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大鍋用の洗剤の匂いがついた手にアリアから借りた香り付きのクリームを塗る。結局消灯ギリギリまでかかってしまった。固形があまりにも固すぎてな…いっそ消失させた方が早いレベルだった。消灯ギリギリになった上に追い出されて走ったところで階段は私を置いていきフィルチさんに見つかったしな。減点だけで済んでよかったわ。
そして泥のように眠ること休日、気づけば日は傾き空は暗くなり始める。最高の休日を過ごした反面変身学のレポートを思い出して泣きたくなる。最近宿題多すぎィ……。

「ちょっと、いい加減起きなさい。夕食も食べないつもり?大体今日は選手発表なのよ」
「クールガールも三大なんちゃらはお好き…?」
「ホグワーツが一番と証明出来るなら好きになってもいいわ」
「相変わらずソークールガール……」

眠い、と全身で訴えてもアリアはクリーム貸してあげたわ、と言い私を引きずる。仕方なくジャージに着替えようとすれば、アリアから他校もいるのよ!信じられない!という顔をされ、仕方なくジャージ以外の数少ない服を着た。思えば私ほぼジャージと制服で暮らしてるな。 そして大広間につきアリアがどこぞの席に座ってしまいぼっちでいるとハリーに引っ張られロンの向かいに座ったところで私は気づいた。気づいてしまった。

「今日ハロウィンじゃん!!!」
「何言ってるんだよ、当たり前だろ」
「帰る」

いや無理です帰る。立ち上がると、隣のハリーに手を引かれまた着席させられる。コントかよ。

「ナマエがハロウィン嫌いなのは知ってるよ、でも今日くらいいいじゃないか」
「嫌」
「選手発表を聞かないなんて一生後悔するぞ」
「あとで教えてくれればオールオッケー」

ハリーは私の手を離そうとしない。離してくれない。私が負けた。机には料理がずらりと並んだ。右から左までかぼちゃのロースト、かぼちゃのポタージュ、かぼちゃのテリーヌにパンプキンパイ、パンプキングラタンにあれはなんだ?

「かぼちゃのマーマレードバターよ」
「ここは地獄だ……」
「ほ、ほら、ナマエ、これなら食べれないかな、チョコレートケーキだよ」
「……かぼちゃ入りなんでしょどうせ…」
「あれは和食じゃないかしら。これなら食べれる?」
「わあかぼちゃのきんぴらだあ……」

お腹は空いているものの、世界にかぼちゃと雑草しか無くなったなら私は雑草を食べるであろうほどに嫌いなかぼちゃだ。食べる気にはならない。仕方なくハリーからチョコレートケーキを受け取り一口だけ食べる。……匂いがかぼちゃだ。味はしない。匂いだけ。微妙な顔をしながらも食べた私を見て、3人は呆れたりホッしたりしている。
なるべく鼻で息をしないようにしてちびちび食べていく。匂いを嗅がなければただのチョコレートケーキだ、これはただのチョコレートケーキ、いいね?
ただのチョコレートケーキでも一切れを食べるのにかなりの時間を要し息も絶え絶えだ。嘘ちょっと盛った。ちょっと盛ったけど、私は既にめっちゃ疲れ、ハリーからの一日何してたの?という質問に寝てたとだけ返した。ハリーは楽しみだね、とか、ナマエは誰がいいと思う?と色々話しかけてくれるがどれも適当に返してしまった。え?普段から適当?勘のいいガキは嫌いだよ。
皆食べ終わりお皿に食べ物が無くなるとダンブルドア先生が席を立つ。騒がしかった大広間がシンとした。

「ゴブレットはほぼ決定したようじゃ」

ダンブルドア先生はにこにこと笑いながら、呼ばれた代表選手は前へ来て教員席の後ろの扉に入れと言う。そこで説明がされるとかなんとか。グリフィンドールからも何人か候補者がいるらしい。きょろりと見回すと、目がバッチ合ったアンジェリーナにウインクをされた。
校長先生がサッと杖を一振り、大広間が一気に暗くなる。演出すげえ、と思いつつ、唯一燃えているゴブレットの青い炎がなんだか怖く感じた。それと同時に暗い室内は眠くなる。あと1分だっけ?
少しして、ゴブレットの炎がボッと音を立て赤い炎に変わる。よく見えないが、紙を出したらしい。一体どういう原理なんだ。ダンブルドア先生が紙を読み上げる。

「ビクトール・クラム」

大広間は大歓声に埋まる。すごい盛り上がりようだ。クラム、という人はスリザリンの席から立ち上がり歩いていった。誰が誰だかわからーん。

「ブラボー、ビクトール!君が選ばれるのはわかっていた!」
「すげえ贔屓だ」
「彼がいることがダームストラングの売りなんでしょうね」
「そんなすごい人なの?」
「後で教えてあげるわ」

でもあなたはきっと関心しないわね、とハーミーが言う。よくわからないがハーミーが言うならそうなのかもしれない。拍手をしたままでいると、ゴブレットがまた赤く燃えた。

「フラー・デラクール」
「あの人だ!」

シルバーブロンドが青い炎によく似合っていた。とても綺麗な人だ。西洋人はみんな綺麗に見えるが、彼女は綺麗でいてどこか危うい雰囲気がある。でも試合に立候補するくらいだから、闘争心すごいんだな。強そうだ、と思いながらハーミーに言われボーバトンの席を見れば喜んでいる生徒は少数で皆悔しがったり泣いたりしている。うむ、強そうだ。
そして最後の赤い炎だ。ホグワーツの選手が決まる。ダンブルドア先生は読み上げた。

「セドリック・ディゴリー」

まるでドンッ、と大きな花火を耳元で打ち上げられたようだった。歓声が大きすぎる。あの、喜ばしいけど、喜ばしいことだけど耳へのダメージがちょっと大きい。痛む頭と耳を抑えながら恐る恐る見ると、ディゴリーさんとやらはハッフルパフらしい、姿を見ようとよく目を凝らす。

「………あっ!あのときのハッフルパフ男子じゃん!」
「なんだって?」
「ホグワーツに録画機能が必要でピーブズのタイミングが最悪だったんだよ」
「英語で話してくれる?」
「日本語だった?」

私の返しにロンは、君本当に意味わからない、と頭を抱えるふりをした。
ふむふむ、つまりあの続きは試合に勝ったら見れるってことかな?またあの階段で待機してればいい?野次馬根性丸出しである。
さて選手発表終わったし、ダンブルドア先生の話を聞きながらさっさと帰って寝よう、と居住まいを正した時である。
ゴブレットが、また赤く燃えた。

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