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ずるり、ずるり、鈍い音は続き、静かな廊下に静かに響く。私たちは反射的に立ち止まった。ひゅっとハーミーの喉から、変な音が鳴る。はは、これはやべえ。やべえデジャヴ。前と違うのは、致死性だろうな。目と目が逢う瞬間=死とか。詰んだ。

「ひ、ナマエ、」
「……大丈夫、そのまま」

ハーミーの震える手をそっと握り、私の手の震えを誤魔化す。強く握り返され、彼女の恐怖が痛いほどわかった。私はアホだからやべえとしかわからないが、ハーミーはおそらく深い恐怖を味わっているのだろう。しかし単純に考えれば、要は目を見なければいい話。あの本的に考えると、目の角膜を通して直接脳内に魔力が達することによって死に至るもしくは石になるんだろう。多分。今まで見た人しかいないからああいう風に書かれていたんだろうけどさ。多分。今のところ見てないけど音は聞こえるし、確実に奴はいるはず。でも私たち石になってないし、姿を見ずにいれば問題ないんじゃないかな。多分。そのくらいのハンデ欲しいよね。強すぎる敵が配置されてちゃ堪んないんだよそれじゃあただのクソゲーだ。
は、と薄く息を吐き、繋いでいた手を離すとハーミーの目に両手を置き、彼女の視界を防ぐ。そして私もしっかりと目を閉じる。瞼の裏でちかちかと明かりが瞬いた。

「ナマエ、だめ、あなた、」
「大丈夫、大丈夫だよハーミー。私も目を瞑ってる」
「ナマエ、しんじゃいやよ!」
「死なないよ。大丈夫。少しの間だけだよ」

適当に誤魔化しているが、ここで私が思い出した重要なことを聞いて欲しい。毒蛇ってことは咬まれたら終わりということに。あいつマジチートスペックかよ。ラスボスにしても強すぎる。私たちのレベリングがついていけてないんだなあ。ちょっと出直してほしい。三世紀くらい前に来てくれ。

ずるり、と音はどんどん近づいてくる。それと同時に、しゅるる、という音も微かに聞こえるようになった。確定。わかってたけどハイ確定。わかりやすい自己紹介をありがとう。
どことなく冷気が広がる。ぶるりと身体が震えた。ハーミーは息を潜めているし、私も呼吸音をなるべく消している。でも蛇って鼻いいらしいし、私たちの方に向かってきているのは確実だ。
それでも、私は逃げられると思っていた。なんだかんだで甘ちゃんなんだろうな。最悪至近距離で目を瞑ったまま攻撃ぶっぱなせばなんとか出来そうな気もしなくはないし。きっとそう考えた時点で私の中の恐怖指数ば爆高で、アドレナリンが分泌されていたんだろう。ハーミーから片手をとり、片手で杖を握った。杖を下に向けて、水出ろ出ろ出ろとゴリ押しする。足元が濡れた。

ぬちゃり。

水が出たタイミングで肌に湿ったものが触れた。

ぐ、と喉から声が出る。
ぬちゃり。ぬちゃり。足に何かが巻きついた。あまりの気持ち悪さに反射的に目を開けてしまったのは本当に馬鹿としか言えない。水を出していた部分ではグッジョブ。そしてハーミーごめん。

シュルルル

「オラアアアアアア!」

水越しに見たバジリスクとやらは、絵とは微妙に違ったことをここに報告しておきます。

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