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結局ハリーが戻ってきたのは、ハーミーが「少し横になるわ、ハリーが来たら呼んでね」といいベッドに向かってからだった。しかしハリーは心底疲れた様子で、話すこともなく人をかき分けて部屋へ戻って行った。おやすみ、と声はかけたが、あの様子だとゆっくり眠れたか怪しい。そんなことを考えながら寝起きでボーッとするまま談話室へ降りるとロンと鉢合わせした。

「早起きじゃん、おはよう」
「……おはよう」

堂々と胸を張り言えば、ロンは不機嫌そうにしながらも挨拶を返してくれた。しかしこの様子だとアレだな、一悶着あったな。スタスタと寮を出ていくロンの背中にため息を吐いた。

「あっ!ナマエ!ナマエだ!おはようございます!」
「うおっびっ、くりした……アー、おはよう」
「ハリーはどこにいますか!」
「知らんけど」

後ろから大きく話しかけられビビった。振り向けば、いつか医務室で共にいたことのある少年がキラキラと眼を輝かせ、カメラを引っさげている。名前なんだっけな少年。

「僕ハリーと写真を撮りたいんです!ハリーはもっと英雄だ、誇らしいなあ、ねえそう思いません!?」
「朝から元気だね…。誇らしい、うーん、どうだろう。ハリーにも事情があるからね」
「ハリーが来たら教えてください!あっ、ナマエも今度一緒に写真撮りましょう!」
「うんうん聞いちゃいないな。写真は事務所通してねー」

弟が起きてきたとかでササッといなくなった少年を手をひらひらと降って見送る。さて今度こそご飯だ、とまた振り返ればハーミーが出口側に立ちこちらを見ていた。小さく手を振られ、そのまま振り返す。

「おはよう」
「おはようナマエ、早いのね。ハリーは?」
「まだ来てないっぽい。昨日遅かったし、……寝れてるといいんだけど」
「…そうね」

話しながら寮を出て大広間に向かえば、否が応でも状況の悪さが把握出来た。グリフィンドールへ向けられる視線だけでも嫌味がこもっている。笑われるよりよほど痛いものだ。大広間につく頃にはハーミーの眉間にシワがより、私も内心26回くらい舌打ちをしていた。大広間では視線が更に増える。赤いローブを見て、ハリーかと皆が視線を寄せてくるのだ。こっち見んな。なんだモンキーか、という声の主はダムストランクの制服からだった。オメーは関係ねえだろォォ!と威嚇するようにそいつを見て聞こえるように舌打ちをすれば、ハーミーに「落ち着きなさい」と手を引かれた。
奥の方にディーンたちとロンは座っていたが、こちらには一瞥もくれず、そしてハーミーはロンの元へは行かずにグリフィンドールの中に紛れるように座った。不穏な雰囲気ですね。とりあえずコップに牛乳を入れて一気に飲み込む。

「……あんまり良くないね」
「ええ。嫌な感じだわ。でも、こんな中でも胸を張るグリフィンドールはやっぱり強いのかしらね」
「ある意味寮に感謝だね」

スクランブルエッグをよそい、フランスパンをじゃがいものスープに浸して食べようとしたとき、目の前に金髪の男子が来た。制服は黄色、ハッフルパフだ。

「君はハリーポッターの味方をするのか」
「……私に言ってる?」
「ああ、そうだ、ハリーポッターと親密な君に言ってるんだ」

体はひょろいが身長はある。というより誰だこいつは、と見ているとハーミーがこそっと耳元で「ザカリアス・スミスよ。同学年の」と教えてくれた。同学年ということはおそらく薬草学では同じ教室内にいたはずである。うむ、覚えていない。そもそも私の友好範囲が未だ狭いからな…いやぼっちが残る発言はいいんだって、置いといてですね。

「グリフィンドールは愚かだ、君も噂通りの猿頭だな。ズルをして代表選手になったハリーポッターに味方するのか」

ハッ、と鼻で笑われる。その青い目にイラッと来た。ズルをしてぇ?代表選手になっただぁ?

「喧嘩売ってんの?」
「事実を言ったまでだ」
「ハリーは入れてないとはっきり言った、一緒に行動してた私たちも見ていない、何よりダンブルドア先生たちが驚いていた。……愚かなのはどっちだ?なあスミスくんよ、この猿頭に教えてくれませんかねえ、どうやったら校長先生のかけたつよぉーい魔法を破ることが出来るんですかねえ?」

座ったままガンをつけて言い返す。嫌味ったらしく、挑発するように言えばスミスくんは顔を赤くして怒り始めた。

「校長先生の魔法を破れるんならハリーは大天才だな、変身学に手こずることも呪文学に苦戦することもないはずだけど」
「そうしたらおかしいわね、変身学でハリネズミを針山に完璧に変えられたのは私だけのはずよ」
「残念ながらそうなんですよねえ」

私もぜーんぜん出来なくてね、といつものようにへらりと、ではなく、ニヤニヤと笑えばスミスくんは私を睨みつけ、「だがハリーポッターが代表選手になったのは事実だ!この卑怯者共!」と捨て台詞を吐きお仲間のところへ消えてった。やーい負け犬やーい。べ、と舌を出して見送ってやればお仲間ハッフルパフから睨まれたようなので睨み返したらハーミーから「落ち着きなさい、今のあなた番犬みたいよ」と言われた。猿から犬に進化した。……進化か?

「それと残念なんだけれど…今のあなたの威嚇で視線が集まったわ」
「え、マジ?ってか今ハーミー威嚇って言った?」

慌てて周りを見れば確かに誰かしらと必ず目が合い、そして逸らされた。逸らされなかったのはダムストランクのクラムくんと、その隣にいたマルフォイくんだ。意外なことにマルフォイくんは目が合うと不機嫌そうにしながらも鼻で笑いはしなかった。いつもならあのタイミングで「モンキーはバナナでも食べていろ」とか言うんだけど。不思議に思いながらも、しかし心の中でハリーに謝った。すまんかった、多分私更に状況悪化させたかもしれん。わざとじゃないんだ許してください…。

「はあ……ハーミー、ご飯どれくらい食べた?」
「まだヨーグルトだけよ」
「なら食べ物見繕って持ってってハリーと大広間じゃないとこで食べて」
「……そうね、ここにハリーを連れてくるのは危険だわ」

私の提案にハーミーは頷き、ナプキンにトースト数枚と固形のおかずを包み、席を立つ。残ったヨーグルトは食べて、と半分ほど減ったミニボウルを受け取り席を立つハーミーを見送った。ブルーベリージャムが入った甘いヨーグルトを一口食べて、深いため息が出た。




「さらに有名になれて良かったじゃないかポッター」
「レイブンクローは関係ねっっっだろォーがよォォ!!」
「ナマエ!ハウス!」

それからというもの、ハリーは(グリフィンドールの強い子達を除いた)全校生徒がマジで敵になったような生活をしていた。他校からホグワーツがずるしたずるい奴みたいな目で見られ喧嘩を売られ、グリフィンドールの一部にはハリーが名前を入れたことに憤る人がいて、ハッフルパフは自陣の代表選手よりも目立ったアンドずるをしたと目の敵にし、レイブンクローは関係ねえくせにハリーが目立ちたがりで名前を入れたと思っているらしい。えっバカ?バカなの?年齢線のことわかってないのバカなの?まあ私も年齢線とかよくわかんないんだけど。盛大なブーメランである。あ、スリザリンはおはようからおやすみまで、今までもこれからもグリフィンドールの敵らしいので数に入れておりません。
だが今のところ私が過去にされたような嫌がらせはされていないようなのが一安心だ。とはいえ視線と陰口も言われ続け聞き続ければ精神が傷つく、ハリーはよく耐えている頑張っている子だ。こんなとき、信じる友が仲間なら心強いが、……残念なことに、あのロンが、あのロンくんがハリーを信じていないらしい。口は聞くがどこかよそよそしい雰囲気。ハーミーと私が間を取り持とうとしてもロンと私が口論を繰り広げるだけだった。そのうち私は自らハリーの負担を少しでも減らせるよう役目を担っていた。そう、番犬ならぬ番猿である──。

「グリフィンドール1点減点」
「あぁん次はどいつ──ぎゃっスネイプ先生!」
「グリフィンドール1点減点」
「まっ、えっ、待ってくださいこれには深いわけが、」

レイブンクロー生を追い払ったところで後ろからの声に振り向けば、そこには猿にとっての犬がいた。慌てて弁明しようとすれば手に持っていたボードでバコンと頭を叩かれる。体罰反対だぞ!これ以上バカになったらどうするんだ!

「貴様、ボーバトンの生徒を泣かせたと話を聞いた。マクゴナガル先生がお呼びだ」
「うっそ、そんな覚えな──あっこの前の子ボーバトンだったのか……」
「覚えがあって何よりですな。ポッター、飼い猿の躾を怠るな」
「そんな!ナマエは猿なんかじゃ、」
「口答えをするな。グリフィンドール3点減点」

慌てて自分の口とハリーの口に手を当て塞ぐ。そんな私たちを嘲笑してスネイプ先生はすたすたといなくなった。図書館に行くのもままならないハリー。なんて苦労しているんだ。

「……泣かせたの?」
「言い返される覚悟なしに文句言っちゃだめなんだぞ」
「……ナマエを見てると落ち着くよ、そのままでいてね」

はは、と死んだ魚のような目でハリーは笑った。お疲れですね。

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