大勢の前で本音を暴露しないと出られない部屋

「あーむかつくマジむかつく」
「そんなにムカついてるの?」
「ムカ着火ファイヤー程度にはむかついてる」

ケッと態度悪くぶつぶつ言いながらあんまり美味しくないオートミールをかき混ぜる。ロンが「ムカチャッカ?何語?」と言いハリーが首を傾げた。あまりにもずっとかき混ぜているためかオートミールはぬっちゃぬちゃで、心配そうにしていたハーミーは一転して「食べ物を粗末にしないの!」と怒られてしまった。すみません。私が悪い、私が悪いのはわかっているがどうもむかむかしていると素直にいかない。少し拗ねながら大人しく食べるが、あんまり美味しくないそれにまたむかむかした。悪循環極まりないが、それもこれもスリザリンのあやつのせいである。

それは昔々のことじゃった……まあ正確には一昨日のことだ。なんの理由もなく恋人に冷たくされた。……あっ恋人ってあれですよ、あのー、アベック…的な?小指立てるアレな、恋人。そう、恋人、どうやって出来たのかとかそういうこと言い始めるとながーい、なっがーい話になるから割愛するが、私にはその、恋人がいるわけだ。今、ナウで。ホグワーツに。同級生の……年齢とか気にはしてるんだよこれでも、してんだけどこう、クッサイこというと気づいたら落ちてたやつで……うわあああ恥ずかしい!恥ずかしい恥ずかしい!いいんだよそんなことは、だから、あー、その、とにかく今私には恋人がいるんだ。
一昨日は普通の日だった。魔法薬学で鍋と台を溶かしてめっちゃめちゃ減点されたくらいで、ほぼ変わりない日常。無論減点された分はハーミーさんが他の授業で取り返してくださった。減点された分+5くらいで取り返してくださった。マジハーミー様様一生ついていきますーーってそれはいい、それはいいとして、そんな感じでふっつーの日だったわけだ。授業終わって放課後のこと、恋人に借りていた本を返そうとあやつの寮の近くに行ったらたまたま会って、そのまま本を返そうとした。

『あ、ノット。ほい、これ本ありがとう』
『……ああ』
『まさか一家離散エンドだとは…最初ウキウキだったぶん続編読むのちょっと怖いわ。あの借金男死んでないよね?ね?』
『さあな』

そんな会話だけであやつはじゃあな、とだけ残し寮に帰っていった。いつもなら私がぺらぺら話す感想をじっくり聞きたがるのだが、それもなかった。そもそもあやつが私との会話を早く切るのは珍しかったし、あやつは私がスリザリンの近くにいようが律儀にグリフィンドールまで送ってくれる紳士だった。にもかかわらず、その日は即お別れでーーまあ、私は珍しいなあ程度にしか思ってなかったんだけど。忙しいんだろうなって感じ、いつもは私のペラペラおしゃべりに付き合う程度には暇だったんだろうし…そんな認識だった訳で。
その後あやつは会った時に、会話という会話をしようとはしなかった。1度だけでなく何度もだ。私と目も合わせなくなったし、かといって普通に別れたら別れたで何回か振り返りこっちを見る。なんだろう?と手を振ってみても無反応。よくわからん。そのよくわからん状態が続きなうとなる。
別に何か言いたいことがあるんなら言ってくれりゃあいいのに、何も言わずこっちを見るだけで。挨拶もせず、しかし目は合うっていうもどかしさったらない。イライラする。はっきりしてくれ、わかんないから。付き合い始めてからやっと視線に気づくようになった、それくらい鈍いんだと自覚はしたけどさあ、感情を察すまではまだレベル足りないんです!レベ上げしないと、まだマップさえ解放されてないんです!ホグワーツマジ広すぎ。そして話それすぎ。

オートミールの最後の一口を口にすると、ハリーがナプキンをくれた。ほっぺついてた?ありがとういい子だね。ふと顔を上げると、スリザリンの席が目に入りちょうどノットと目が合った。ほらまただ、目は合うんだ。ぼーっと見ながら、もらったナプキンで口元を拭う。何故かだんだんノットの顔が歪んできた。えっなに!?
ガタン、と椅子が音を立て、ノットが立ち上がった。やつはなんかめっちゃ怖い顔をしてまっすぐこちらに向かってくる。

「えっ!?ちょちょちょまっ、こわ!」
「あなたノットに何したのよ、彼すごく怒ってるじゃない!」
「何も覚えないから困ってるんじゃん!」

「そうか、覚えがないのか」

気づけば机を挟んだすぐ向こうで、ノットが低い声を出してマジおこモードで腕を組んでいた。なんだよ移動速度はええよ!こわい!眉間にしわがすごい!
突然冷たくなったと思えばこうして激おこになるってんだから情緒不安定なの?生理?私何かしたのか…?

「俺とお前は、恋人のはずだが?」

「……は、はあ」

ソッスネ。素直にうなずく。しかしあまりのストレートな物言いに少し頬が熱くなる。大広間でいうことじゃねえだろ恥ずかしいな…。視界の端で名実況者リーがスプーンをマイクのように構えた。待て、やめろ、楽しそうな顔をするんじゃない。
そんな私の焦りを置いてノットは「お前は、俺の恋人だな?」と再三確認してくる。

「そ、そうですね」
「俺たちは想いあってるはずだな」
「そっ!?な、なに言ってるんだねチミは…ちょっと場所変えましょうよミスター」
「バカ面白いとこだろここにいろよナマエ!」
「見世物じゃねえからあ!?実況は引っ込んで!?」
「俺の気持ちを疑っているのか?」

……はい?リーに言い返した横でよくわからない言葉が聞こえ、固まる。ノットの気持ちだと?疑ったことないですけど…疑うこともないですけど……。ノットは怖い顔のまま溜息を吐いた。

「俺は、ナマエが他の男をいると気に食わない」

ピシッ。身体が硬直した。ななな……なにをいって……!?

「寮が違うことは理解しているが、ナマエはずいぶん同級生に心を許しているらしいな。ポッターたちと仲が良いことも知っているが、距離が近すぎるとは思わないのか?俺が他の女子生徒といるところを見て、なんとも思わないのか?」

何かを耐えるような表情で言葉を連ねるノットに、はくはくと何も言えないまま息を吐いた。は…はああ……?恐る恐る横を向くと、実況者はほおおと興味深そうな顔をしており、ハリーはにこにこの笑顔、ハーミーは同情したというようにノット側へそっと移動した。ロンはというと、心底つまらなさそうに頬杖をついていた。まさかのハーミーの裏切りおにぎり…わたしはきずついた……。
た、確かに距離はちか…近かったか?確かに少し動いたら手がそっと触れる程度の距離間は近いのかもしれないが、いつでもそうだったわけでもないし…。しかし、おそらくそれが原因?問題?マジかよ。

「つまり、嫉妬……?」
「ああ、そうだな。俺だけのようだが」
「ノットが女子生徒と……いたっけ……」

よくよく思い出そうとしても全く記憶にない。大体スリザリンは集団移動がほとんどだからどこに女子がいようと気にしたことなんぞない。でもノットが言うくらいだから女子といたことが多いってことだろう。思い出せずううんと頭に手をやると、「あなたそういうとこよ」「さすがにかわいそうだわ」「鈍すぎよね」とガールズの声が聞こえた。まことにすみません……。ちらりとノットの顔を見ると、ノットは複雑そうな表情のまま、少し悲しそうに眉を下げた。ぐっ、良心の呵責!悪いことしてないけどしてしまった…私はいたいけな青年を傷つけてしまったというのか…。

「ナマエ思い当たるところが多く言葉に詰まる様子!ノットと破局の危機か!?」
「キスしろキスー!」
「バッカ別れたらキスもなにもないだろ」

ごめん、と謝ろうとしたところで外野がやんややんやと騒ぎ立てる。う、うるせええ!今話し合ってんだわさ!おとなしく待ってろってばよ!っていうか大広間が問題なんですけどね!?なんでこんな公開処刑を受けているんだ私は。

「ん゛んっ……えー、ミスターノット、この度は誠にすみませんでした……。ちょっと場所変えて話そう?ね?ここじゃほら…悪魔のグリフィンドールっ子とか君のお仲間とかもいるから…」

「おい待て逃げる気かよナマエ!」
「ノットはその悪魔たちの前で言ったんですからね、ナマエだって本音を言うべきでしょ!」
「言えー!キスしろー!」

「やめろおまいら!最後のはキスが見たいだけだろ帰れ!」

「ナマエは、みんなの前で言えるほど俺を想っていないということか?俺との関係は人前で抱き合うこともキスも出来ないような仲だったのか?」

ばっ、なにゆえそう話をややこしくストレートに言うんじゃ……!やめろー!静まりたまえー!しかしノットは静まる様子なく私を見続ける。私はと言うと、もうさあ、恥ずかしくて顔が熱いよ。少しどころじゃなく熱いっつの、どうしてこう外国人はストレートに物を言えるんだ。こちとら好きなんて滅多に口にしないジャパニーズだぞ、無茶ぶりにも程がある……。ぐっと唸って手で顔を覆う。……待て、シャッター音が聞こえる、やめろコリン撮るんじゃない。
「言っちゃえよナマエ!」「男を見せろ!」「さあナマエのターンだ!恋愛経験皆無のシャイガールは俺らの前で愛を誓えるか!?」「ナマエがあんなに真っ赤なの初めて見たわ!」しかし外野もうるさい。誰が恋愛経験皆無じゃゴラ。ていうか、ちょ、マジで、こんな公開処刑マジかよww……ノット移動する気無いし外野盛り上がってるしもう腹括るしかないのか…。クソ、あとで全員覚えてろ。

「……あー、ノット、その、……今までの私の態度で傷ついていたなら謝る。ごめん。それから、私たちの関係、については……」

「……………」
「……………」
「……………」

「……っあ゛ー待ってやっぱ無理こんな空気で言えるか!!」
「言ってくれ」
「こんなシンとした中で!?」
「言ってくれ」
「ぐっ……ぬぅう……」
「言ってくれ」
「……わ、わかったよ!ちゃんと好きだよ!じゃなきゃ付き合ってないし!」

でも人前で抱き合うとかキスはハードル高いんで無理ですごめんなさい!そう叫ぶように言うと、「ゴォーーール!」とリーの高い声が響く。何がゴールじゃ!と反射的に言いそうになったところで、手をグイッと引かれ身体が傾く。頬にふにっとしたものが当たった。そちらを向けば至近距離にノットの薄い笑みがある。きゃあきゃあとガールズたちが盛り上がっている。
は…………?ノット、なんだいその笑みは、もしや、チミ……

「言わせたかった、だけ……?」
「ありがとうナマエ、愛している」

てっ、てんめえええええ!!!

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