- ナノ -

ノットとハグしないと出られない部屋

ええ……。困惑に濡れた情けない声が出る。綺麗な文字が「ハグしないと出られない部屋」と窓に大きく書かれている。誰だよこれ書いたの。この部屋はどう見ても空き教室だ。っていうか空き教室だ。埃臭さハンパないし、すぐそこ寮だし。だって私さっき恐怖のスネイプてんてーから逃げようとここに入ったんだもん。なんであの人グリフィンドールの近くにいたんだ、怖いだろ。いや、スネイプ先生だって教師だし用があったんだろうけど。
しっかしなんつうイタズラだ、またあの双子か?しかもすぐバレるものを、あほらし。HAHAHAと鼻で笑い、さあそろそろスネイプてんてーもいなくなっただろうとドアを開けようとする。

ガチッ

「……え?」

ガチッ、ガチャガチャッ、ガチッ

「え?え?」

どんなに力を込めてもドアは開かない。ドンドンと叩き壊そうとしても、妖怪のごとく開かない。オォン!?私このドアから入ったんだぜ!?まさか、と振り返ると、目に入るのは窓の文字。……いやいやいやバカ言うなよ。無言で近づき文字を間近で見つめる。見たところマジックだなこれ、極太で書かれてる。流石に窓は開くだろうと力を込めるが、窓も開かない。椅子を窓に投げつけたら椅子が壊れた×3。

「そんなバナナ!」

「そんなだから野蛮と言われるんだ」
「ビョエッ!?」

背後から聞こえた低い声に驚き飛び跳ね思わず壊れた椅子の破片を投げつけると、声の主は「ウィンガーディアムレヴォオーサ」と私には到底発音のできない流暢さで破片を退かした。な、なに、魔法の上手な幽霊……?なにそれこわい。幽霊相手にどうすりゃいいんだ、なんてこったここが私の終焉!?ビクビクしながら振り向くと、どうやら幽霊はスリザリンの制服を着ていた。背はハリーと同じくらい、いやちょっと高い?まあ大体そんくらい。スリザリンの幽霊なら英語の流暢さも納得だ。しかしスリザリンか…きっとグリフィンドールの近くで死んだことに憤って幽霊になっちゃったんだね……。

「幽霊さんスリザリンまで送ってあげるからちょっと壁すり抜けて外から鍵開けてくれません?」
「俺は生きているが」
「ビョエッッ!?」

思わず後ずさった。生きてる?マジで?だって顔真っ白だよ?しかも私声かけられるまで気づかなかったんだよ?驚きの影の薄さじゃない?もしかしてミスディレしてた?

「……あなたは人の顔も覚えていないのか?」
「えっ知り合い?」
「面識はあるだろう。……ノットだ、セオドール・ノット」
「………………………面識ある?」
「はあ……」

大きなため息を吐かれてしまった。ご、ごめん。覚えてない。そもそもスリザリンで私の知り合いって言ったら、マルフォイくんとマルフォイくんのお供2人とマルフォイくんの恋人か知らないがよく噛み付いてくるガールとミスターフリルくらいしかいない。わあ驚きの知らない率。

「俺はドラコと行動することが多い」
「…………ほう?」
「数占い学はあなたと同じ時間帯だが」
「さっぱり思い当たりがない」
「そうか」

ノットくんは一つ頷きじっと私を見た。私も見返す。うーん全く覚えてない。私の残念な記憶力は今日も元気らしい。エブリデイ元気だけど。名乗ってもらったし、改めましてと自己紹介すると「知っている」と言われてしまった。デスヨネ。
ノットくんは優雅に杖を振り、私のせいで壊れた椅子たちを治してくれた。更にリメイクを加えて前よりも豪華なものにしてしまったし。木の椅子たちがふかふかのソファに……なんということでしょう………リメイクどころじゃねえな、どんだけ変えるんですか匠。治したどころじゃないぞ、原型が見えないぞ。そしてその匠のソファにノットくんは優雅に腰を降ろす。勧められて私も腰掛けた。無論端っこだ。といってもノットくんとの距離はメートルほどもないんだけど。椅子3つも使ってんだからもうちょっとソファ大きくしようよ匠。ふかふかが完璧なのは流石です匠。

「俺はもう1時間ほどこの部屋にいる」
「ワァオ」
「原因はアレだ」

ノットくんが指差す先には窓がある。つまりあの文字のせいと。あれって先着順だったの?なんてこったい。多分カップル用の仕掛けか、ということはどこかにカメラでもあるんじゃないか。そう思い見回すが、ノットくん曰く怪しいものは何一つないらしい。魔法センサー使ったから間違いないって。

「…………アー、つまり、私とノットくんが?ハグ?」
「そういうことになる」
「ワァオ…………」

なんとハードルが高い。ノットくんとはほぼ初対面なんですね(私にとっては)。ついでにスリザリンとグリフィンドールだ、いくら外人はフレンドリーだと言ってもハードルが高すぎるだろ。それにスリザリンでフレンドリーが発揮される条件は同寮でしょ?無理無理。ちらりとノットくんを見れば、ノットくんは涼しげに白い顔で開かぬドアを見つめている。
……出たいのか。出たいだろうね、私も出たい。しかし気まずい、気まずすぎる。

「……………ハグする?」
「気が進まない」
「ッスヨネ」

ダメ元で聞いてみるとノットくんは首を振った。即答。うんわかる、でもそれはちょっと傷つく。……仕方ない、誰かが来るのを待つか?

「アー、ノットくんさあ、なんでこの部屋に?」
「ピーブズに杖を盗られ、追いかけていたらこの部屋に」
「………杖は取り戻せた?」
「俺は先程魔法を使っただろう。……あなたは?」
「スネッ、ゴホンゴホン、とある先生をやり過ごそうと」
「スネイプ教授か」
「ウッ」

その程度で隠せると思っていたのか?と雄弁に語る視線を向けられサッと目をそらした。スネイプ先生がスリザリンの寮監だって途中で思い出したんだよお…おこ?おこになっちゃう?チラチラと様子を伺う。しかしノットくんはマルフォイくんとは違い寛容なようで、怒る素振りも見せず鼻で笑っただけだった。

「それで、どうするつもりだ?」
「なにが?」
「出る方法だ。ハグはしないのか?」
「したくないって言ったじゃん君。多分誰か気づいてきてくれるって、最悪消灯まで粘る」
「…それも嫌だと言ったら?」
「えぇー……ドアか窓か壁を破壊するしか……」

そんなんしたら何点減点されることかと遠い目になる。でもそれくらいしか思いつかない。仕方ないやるか、と立ち上がり腕まくりをする。よくある映画では大体爆破するけどそんなんしたら私たちがおっ死ぬし、地道に頑張るしかない。とりあえず一番丈夫そうな机を探し、よっしこれでやってみようと抱える。ガンガン行こうぜ作戦。ドアガチャと体当たりはダメ、窓に椅子もダメ、となると壁?やっぱ壁を壊すしかない?でも城の壁って重厚に……いいや蛇がぶっ壊したくらいだから私にも行ける!多分!気合いを入れろ!ぐ、と持ち上げて机を思いっきりぶつけた。
ドゴッ、バキッ、バキャバキャッ!

「……WINNER、KA!BE!」

うむ知ってた。しかし机のいい壊れっぷりに思わず壁に向かってゲッツした。わあ傷一つ付いてない。つようい。……これ地道にやってもいつ壊れるかだよねえ。消灯まで待った方が早くない?硬いってこれ。壁がやられる前にこの部屋の物がやられそう。うむむ、と顎に手を当て考えてみてもいい案は思いつかない。

「こっちだ」
「ん?」

ノットくんはいつの間にドアのところへ移動していた。いい破壊ポイントがあったらしい。私は椅子を片手に近づいた。ここだ、と指さされ、首を少し伸ばして見てみると、ドアの蝶番の部分が結構錆びていた。なるほど、確かにいけそうだ。よっしゃやるか。
椅子を引き寄せようとするとノットくんにぶつかってしまった。ごめんよ、でもぶつかると危ないから離れててね、と言う、その前にノットくんに抱きしめられた。

「オォン!?」
「何をしている、ハグだろう」
「え?あ?は?」

こいつは何を言っているんだ。ハグしたくないっつったのお前だろ。するんかい。蝶番はどうした。…しかしこれは好機だと私も彼の背中に手を回す。カチリと音がした。
その音が聞こえた瞬間、ノットくんは私を突き飛ばすように離しドアを開けた。おお、よっしゃ開いた!だがあまりのあっさりさに複雑ではある。まあいいや、とにかく。

「これで晴れて自由の身だぜ!」

「……ミョウジは、馬鹿だな」

いつもの廊下が見えることに謎の感動をしていると、ノットくんは笑いながら怒るという妙な顔をしてそう言った。そして私が驚き彼を見ると、一瞬ブラウンの瞳と目が合うも、ノットくんはサァーッと廊下を走って行ってしまった。その後ろ姿をぽかんと見送る。

「……ハァ?」

なんだあいつは。意味わからん。情緒不安定なの?とりあえず壊れた机がかわいそう。しかし私には治せる技術はない。そっとご臨終した机に手を合わせ、もう巻き込まれるものかとさっさと私も退散した。
そして後日、あの空き教室を興味本位で覗くとあのソファと共に豪華なランプとこれまた立派な机があった。……匠の品増えてるう。