63

「……えっ侵入したの?侵入?グリフィンドールに?」
「そうよ、合言葉を言ってね。この前の失敗から学んだらしいわ、カドガン卿もそれで通したのだから、そもそも門番の人選ミスよ」

羊皮紙にガリガリと書き込みながら淡々とアリスが言う。ベッドの上にあぐらをかきクッションを抱きながらほげぇと聞いていると、隣のベッドのサーシャから「猿みたいよ」と言われた。普段から猿って言ってんじゃん……。ちなみにサーシュはサーシャのベッドの下ですやすやだ。
しかし私がチョウとハッフルパフ男子のラブシーンにそわそわしたあと無事図書館へ行けたはいいものの、帰り階段間違えるわ乗り遅れるわ置いて行かれるわでフィルチさんに見つかり八つ当たりのお説教に付き合わされている間にそんなことがあったとは。何気に私フィルチさんに怒られるのは初めてなんですよ。いつもスネイプ先生なんでね、会ったことはあるものの遭遇したことはなくて。スネイプ先生ばっかっていうのもある意味呪いじゃねえか。

「でも不思議なのよ、シリウス・ブラックはなにも盗っていかなかったの」
「まさかのここに来て窃盗目的だったの?」
「そんなことでホグワーツに来られたら困るでしょう」
「それはそうだけど、犯罪者の考えることなんてわからないわ。なにか仕掛けられたりしてないかパースやマクゴナガル先生が見てたけど、本当に何も無いらしいのよ」
「ふーん……忘れ物でもしたんじゃないの?」

私の答えに2人は忘れ物?と声を揃える。おお、なかなかに仲良くなったじゃん。この前まで「私のことが嫌いなのよ」とか言ってたくせに。……この前でもないな、結構前だな。

「学生時代の大切なものを置いてったとかさ。タイムカプセル的な」
「私だったらわざわざ来ないわ、吸魂鬼まで設置されているっていうのに。危険すぎるわ」
「めーっちゃ大事なものかも」
「ホグワーツを虐殺するつもり、とかいうバカな噂よりは可能性あるかもしれないわね」

えらい物騒な噂だな。虐殺って。しかしマグル殺人事件起こしたとかいうし、案外可能性はあるのか?でもそんなんめっちゃ強いんならすぐ出来るじゃんねえ。
そんな噂を鼻で笑ったアリアは羽根ペンを置いてインクの蓋をきゅっと締めると、机に片手で頬杖をついてこちらに向いた。インクの蓋が締まった時にふわりとラベンダーの香りがした。おしゃれな小物だ。

「でも私、ポッターと関係があるのは間違いないと思うのよ」
「サーシャ?」
「だって、ポッターのお父さんとシリウス・ブラックは同級生だったってママが言ってたのよ。とっても仲が良かったって」

それはルーピン教授の過去話でもよく出てくる話だ。大の親友でうんちゃらかんちゃらと寂しそうによく言っている。サーシャのお母さんも同年代っぽい。
サーシャの話をアリアが視線で促す。

「いつもグリフィンドールの4人でいたずらばっかりして、でもとーっても仲良しだったんですって。そんな学生の頃からずっと心の中で殺そうと思ってたなんて思えないわ」
「別にそんな頃から闇側だっともわからないでしょう、グリフィンドールに入ってるんだから。卒業してから変わったのかもしれないわ、所詮ブラックは闇側の家系だもの」
「卒業してから闇側になるっていうの?闇祓いになったのに?」
「おーらー?」
「さあね、でも実際マグル殺人を起こしたし、ポッターのことも売ったんでしょう。闇祓いになってから名前を言ってはいけないあの人の素晴らしさに気づいたとか、闇側の人たちの説得に感化されたとかいくらでも可能性はあるわよ」
「な、名前を言ってはいけないあの人?」
「でもそんなのおかしいわ、確かにシリウス・ブラックは闇祓いとしての成績も良かったってパパが言ってたわ!私のパパは当時魔法省の経理部にいたらしいのだけど、シリウス・ブラックやポッターのお父さんは優秀だったって。その分事件は信じられなかったって、そうはっきり言ってた」
「それは……それは、確かにおかしいわ。いくらフェイクとしてもそこまでやるものかしら……」

アリアとサーシャの論争についていけずついにぐっと黙ってしまった。だってわかんないもーん。おーらーとか名前を言ってはいけないあの人とかまほうしょうとかなんだそれは。知らん単語ばっかりーむりーわかんなーい。
それにしてもサーシャは情報通だ。きっと将来井戸端会議の女王になるぞ。
黙って少し考えたアリアを置いてサーシャは更に「それに、弟がいたんですって」と続けた。……弟?

「弟がいた?いたって過去形なの?」
「ええ、そうみたい。ママも大人になってから知ったんですって。確か1つ下のスリザリンだったって言ってたわ。でも卒業する前に死んでしまったらしくて」
「……つまり、弟が死んだから闇側に行ったってこと?確かにそれならわからなくもないわ、家族には逆らえなかったってこともありえるもの」
「ううん、それが、シリウス・ブラックは弟嫌いで、弟の方も兄嫌いがすごかったらしいのよ。由緒正しいブラック家の長男がグリフィンドールなんかに入った、って、失礼しちゃうわよね」
「ふーん……でも流石に死んじゃったら辛いんじゃないの?」
「でも、そうしたらシリウス・ブラックはわかっていたはずよ、いつか自分が弟を殺すかもしれないって」
「なんで?」
「その弟は死喰い人になるでしょうから。そんなこともわからないの?」

アリアにビシッと言われてしまった。あ、はい、ごめんなさい、あははと笑って流す。で、ですいーたーってなんだ。死を食べるの?どういうこと?不老長寿にしてくれる職業?

「でもその弟はホグワーツを卒業する前に死んだのよ?」
「いつ死ぬかなんて誰にもわからないでしょう、覚悟はしていたはずよ。……だめ、もっとわからなくなってきたわ。一体どうしてシリウス・ブラックはホグワーツまで来たのかしら、どうしてポッターを狙うの?」
「わからないから話してるんじゃないの。ねえナマエ」

サーシャの問いにへらりと笑い答える。そうだねえ、私にはさっぱりだよ。



翌日、朝大広間に向かう途中、廊下でトロールに出くわした。いつかのハロウィンを思い出し思わず杖をフルスイングする体勢に入ってしまったが、それをハリーに羽交い締めされ止められ、ハーミーに杖や教科書を取り上げられた。

「トロール!?なんでいんの!?」
「ナマエ!大丈夫よ、あれは大丈夫だから、落ち着いて、大丈夫なの」
「……え、大丈夫?なにが?あれ?どうなってんの?……誰かの新しいペット?」
「そんな趣味の悪いヤツいるかよ!警備だよ警備、マクゴナガルが言ってただろ?君、聞いてなかったの?」
「いやさっぱり……記憶にない……」
「大丈夫だよナマエ、僕がいるからね」
「その前にあれはよほどのことをしない限り襲ってわこないわ。だから大丈夫よ、それと杖は投げるものじゃないわ」

あ、はい……。苦笑したハーミーに杖を返され、ハリーにはしっかりと手を繋がれる。まるでリードのようだなんて思ってないです。私が悪かったですごめんなさい。しかし、トロールが巡回したあとの廊下はどことなく臭かった。衛生面も気を使った警備にしてくれホグワーツ。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -