがいる。
「あつい……」
「ふざけるなよジャパン……」
「本当に申し訳なく……」
赤毛の双子が真っ赤な状態で、せめてもの気休めでと大理石の床にぺったり張り付いている。私は壁に背中をつけているが、正直冷たいというかぬるい。垂れる汗を拭って、靴下を脱ぎ捨てた。あっっつい……。
私たちは今、木製の建物のような箱の中にいる。なんでも心の望みを叶えてくれるらしい、某ネコ型ロボットのアイテムにあるもしもボックスのようなものだ。あれはもしもしで繋がるが、こっちは直箱の中に反映される。廊下を歩いていたら知らん部屋に迷い込んでしまい、本当にたまたまドアを開けてしまった。そうしたらこれだ。先に入って調べていた双子には作用されず、後から開けてしまった私の心の望みが叶えられてしまった。
単純に帰りたい、と思い続けていたからだとは思うけど──まさか日本の夏がこんなに暑いとは。どうして30度超えのレア日に当たってしまったのか。お陰で英国人少なくとも2人には日本は灼熱の地として登録されてしまった。ちなみに2人が望んでいたのは今開発中の魔法の完成らしい。箱としてもどう叶えようかというものだったのかも。だからといってこれかよ。
私たちは今サウナの中にいるようなものだ。
「このまましにそう」
「ジャパンにころされる」
「ナマエーしっかりしろー」
私だって双子のように下着一枚になりたいがそうはいかんだろ。というかこんな状況じゃなかったらパンイチなんて許してないぞ。女子制服はギリギリまで脱いだって下着にシャツにスカートは死守しなきゃならない。シャツの中が蒸れて痒くなってきた。
しかも面倒なのが、杖が使えないのだ、ここでは。最初水出すとか温度下げるとか散々試したが、全く効かなかった。私だけならまだしも双子もダメだったから、妨害魔法でもかかってるんじゃないかって話だった。どちらにせよこのままじゃやばい。
白人の双子の肌はもう全身真っ赤だし、私もかなり赤いと思われる。温度が高いだけだからまだよかったもの、これで日光もあったら紫外線で死んでいたと思う。紫外線ビーム。シャレにならん。
箱に入ってからもう何時間が経っただろうか。体内の塩分がゴリゴリ減っていっている。喉が渇いた。汗は塩辛いし、目に入るとすごく痛い。
「ナマエー……」
「おー」
「俺らもうダメかな」
なにネガティブなこと言ってるんだ。いやいや、大丈夫だって、先生か同級生かゴーストか、誰か見つけてくれるって。そう言いたいが、私もだいぶやられている。かもしれない、と返すと2人は声を合わせてハハッと笑った。床はもう汗でずるずるだ。水分量やばない?こっちがここまで暑くなることは滅多にないから、彼らには尚更地獄だろう。
「俺、最後に言っておくな……」
「遺言…?私も死ぬかもしれないけど」
「お前も残しとけよ」
「ただの遺言交換だね」
遺されるものは何も無くなるが、まあ無いよりはマシかも。暑さは人をおかしくするものだ。青いストライプパンツの方がはいっと手を挙げた。はいどうぞ。
「フレッド・ウィーズリーです」
「ききましょー」
「俺さあ、ナマエのこと好きだったぜ」
ぶっは。思わず噴いてしまった。一緒に汗も吹き出す。余計なエネルギーを使った気がする。すると、もう片方、グレーパンツの方も手を挙げた。はいどうぞ。
「ジョージ・ウィーズリー、俺もナマエのこと好きだった」
「マジかよ、俺らやっぱ双子だな相棒」
「まさか女の好みも一緒とはな」
「シンクロおふざけやめろし」
ここまで来て人を笑わせようとするか。ケラケラと笑いが止まらない。汗も止まらない。目元にかかった汗だか涙だかわからない液体を指で拭う。
「ふざけてねえよ」
「本気だぜ」
「…………は?」
がしりと下から手を掴まれた。見下ろすと、双子が汗だくの体で這いながら私の傍にくる。うっ熱気が。そして表情は、とても真剣だった。真っ直ぐ同じ色の瞳が私を射抜く。
「ナマエ────」
バンッッ!
大きな音がして、床や壁が破裂したように飛び散る。手を掴まれたまま、呆然と周りを見ると、少し埃っぽい教室。
「こ、れは……」
「戻った……?」
「出れたっぽいな…」
「へっくしゅ」
汗で全身びしょびしょの体に英国の夏の冷っとした風が当たりくしゃみが出た。それを合図に3人とも正気に戻ったようにバッと距離を置く。
「ナマエ、」
「おまいらとっとと服着ろよな!へっぶしゅ!」
靴下を拾い、ローブを肩にかけて双子に背を向けた。
…………いや、あの、気まずいから。そんで顔が熱いのは暑さのせいだから!はい!