- ナノ -

10秒ハグしないと出られない部屋

何も無い白い部屋、唯一あるドアはどんなに引っ張っても叩いても蹴ってもタックルしても開かない。開かずの扉だ。開いてもらわないと困るって言うか現在進行形で困ってるんだけれども開いてくれない。寝てたはずなのに起きたらこれだ。どういうことだ。言っておくがまだ年度末ではないぞ。つまり灰色の部屋とも違う、一面真っ白な気色悪い部屋で目覚めて体感だと3日くらい過ぎた。時間がわからん。ストレスマッハ待ったナシ。お腹空いたし何も出来ないし本当にどうすればいいんだ。そもそもこんな部屋ホグワーツに作るんじゃない、生徒が間違って入って出られなくなったらどうするんだ。すでに手遅れなんですけども。

「ばーか!ばーか!あーほ!出せー!」

文句を言っても扉は開きません。どっこいしょ、どっこいしょ、引っ張っても扉は開きません。

「だーれか!だーれーかー!いないのー!おなかすいたー!」

少なくとも空腹を感じるっていうのは灰色の部屋みたいなこともないってことだろうし、っていうか灰色の部屋は空腹も睡眠も必要なかったけどやることあったし。こっちなにもないし。本当に何も無いし。これは詰んだ。床に大の字に寝っ転がる。そして大の字状態の私の白骨死体が発見される……?

「このままだと私の骨が魔法薬の材料にされるー!」

ガチャリ

「貴様から何か有益な成分が採れるとは思えませんな」
「えっ」

スっ、スネイプてんてー……普段から私に正論だけどちょっと嫌味成分多めのお説教を下さるグリフィンドールのほとんどの生徒に嫌われているがスリザリン生からの評判はアツいなんとも言えぬ先生……しかし今は救世主!後光が見えた!スネイプ先生越しに外の光が見える!勢いのままに飛び起きてスネイプ先生に向かって飛びついた。

「スネイプ先生助けて!!!」
「煩わしい!」
「へぶっ」

片手でひっぺがされ床に転がされてしまった。と同時に、ガチャッと音が聞こえる。……うん?扉を見ると、スネイプ先生の背後に扉の模様が見えた。……うん?つまり?うん?

「閉まった…………?」
「当たり前だろう」
「当たり前じゃないですよ!出れ……ッ、出れない……!!」

スネイプ先生を押しのけドアガチャを繰り返すが、また扉は堅く閉じてしまった。ありえん。ガッデム。神は死んだ。扉に縋るように崩れ落ちる。お、おなかすいた……。スネイプ先生にキレる気力もなくその場にうつ伏せに寝転がる。はいはいそうですよ空腹に倒れた猿ですよウキー。おなかすいた……。

「ミスミョウジが何故そう毎回厄介事に巻き込まれていくのか不思議でなりませんな。悪い趣味をお持ちのようだ」
「望んでません……というか厄介事?」
「……掲示板を見ていない生徒がいるとは」
「体感3日はここにいるんで」
「貴様がこの部屋に入り込んでから半日も経っておらん」
「嘘でしょ体内時計!」

空腹はしんどいが半日も経ってないってことは私まだまだ生きれるんじゃね!?やったー!スネイプ先生もいるし!勝ち確!希望を見いだし元気100倍まではいかないが元気になった私は跳ね起きて杖を振っているスネイプ先生に近づいた。

「いつ出れるんですか」
「作業中だということを見てわからん節穴ですかな」
「イェイ今日もキレッキレですね」
「グリフィンドール5点減点」
「やめて!」

こんな空腹と戦った結果減点しか残らないのは控えめに言って絶望しかないので大人しくお口ミッフィーちゃんでスネイプ先生の作業とやらが終わるのを待機すること体感数時間。この度私の体感は役に立たないことを理解したから多分数十分あたりかもしれない。そうして待って待って待ったら、突然眩しい青い光と共に扉に文字が浮かんだ。

「……『唯一の鍵は10秒のハグ』?」
「ふざけておる」

コンフリンゴ、バァン。
スネイプ先生がぶち当てた魔法は扉になんのダメージも与えなかった。むしろ驚いた私のおしりにダメージが来た。びっくりした。
しかしなんだろうこの文言は。暗号?眉を寄せて考える。10秒のハグ……?ダメださっぱりわからん。

「っていうか、掲示板ってなんのことですか?」
「生徒が持ち込んだくだらない悪戯魔法のかかった玩具が城で展開されたのだ。そして馬鹿な猿がまんまと引っかかった」
「馬鹿な猿イズ私か…なんてこった……」

つまりこの部屋が玩具だと。魔法ってすごいな。対象年齢いくつだ?えっ6歳?魔法界の玩具すご。私が驚いている間にもスネイプ先生はまたビシバシ杖を振るけど、何も変わらない。……これ、まさか本当に10秒ハグしろってこと?スネイプ先生と?スネイプ先生が来てなかったら他の誰かとハグだったのか?どっちも嫌だぞ。それにハグっていうのも……。うーんと少し悩み、私はスネイプ先生の様子を見つつそっと手を前に出しぎゅっとした。

「……何をしている」
「エアーハグです。あとちょっとで10秒たちます」
「愚か者」

辛辣。しかしエアーハグに効果はなかった。スネイプ先生も沢山魔法を使ったがどれも効果はなく、先生の眉間のシワがとんでもない事になっていた。ということは……えっほんとに……?
お互い黙って少し。舌打ちが落とされ、私の肩がスネイプ先生に引っ張られた。うっなんという強引さ。ばふんとスネイプ先生の胸あたりに鼻がぶつかった。うーと鼻を片手でさすりつつ、片手をスネイプ先生の背中側へ回しローブを掴む。

「貴様!」
「10秒くらい我慢し」
「黙れ」
「ぐっ……」

意外とスネイプ先生はいい匂いがした。石鹸の清潔な匂いと薬草の匂い。そしてローブの肌触りも良かった。するするローブを撫でると即手を抑えられたけど。くすぐったかったかな、申し訳ない。黙ってスネイプ先生と密着すること10秒。すごく長いあっという間だった。矛盾が酷い、私これでも混乱しているんです。
不思議なことに、時間が経つにつれ周囲の景色がぐるぐると回っていく。多分魔法が収束していっている。しかし見ていてめちゃくちゃ気持ち悪かった。そうしてぐにゃぐにゃの周囲がトントントンと整っていき、気づくと知っている廊下にいた。

「離れろ」
「ひぎゃっ」

ほっとするも束の間、スネイプ先生にべりっと剥がされぺいっとされた。私たちの目の前にある小さなボックスをスネイプ先生は回収していく。色々あったが一応助けに来てくれたんだなあ。

「スネイプ先生助けてくれてありがとうございました!」
「グリフィンドール30点減点」
「すみませんでした!!!!!」

それから毎日掲示板を見に行く私の姿があったとか無かったとか。ローブの肌触りの代償が大きすぎた。もしもまた同じような悪戯にかかってもスネイプ先生は二度とごめんである。