- ナノ -

照れさせないと出られない部屋

授業に遅れるからと廊下を走ったというだけなのに寮点を引かれ、さらに罰則までついてしまった。この理不尽さ、誰かおわかりですね?soスネイプ先生だよ!本当に意地悪だ、ご機嫌ななめだったんだろうけどマジでどうして罰則を夜に設定するのか。おかげで消灯間近のこの時間に階段をかけ上がりポルターガイストをうまく避けねばならなかった。これでまた消灯までに寮に戻れていなかったら罰則だって言うんでしょ?無限ループってこわくね?ちなみにピーブスくんには勝てず私は今びちょ濡れである。寒い。
大体鍋を洗うのなんていつも杖でちょちょっとやるくせに、わざわざ罰則にするなんて。きっと私じゃない生徒なら杖でちょちょっとやるんだろうけど、私は未だにその魔法を使えないというか多分一生使えないから手洗いだ。ハッ……私相手なら罰則として成立してた。さすがスネイプ先生見抜いてる。指先はおばあちゃんみたくふにゃふにゃになった。さっきピーブスくんに水ぶっかけられたからさらにふにゃふにゃ具合が増してしまった。ハンカチなんて洒落たもん持ってねーよ!
とりあえず水を吸って重くなったローブを絞って丸めて脇に抱えながら急いで走る。ずるずる滑って何度か転けた。次からは是非滑り止め付きの靴を学校指定にして欲しいね。主に私のために。

「廊下を汚したのは誰だ!」

わんわんと下の階から響いてきた怒鳴り声に慌てて立ち上がった。やべえフィルチさんだ。すいませんそれ多分私です、いや元凶はお茶目で迷惑なポルターガイストくんですけども多分私です。しかし大人しく出頭する気はない。仕事を増やしちゃってすまねえとは思ってるんだ。嘘じゃないよ。でもこれ以上の減点と罰則はちょっと予定が詰まってるので無理ですごめんなさい、というわけで急いで逃げるもののやはり滑って滑ってあまり進まず、ずっこけた音が廊下に響いてしまう。

「そこだ……そこにいるな……」

ヒイッ、後ろからだんだん近づいてくるフィルイさんの声に背筋が震える。マジでだんだん近づいてくる。怖い。メリーさんより怖い、確実に怖い。というかフィルチさんどうしてこっちだってわかるんだ透視魔法なんて聞いたことないよこわっ。恐る恐る後ろを振り返ると、廊下の向こうからフィルチさんの持つランタンの光に照らされた壁、だんだん大きくなるフィルチさんの影、そして私の足跡。某お菓子の家で飲み食いして捕まった兄妹が残したパンくずよりもわかりやすい私が移動した跡がある。はっはー道理でバレバレじゃねーの。水ってそう簡単には蒸発しないし、私は蒸発させる魔法を知らない、つまり詰んだ。フィルチさんはこのまま足跡をおってくるんだろうな、うん詰んだ。しかしこうなれば持久戦だ。寮に入ってしまえばこっちのもん、よっしゃと重い体に力を入れてまた走る。ベチャッ。走り出してものの10秒でまたずっこけた。いやおかしくない?ワックスで磨かれたあとなのかなこの廊下。絶対無理じゃんこんなの。フィルチさんの影はすぐそこまで来ている。私の心臓がばっくんばっくん鳴る。

「そこかあ!」

ひいーーー!

「こっち」
「えっ」

フィルチさんに見つかりそうになってやばばば絶体絶命やばばばってなっていたら、いきなり見えないなにかに手を引かれた。こっち?どっち?あっち?そっち?この声聞いたことあんな??見えない何かはその場で壁にかかっていた絵画のドアを開けた。中に入るとふかふかの絨毯が敷かれたどこかアジアンな雰囲気のお部屋だった。絨毯の模様が独特で目に痛い、って……は?絵画のドア?えっ?私今絵画の中に入った?……ひいっ、こっっっわ!!心霊現象ついでにファンタジーマジックだけど絵の中に入るなんてこと初めてだよこっわ!!慌てて入った入口を振り返る、が、ドアがない!!なんでない!?

「危なかったね。僕もヒヤヒヤしたよ」
「えっこれ出れる?出れるよね??」
「大丈夫だよ」
「ほんとに?私ここで餓死とか絶対やだよ?でもお化けさん助けてくれてありが…………ハリー!?」

そういやこの幽霊喋るなと思いながら振り返るとあら不思議、そこには姿の見えないお化けさんではなく普通のハリーの姿が。なんで!?ハリーがここに!?てじなーにゃ!?

「ハリー透明人間だったの!?」
「ううん、そういうわけじゃないよ。談話室でナマエが帰ってくるのを待ってたんだけど、遅かったから心配で…」
「あれまそれはごめん……ん?」
「落ち着くまでここに隠れようか」
「ナイスアイデア!ところでハリーくんや、」
「ここの部屋のことは地図が教えてくれたんだ」
「ヘッタクソな誤魔化し方だなオイ」

わかりましたよ話したくないんなら聞きませーん、誰しもそういう隠しごとはあるし。今後姿の見えない何かに何かされたときの容疑者リストにポルターガイストと幽霊の中にハリーが入るだけだから問題ない。談話室で帰りを待ってくれていたという忠犬ハリ公の頭をありがとうの意味を込めてわしゃわしゃと撫でて、ローブを丸めて入口の近くへ放りふかふか絨毯の上に座る。楽しそうにぐしゃっとなった髪を手ぐしで直しながら、ハリーも向かいに座った。

「それで、どうしてそんなに濡れてるの?」
「ピーブスくん」
「ああ……」

ただ名前を言うだけでわかるポルターガイストへの安定の信頼感。ハリーはお疲れ様と優しい言葉と共に私を乾かしてくれた。うーん癒される、ハリー癒者とやらにもなれるんじゃない?めちゃめちゃ癒されたわありがとう。え?癒者じゃなくてクィディッチの選手になりたい?もうなってるじゃんグリフィンドールのエースじゃん。え?プロの選手?ウーンそれはちょっとお姉さんオススメはしないけどキミの意思を尊重はするよ、ウン……。

「ところでこれはどうやって外に出るの」
「何言ってるのナマエ、ドアから出るに決まって…………」
「…………」
「…………」

きょとりと周りを見回すハリー。ないね。ドア、ないね。

「……どうやって出るんだろう」

頭の上にはてなマークを浮かべ不思議そうに首を傾げたハリー。なんだよさっき大丈夫って言ったじゃん!嘘つき!その顔やめろ可愛いな腹立つ!可愛い!
仕方ないなあ〜もう〜とハリーの頭をうりうり撫でてから、改めて部屋を見渡す。窓もない、ドアもない、どうしようもない、詰んだ。

「あっナマエ、あれ!」
「どれ?」

ハリーの指が差す天井を見上げる。あんらまーびっくり。天井一面にでかでかと文字が書かれていた。『相手を照れさせないと出られない部屋』だそうだ。ほほーう条件付きで外に出るというトリック部屋というわけか。照れさせればいいんだなOK、そろそろ風邪をひきそうなので早く出たいんだよ私は!

「えーと、えーとね、うーん……顔面がいい!国宝だよ。それにハリーはめちゃくちゃ可愛い。天使!あー、あと魔法が使える!すごい!あとなんか運動うまいよね、それもすごい。あと、えーと……」
「ナマエが普段僕をどう思ってるかよくわかったよ」
「エッ」

やれやれと肩を竦め両腕を上げたアメリカンなポーズでハリーはフッと笑うと、「ナマエは──」とはじめた。エッエッおまち。

「私を照れさせるつもりか!?」
「ナマエに任せてたら部屋から出れないよ」
「あんだけ褒めたのに照れないの!?おかしいな、私ならデレッデレなんだけど……」
「ナマエってそういうところ幸せだよね。好きだよ」
「ハリーもハッピーに生きようぜ!」

グッと親指を上げてサムズアップ。ハリーはため息を吐いた。なにゆえ。しかしハリーがそう言うのなら、そうかもしれない。でも私がそう簡単に照れるかな。謎の敵役気分でハリーの声に耳を傾ける。

「ナマエは頑張り屋で努力家で、優しくて温かくて、いつも僕たちを見守ってくれて、時には手を貸してくれるとても素敵な人だよ」
「やだ照れる……」
「好きだよ」
「ハリー……!」

ダチからの感動の言葉に私は卒業式並に涙が溢れかけ、目元を抑えようと顔付近へ持っていった手をハリーに掴まれる。そのままハリーはもう片方の手で私の頬に手を当てた。

「好きだよ」

少し潤み、優しげな眼で見つめられた。翡翠色の瞳の中に、口をはくはくと金魚の如く開け閉めしている私が映った。ハリーの指が、私のこめかみをそっと撫でる。
カチャリとどこかで音がした。

「あ、開いたね。ナマエ、行こう」
「ウ、ウヌ……」

パッと頬から手を離され、しかし掴まれている方は離されなかった。入ってきたところと同じ場所にドアノブだけが出現していた。が、ガチ照れしちまった……。

お相手の記入がされておりませんでしたため、ハリー相手とさせていただきました。何かございましたらご一報くださいませ。