03

「うるさい、穢れた血めッ!」

少年がその言葉を言うと、ざわざわと空気が揺れた。
小さな悲鳴、憤慨する声、驚きの声に好奇心からか野次馬が増えていく。穢れた血、の意味がちょっとよくわからないが、まあとりあえずこのまま見世物にはなりたくない。寮へ戻ろう。ぽたり、ぽたり、髪から伝っていく冷たい感覚が気持ち悪い。お風呂に入りたい。
穢れた血はよくわかんないけど、人に水をかけるのはあまりいいことじゃないと思うんだけどなあ。

最近、私は結構有名らしい。投げかけられる言葉が増え、また話しかけられることも増えた。と言っても、そのほとんどが悪口と嘲笑、侮蔑なんだが。私もよく頑張ってると思う。

ロンリーモンキー
イディオットモンキー
イエローモンキー
ノーブレイナー
穢れた血←new!

いやあ、中々の種類だと思う。だが、ここまでいわれても私が傷つかないのは単に、私が呼び名に関して特にこだわりがないということと、その発音だ。
ぶっちゃけ今の私のレベルは、もうどんな言葉でもとりあえず吸収しなければ、というところで、更には面白いことにこれは通常モードだと日本語に変換されるらしいのだ。
だから、いくら呼ばれても黄猿、バカ猿、能無しに独りぼっちの猿。そう聞こえる。まあ、普通に考えればそれは随分ときつい類の言葉だが、相手は残念なから私だ。その上独りぼっちの猿、なんて言ってみろ。わざわざ悪口に何文字使うんだ。独りぼっちの猿、独りぼっちの猿、言いにくい。ぶっちゃけ笑いを堪えるのに必死。なんか、ごめんな……!

ちゃぽん、前髪から水滴が落ち、湯船に溶ける。やはり外人はあまり湯船に浸からないらしく、お風呂を溜めた時には同室のアリアとサーシャにとても驚かれたものだ。2人とも、1度入ったらしいが不潔だとか熱いだとかでお風呂は嫌いらしい。日本人万歳、お風呂大好き人間としてはすごく残念だ。キュル、と勢いよくシャワーコックを捻った。

お風呂から上がり、もういつでも寝れる状態になる。同室の2人はまだ談話室で話をしたり、明日の予習をしたりとしているけど私にもうそんな気力はない。宿題を済ませただけ偉い、とても偉い。自分を褒めてモチベーションを上げておく。
トランクから、最初の装備品として入っていたミサンガ作りのための刺繍糸をだして、ミサンガを編んでいく。赤、黒、白の3色、簡単でポピュラーな斜め編み。
私が今の私くらいの歳に周りでも流行っていて、私自身ハマったのだ。確かに、久々だけど楽しい。

「クゥーン、」
「ん?」

声のした方に目を向けると、丁度サーシャの飼い犬がいた。こいつ、子犬なのだが、ホグワーツのペットリストに乗っておらず黙って連れてきて未だ注意を受けていないままらしい。
名前は確か、

「ジョン」
「違うわ、サーシュよ」

全然違った。教科書から目を離さないまま、アリアが訂正を入れてくれた。お礼を言い、サーシュにごめんなーと言って頭を撫でてやると、ぐりぐりと私の手に頭を押し付ける。

「なに、どしたの、遊ぶ?」
「ちょっと、やめてよ、埃が立つじゃない。遊ぶなら外へ行って」
「その言い方は無いんじゃないの!?」

迷惑そうにちらりとこちらを見て言ったアリアに対し、勢いよく部屋に入ってきた飼い主のサーシャが噛み付いた。ひどいわ!と言うサーシャに対して事実よ、と淡々と返すアリア。そして始まるプチ喧嘩、言い合いに、私はただただサーシュを抱えて見るのみだ。

「もう、あんたっていつもそうね!事実事実って、いくら事実でも言い方ってものがあるでしょ!」
「言い方?はっきり言って何が悪いのかしら」
「そういうところが嫌なのよ、もう!私今日はラベンダーの部屋で寝る!」

そう言うが最後、またサーシャは部屋を出て行く。バタン、と大きく扉が閉まった。え、ええー……マジか。なんという行動力。
クゥ、と私の腕の中でサーシュが一鳴き。

「置いてかれたな、サーシュ」

苦笑しつつ言うと、サーシュはわかっているかのように鼻をキューキュー言わせて寂しそうにした。
はあ、という深いため息が耳に入る。アリアを見れば、悩ましげに額に手をあてて、疲れたように椅子に凭れている。

「ほんっと、どうしていつもこうなるのかしら……。あなたもどうせ、私のことをサーシャと同じように思っているんでしょう?」
「私?いや、そんなことないけど」
「うそ。だっていつも私とあまり話さないじゃない」
「あー……?そうだっけ」
「そうよ」

やけになったようにぶつぶつと言うアリアに、色々疲れてんなーと苦笑。ぶっちゃけ話さないっていうか、部屋では大体寝起きか超眠いから話せないんだけどねえ。そこは伏せておくとして。

「どうしてノーブレイナーには出来て私には出来ないの」
「何が?」
「友達よ」
「私いないけど」
「それもうそ。だってサーシャと仲良いじゃない」
「ただ少し話す程度なんだけど……、それならアリアもそうでしょ」
「私はサーシャに嫌われているもの」

め、めんどくせええええ!どうせ私は嫌われ者よ、と零すアリアに、それを言うなら私の方が上じゃね?と返そうとするが、一旦止める。やめておこう、なんか変な方向に行きそうだ。
もういい、いいのよ。そう言ってシャワールームに消えていくアリアの後ろ姿を見る。これは追いかけフォローすべきか。残念ながら「そんなことない、私がいるじゃん!友達だよ!」なんて言った暁には即座に「ノーブレイナーが何言ってるの、やめて」と言われることは目に見えているし、私自身そんな美意識というか、お綺麗な考え方はしていない。アリアはそういう子だし、私はそういう奴だ。

「わふ、」
「……寝るか」

翌朝、私には新しくライアーモンキーというあだ名がついた。これ確実にアリアだろ。

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