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「ミスミョウジ、貴様も浮かれているようですな」
「何にっすか、あっやっべ棘入れちゃった!」
「グリフィンドール1点減点」
「うっそまって先生まだいけるまだいける!うあっつ!!」
「グリフィンドール1点減点。鍋の中に手を入れるなど愚の骨頂、猿らしく知能のない行動だな」
「あ、そうか、よっと……えっお玉溶けた…どうしようスネイプ先生……」
「グリフィンドール2点減点」

や、やっちまった――――……。アイデンティティの丸い先っちょが取れてしまった、ただの銀色の棒を机の上に置きぐつぐつと煮えながらもだんだん黒くなっていく鍋の中を見てげんなりした。棘がそんな早く溶けるなんて思わないじゃん、っていうかお玉……お玉溶けた……。火を止め、ちょっと火傷した手を水道で冷やす。よく私の手無事だったな、強く生きてくれ。
今日は三大なんちゃらの対戦校が来るとかでいつもより30分早く授業を切り上げるらしい。というときは座学だと思うだろ?早く終わらせられる座学だと思うだろ?これが違ったんだなあ、スネイプ先生は違うんだなあ。居残りだろうな、と耳たぶを触りながら真っ黒になった鍋の中を見つめる。匂い的にはいい感じなんだけどね。試しにただの銀色の棒を突っ込んでみると、ガキン、と嫌な音がした。見ると黒い液体のはずのものに亀裂が。………おっとぉ?これは……固形……?恐る恐る触ると、水面のはずがしっかり硬い。いやまさかそんなはずは。亀裂が走った部分に爪を突っ込みカリ、と剥がす。奥もしっかり硬い。

「これは酷いダークマター」
「グリフィンドール1点減点」
「………私?」
「貴様以外にはロングボトムしかいないが」
「っすよね……」

なんてこった一気に5点減点されちまった。これはハーミーに怒られる。場所が遠くてよかった。よくないけどよかった。前の方にいるグリフィンドールが私だけという孤独感。そしてスリザリンの皆さんは心底ドン引きの目を寄越すのをやめていただきたい。固形になるやつ初めて見たって?私もだよ。

ちょっと怒ったスネイプ先生に出迎えと夕食が終わったら片付けと原因を連ねた反省文を命じられ、みんなと同じタイミングで解放された。ドンマイ、と笑いの含まれる声にへらへらと笑い階段に置いていかれ遅れて大広間に到着した。この寒さ、ローブでは足りない。コート持ってきてよかった、とローブの下にコートを着ていれば、マクゴナガル先生の目に見つかってしまった。もちろんジャージも装備してるぜ。

「ミスミョウジ!なんですかその格好は!」
「普通ですけど」
「どこがだよ」
「新種の大男かよ」
「すぐにお脱ぎなさい!」
「まって先生私これないと寒さで死んじゃうぎゃあ剥がさないでええ…………へっくしょん!」
「後ほど返します」
「今返して……さむい……」

ぼそぼそと人を笑いやがるディーンたちはこれは好機と風避けにしながらも寒さは変わらずぶるりと震える。私のコートアンド芋ジャーちゃんは今やマクゴナガル先生のローブのポケットの中だ。寒い。必死にローブの布をぎゅっと体に巻いていると、お隣のサーシャが同じように寒そうにしながら無言で手を握ってくれた。この場で私とサーシャは深い絆で結ばれた感ある。さーむーいー。来るならはよ来てくれ、そう思いながら待っているとダンブルドア先生が後ろの方で何かを言っていた。え?なんだって?

「ボーバトンはどこ?」
「来たの?」
「近づいてるって」
「ドラゴンだ!!」
「は?」

前の方から聞こえた声にマジかよと空を見上げる。でっかい塊がぐんぐんこちらへ近づいている。

「ドラゴンって実はきしょいのか」
「あれは天馬よ」
「アリアさん」

天馬と言われてもあまりピンとこない。っていうかあの塊速すぎない?目を凝らしてみて見ると、確かに馬らしき生き物が……10頭くらいいる。どれもでかい。そして速い。やばくない?逃げた方が良くない?あと風起こすのやめて寒い。
天馬の軍団はドォォンと轟音を立てて地面を揺らし着地した。金色がはっきり見える。

「なるほど馬車か……おしゃれだね。あービビった」
「ネビルが吹っ飛ばされなかった?」
「マジ?大丈夫かな」

馬は荒々しいからなあ、とブルンブルン言っている天馬を見て鼻水を啜る。マジで寒い。はあ、と白くなる息を吐いて足踏みをしていれば、歓声が上がりみんなが拍手し出した。よくわからないまま顔を上げて手を叩けば、めっちゃ高身長、っていうか全体的にでっかい女性が見えた。

「もしかしてトールサイズの学校なの?」
「そんなわけないでしょう。……あれはうちの森番と似たようなものでしょうね」
「その言い方は酷いわアリア」
「ならなんて言えばよろしいかしらミスブラウン」
「ここで喧嘩しないでくださーい」

列が違うはずのラベンダーとアリアの少しぴりっとした空気に割って入る。くしゃみが出た。さむい。
ダンブルドア先生たちが話しているのを横目に列を見ていると、ボーバトンとやらの生徒さんたちはみんな震えながら歩いていた。ローブさえ着ていない。マジで寒そう。その格好は酷いわ。冬なめてんのか。ぽそっとサーシャが寒い、と零す。うんうん寒いね。また手を繋ぎ足踏みをしていると、少ししてからゴロゴロと排水管が詰まったような音がした。大きい音だから大きい排水管。蛇でも詰まってんじゃないだろうな、と鼻水を啜る。

「湖だ!」

誰かの声に一斉にみんなが湖を覗き込もうとする。残念ながらこの位置と私の身長からは見えない。しかし音は聞こえる。ボコボコボコ、と水が押し上げられるような音の後、バッシャーンとでっかい船が姿を現した。

「趣味悪いな…」
「男子校っていうからそんなものでしょ」

難破船みたいな暗く怪しい雰囲気のお船に盛り上がる男子を鼻で笑いアリアは言う。アリアちゃん何かあったのかい。
のしのしと歩いているダ…ダ……ダムトランク?の生徒はもこもこしたあーったかそうな上着を着ている。超羨ましい。私もあれがいい。
マクゴナガル先生にコートを返してくださいという目線を送るが、先生はにっこりと微笑むだけだった。

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