- ナノ -

杉元と恋人繋ぎしないと出られない部屋

 俺と杉元ってなんだろう。

「……人間だな」

 そういうことではないんだけど、いや、そうだな、人だな。
 ひとつ頷いて箒を動かす。玄関先の誇りが風でぶわりと舞い、少しせき込んだ。せっかく掃除したのにまた散らばった気がしてならない。はあ、と溜息を吐いてまた箒を動かす。

 俺と杉元は、なんなんだろう。
 今現在また怪我をして奥で寝ている戦争時からつるんでいる友人を思い浮かべ、うーんと頭を悩ませる。そもそも今の状況もなんなんだろう。ちらり、目の前の閉ざされた門に貼られている張り紙を見て、また溜息を吐いた。
 ”開錠条件:恋人繋ぎ”、そう書かれた紙をはがすこともできず、無理矢理塀を越えようとして謎の重傷を負ったのだという杉元は怒っているようだが、俺は不思議を怒りはない。きっと最近忙しかったからだろう、休む時間が欲しかったんだ。あの土方という爺さんが色々と仕事を押し付けてくるせいで休む暇がなかった。こうしてちまちま掃除する時間さえ、銃を磨く時間だったから、本来穏やかな性格の俺には向いていないんだ。
 でも、今抜けたら殺されるのは確実だし、俺は杉元の力になりたいし、それにアシリパちゃんも心配だ。周りをおじさんに囲まれていて女の子としても不安だが、それ以上に周りが全員常識外ればかりなのも問題だろう。たまにあいつらはアシリパちゃんを娑婆で生かすつもりがないんじゃないかと思う。……アシリパちゃん、大丈夫かな。
 というか、どうして俺と杉元がここに閉じ込められたんだろう。もう3日くらいは経つが、本当に何もない。
 ただ外に出られないだけで、どういう仕組みになっているのかも疑問だが、なんというか、安全で安穏な生活といえばそうなのだ。もう一度溜息を吐いたところで、後ろから足音が聞こえた。

「ナマエ、ここにいたのか」
「杉元、起きたのか。痛みは?」
「無い。…出れそうか?」
「さあ……開く気配はない」

 杉元と門を見る。杉元は睨むように見つめていた。上半身には包帯が巻かれている。それくらいの怪我をしたんだ、ただ外に出るためだけに。でも、そんな怪我を負わせることが程度に、俺たちをここに閉じ込めている奴は強いというわけだ。犯人もまた人皮を狙っている敵だとしたら、少し嫌だな。
 考える俺を通り越し、杉元が門の紙に触る。どんなに引っ張っても破れなかっただろう、濡らしたところで撥水加工でもしてありそうだ。

「そもそも、恋人繋ぎってなんだと思う?」
「さあ…恋人限定なら、俺と杉元は恋人じゃないから一生出られなさそうだけど」
「……繋ぎ、って、どういうことだ?」
「さあ…」

 そろりと視線を外す。おそらく、俺も杉元も下品な想像をしていると思う。もし想像があっているのだとしたら無理だ。無理だ、絶対無理だ。こっちを見るな杉元、俺は無理だ、俺は嫌だ。俺は男だ。
 確かに軍にいた頃は何故か同期に色目を使われたり、戦地でも、捕虜の露兵に誘われたりしたこともあったが、俺は男だ。股間についているし、異性の恋人がいたこともある。何故か「私は勝てない」と泣かれ別れを告げられた苦い過去もちゃんとある。今思うと、彼女は間諜だったのかもしれない。俺は情報部隊だったから、きっと情報が欲しかったんだろう。すまないことをしたが、お国のためだ。今や仇なす側にいるのだけれども。

「無理だぞ」
「……じゃあ、繋ぎって何だと思う」

 ふむ。箒を戸の横に立てかけ、顎をさする。つなぐ、つなぐ…何かと何かを繋げる、いいや下品な想像じゃない、縁とか絆とか命とか…あるいは紐とか、物体だろうか。でも恋人という部分を気にすると、縁とか絆、…体、になるとは思うのだが、そもそもここにいるのは俺と杉元だ。俺と杉元が恋人に関係するものってなんだ?
 ……まさか、恋人になれ、とでも?
 顔が強張る。杉元を見ると、きょとんとした顔で地面を移動する蟻にちょっかいを出していた。こら、いじめるんじゃない、蟻だって生きてるんだぞ。

「恋人なんて難しい条件、どうすればいいんだ。恋人になりましたっていえばいいのか?」
「は?俺と、ナマエが、恋人になるのか?」
「俺の予想だと、恋人繋ぎっていうのは恋人の縁を繋ぐのかと……そう考えると誰かと誰かをくっつけることだとは思うんだが、残念ながらここには俺と杉元しかいないし、そうすると適用されるのは俺たちなんじゃないのか」
「なっ…ほ、他につなぐものないのかよ!手、とかさ」

 ……手?

「なるほど!それは名案だ!どうして今まで気が付かなかったんだ、そうか、そうかもしれない」

 そうすれば話は早い、さっと杉元に手を差し出すと杉元は少し顔を赤くし珍妙な顔をして手を重ねた。ぎゅっと握る。
 ……何も起きない。何か違うらしい。

「恋人、恋人ってなんだ?恋人がする、繋ぎ?」

 するすると指先を動かし、杉元の手を色々といじくる。やはり俺よりも大きくごつごつと骨ばっている、よく人を殴る手だ。
 俺の手もまた骨ばってはいるが、水仕事が多いせいか結構がさがさしていてあかぎれが多い。繋いでいる手同士がごつく、細かい傷だらけとは秀逸な光景だ。色気も何もない。
 少し笑いながら力を籠めたり、緩めたり、小指を繋いだり、握手をして、指先だけで指を絡める。そのままぐっと深く繋ぐ。
 この繋ぎ方、どこかで……ああ、貝殻繋ぎだ。子供がきゃっきゃとはしゃいで貝合わせをする情景が浮かぶ。

はらり

 ぎょっと目を向けた先、張り紙が落ちた。よくわからないが、正解だったらしい。貝殻繋ぎのことだったのか?なるほど、確かに親密な関係でないとこんな繋ぎ方はなかなか、親子くらいでしか出来なさそうだ。最近の流行りなのかも、女性誌も目を通しておくべきか。ああ、そうだアシリパちゃんに教えてやらねば。あの子は案外男らしいが、乙女の部分もちゃんとある可愛らしい子だから。
 しかしよく出来ている、貝殻も対で合うから、恋人を番と見なしているらしい。恋人繋ぎ、そう言われるとなんとも恥ずかしくなってくる。
 照れそうな顔を引き締め、杉元に、やったな、出れるぞと笑いかける。早く門を開けよう。しかし、手を解こうとすると、逆に力を込められた。杉元を見ると、あいつの顔は何故か真っ赤で、真剣に俺を見ていた。

「……杉元?」
「ナマエ……」
「どうしたんだ、早く行こう。おそらくもう3日は経ってるんだ、皆も心配してるはずだ。……どうしたんだ?」

 何かを言おうと悩んでいるような、歯痒そうな表情の杉元の手を引く。手は解けないが、体は動いてくれるらしく門の前へ連れた。
 俺が門を開けようとすると、杉元は下に落ちた紙を拾い、”恋人繋ぎ”という文字をぐしゃぐしゃにしてポケットに突っ込む。それ、持って帰るのか?
 はあ、とため息を吐いた。吐いたのは俺ではなく杉元だったが。少し気になりながらも門に手をかける。

「開いたぞ!」
「……ナマエ、悪い」
「え?」

 まるで鍵なんて初めからかかっていないような、軽く押せば開いた門、向こうの景色を確認する前に杉元が上擦った声をだし俺を呼ぶ。振り返れば唐突に手を引かれ、身体がよろめいた。支えてくれたのは当然杉元だったが、何故か杉元は俺の顔に顔を近づけ──────、

 これいじょうは言いたくないが、俺は男だ。