04

「ちょっと、モンキーちゃんとしなさいよ!ウィンナーも食べられないの?」
「んー…」
「Get up already!」

朝はとてもだるい。陽の光が眩しい。どうして寮の中に食堂を作らないのか。何故グリフィンドール(覚えた)の寮は塔のてっぺんという日当たりが良好過ぎる場所にあるのか。ちょっとこの城設計おかしくないっすか。
私は低血圧――というより、普段からの食生活だとか運動不足だとかそういうのが関係して、どちらかというと血行不良だ。言い訳だけどね!朝が苦手なんだよね!寝起きがめっちゃ悪いのは有名なお話。あんな寝相しといてこれかよっていう。
がやがやと朝でも元気な子供たちの声(英語)をBGMにもそもそとサラダを食べる。とても目がしぱしぱする。傍から見れば完全に半目もしくは白目だろう。つまりほぼ見えてない。ねむい。

「ちょっとアリア、言いすぎよ」
「そんなことないわ。ねえ、それより見た?今朝の掲示板」
「ええ、見たわ。飛行術でしょ?」
「スリザリンと一緒なんて反吐が出ちゃう!」
「サーシャ、口が悪いわ」

それにしても英国飯ばかりだとやはり飽きるというか、ホームシックになるというか。ソイソースをくれ。私が欲しいのは唐揚げだけどフライドチキンではないのだ。唐揚げとフライドチキンって同じ鶏で揚げっていうのにこうも違うんだから料理って不思議。あー、もー、唐揚げ食べたい、めっちゃ食べたい。生姜多めのやつ食べたい。レモンをきゅっとかけて召し上がりたい。あっでも朝からはいいです、無理です吐きます。

「……ねえ、あれどうしたのかな?」
「え、なに?…マクゴナガル先生だわ」
「近くにいるのは…ポッター?いやね、また何かあったの」
「マルフォイもいるわ」
「はあ、じゃああの2人で確定ね」
「今からああでこのあとの飛行術は大丈夫なのかしら」
「それより前に魔法薬学もあるのよ」
「もう、どうして男の子ってすぐ揉めるのかしら。乱暴だわ」

それよりも飲み物だよな。炭酸水もそろそろ飽きてくる。そもそも私あんまり炭酸水好きじゃないし。とはいえオレンジジュースとか論外。かぼちゃジュースなんて圏外。日本茶、ジャパニーズグリーンティーが欲しい。厨房の意見箱とかリクエストとかないんですか。流石にお酒は…ねえ…。
しかしやはり眠い、眠いのだ。味はわかるけど眠い。昨日DADAのレポートに詰まりまくったせいだ。くそ、あのニンニク野郎め。あっ餃子も食べたい。そういえば何故中華料理がないのか。




ぎゅるるるる

「……ミスミョウジ、ふざけているのかね?」
「いえ全く。お腹も私も大真面目です」
「グリフィンドール1点減点」

ワァ流れるように理不尽!さっすがスネイプ先生今日も調子いいっすねひゅ〜!
なんだか今日一日眠たすぎて3回も何もない所で躓くわ階段には目の前で移動されるわでツイていない。睡魔にプラスしてめちゃくちゃお腹が空くと来た。お昼ご飯を食べた後すぐのはずの魔法薬学でいきなり鳴るとはどういうことか。ちょっと働きすぎじゃないか私の消化器官。
私若い頃にこんなことあったっけなあ、と首を傾げながらなんちゃら蜘蛛の死体から脚をポキポキ折る。胴体だけ必要ってこれ取った足はどうするのか。……そういやどっかの国、確かカンボジアだっけ。で、蜘蛛食べるんだよな。フライにするとかなんとかで……いや、美味しいのかね。確か食べるのは、あー……なんていったかなー…タランチュラの一種だったはずなんだけど、食用で……。ああダメだ、思い出せない。

「ミスミョウジ、教科書をしっかり読むことをおすすめしますぞ」
「はあい。えーと、右にゆっくり半回転、左にゆっくり2回」
「それがミスミョウジにとってゆっくりというのかね」
「ウィッスすんません」

だからそのゆっくりとかやめて欲しい。切実に。チクチクとうるさいし。マジで小姑かよ。しかし、なんて言ったか、食用蜘蛛の名前が小骨のようにひっかかって抜けない。普段なら気にしないんだけどな、えらくお腹が空くからか気になって仕方が無い。うーむ……。

魔法薬学のあとでも私の小骨は抜けきらないまま、唯一理解でき…いや、出来はしないがまあ成績がいい方なんじゃないかと思われる魔法史もほぼ無駄にしてしまった。ごめんなさい先生。でも小鬼の反乱って長くない?あの教科書の小鬼に関してのページ数すごくない?100年戦争ですかレベルなんだけど。いや、もっとか。小鬼ってRPGではかなりの雑魚的位置だと思うんだけど現実は違うんですね。あれ、現実…?いや、いいや、それはもういい。それより今は蜘蛛が気になる。あと少しで出て来そうなんだけど出てこないこのもどかしさ。

「何をボヤボヤしてるんですか!箒は上がれと言わないと来ませんよ!」
「へっ!?あ、はい、すみません――上がれ」

蜘蛛の事ばっかり考えていて全然聞いていなかった。なんとか人の波についていき無事授業に出席しているようだが、これは…箒?白髪頭のきつそうな先生に強く言われるがままに言えば、謎のきったない箒が私の掌にバシィッと体当たりしてきたので思わず握り締める。びびった…心臓バクバク言ってる…。え、魔法の箒ってこんなんなの?某宅急便の魔女っ娘の箒と全然違うっすね。ハッ、まさかデッキブラシでも…!?
箒を無事ゲットしたのはいいが、どうすればいいのかわからず周囲を窺うと皆一列に並んだ箒相手に「上がれ!」と連呼している。私はどうやらラッキーだったらしい。見てみれば、箒が逆方向に転がって言ったり、攻撃的らしく顔に向かってアタックしてきたり、苦戦している子ばかりだ。特に何も動こうとしないツンツンタイプは見ていて少し胸に来るものがある。えらくやる気がないのか意地悪なのかどっちだ。にしても箒も意思を持っているとは、これはそのうち箒の擬人化ゲームも出るのかもしれない。期待。

「注目!」

先生の鋭い声につられてそちらを見れば、先生が箒に跨りお手本を見せた。ぶっちゃけその座り方股間がめっちゃ痛そうだけどそこのところはどうなんだろうかと。少なくとも長時間運転には向いていなさそうな。

「ミスミョウジ、その持ち方では箒が怖がります。こう、優しくお持ちなさい」
「は、はあ…」

生徒一人一人に持ち方のアドバイスをする先生に謎の言葉を掛けられ「?」を舞わせながらも言う通りに持ち方を変えると、先生は頷き満足そうに他へ行く。箒が怖がる。ふむ、なんかごめんな。そんな気分で軽く箒をぽんぽんと叩けば、風なんだろうが穂先が軽く揺れた。
それから少しして、実戦に入るらしい。笛を吹いたら飛んで、2mくらいの位置まで行ったら降りるらしい。2mといったら校長先生よりちょっと高いくらいかね。いや、もっと低いか?外人は皆背が高いからわかんないな。

「行きますよ、1、2――」

ぴゅー!っと鳴るはずだった笛は鳴らずに、代わりに先生の「降りて来なさい!」という大きな声がした。うまく位置がわかんないなともぞもぞとしていた私の視線は大体が芝生だったので、なんだなんだと上を見ればひらりと赤色が見えた気がした。――あれ、もしかして生徒か?
ひゅっと血の気が引く。待って、超高くない?先生降りて来なさいって言ってる場合じゃなくない?すごい、本当豆粒程度にしか見えない距離なんだけど、初心者でしょ?もし落ちたら――うわ、やだ、やば、考えたくねえ、絶対痛い折れるし下手すりゃ死ぬじゃん、えっ大丈夫なの!?
しかし私の焦りは当たってしまった。
目の前でドサリと落ちる少年、の腕からは周囲にもわかるくらいの音がした。ぐ、と歯を食いしばる。すごく、いたそう。少年が泣くのも当たり前で、すでに腫れだしているその腕は酷く痛ましく見えた。うう、痛い、あれは痛い…。先生と共に医務室へ行く少年の後姿を見送る。彼はグリフィンドールらしい、空から見えたあの赤色はローブか。後でお見舞い行こう…あっでもモンキーが来ても何しに来たんじゃゴラァってなるだけか。匿名でお見舞い品を献上することにします。

「あいつの顔見たか?あのマヌケ!」

ふいに声が聞こえた。複数の嘲笑に苛立ちを感じてそちらを見やれば、お約束と言うか、グリフィンドールとは仲が悪いということで有名なスリ…スリ…スリザ…?だめだ、憶えてない。まあ緑の寮の子らが笑っている。…うそだろ魔法界、マジかよ。目の前で危うく死ぬかもしれないところを見たって言うのに笑えるとは、ちょっと教育としてどうかと思うぞ。自然と眉間に皺が寄る。胸糞悪いな。

「見ろよ、ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ」

スリなんちゃらでのガキ大将っぽい子が何かを持っている。なんか丸っこい、バカ玉ってなんだろうか。人が多くてよく見えず目を細めて凝らす。
よくわからず展開を見ていると、眼鏡の、えーと確かスネイプ先生にめっちゃいじめられてる子が制止に入った。「渡せよ!」とか言ってるから何やらもめてるらしい。流石にここまで声は聞こえてこない。あるよねー、先生がいなくなった途端始まる喧嘩。
子供あるあるーと見守っていると、なんとガキ大将くんと眼鏡くんも飛び上がってしまった。えっうそ。マジかよ、箒…ええ…。一生懸命栗毛の女の子が止めようとしているが、聞きやしない。ハラハラと飛ぶ二人を見ながらちらちらと誰か先生に助けを求めた方が良いんじゃね?え?と廊下の方を見ていると、どこかで見たことのあるエメラルドのきらっきらしたローブが廊下の端っこから覗いているのを発見した。理解。なんだ先生見てんじゃん、これなら大丈夫――と思ったその時、眼鏡くんの箒が急降下した。ぎゃあああ当たる、当たる、頭から突っ込む!!
首折れんじゃねえ!?と慌てたところで、眼鏡くんは何故か何事も無かったかのように戻った。……えっ?

「ハリー・ポッター!」

まさかの何事も無く収まった事態にぽかんとアホらしく口を開いていると、エメラルドローブの主――変身学の先生であるマク、マクド、違う、マクドナルド先生、違う、……マクなんちゃら先生が来た。えらくお怒りの様子で、勢いよく歩いてきて眼鏡くんを引き連れて校舎へと行ってしまった。は、早い、展開が早い、ついていけない。でもこれ多分普通に考えて医務室へ行ってるよな、大方検査だろ。お説教もあるかもしれないけど。と、そこまで考えたあたりでハッとした。
そういやガキ大将君には何もないの?マジで?

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -