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バリバリボリボリと煎餅よろしく咀嚼音が北塔の教室に響く。ひたすら食べているのは私くらいで、皆出てきた中身に夢中だ。恋占いがどうのこうのときゃぴきゃぴしている。しかしその中身はどこかの会社がランダムに打ち込み印刷されたもの、もしくはシビレル先生の手作りだぞ。特に盛り上がれない。っていうかこのクッキーあんまり美味しくない。ルーピン教授が食べさせてくれたクッキーが懐かしいでござる。

「モンキー、これも食べる?」
「俺のもいるか?」
「ナマエ、お昼いなかったもんね。僕のも食べていいよ。あ、あと、蛙チョコもあるんだ、内緒だよ……食べる?」
「全部いただこう」

男子というのは恋占いにはあまり盛り上がれない人種らしい。恋占いよりも今は対抗試合の勝負運占いとかの方が売れたんじゃなかろうか。そんな彼らは空腹な憐れな私にクッキーをくれる。いただきますとも。そして飽きてくる味に新たなスパイスをくれたネビルに超感謝。あまーくて食べにくいが口に突っ込んでしまえばこちらのものな蛙チョコも美味しくいただく。擬音にするとバリゴリグシ ャッて感じか。蛙が鳴かないだけマシ。
「僕の、待ち人は来ないって書いてあったんだけど待ち人ってなんだろう」とそもそも言葉の表現が通じていないネビルの疑問に「ネビルが待ってる人…かな……」と曖昧に答える。待ち人とか言われてもな、最初はわからんわな。フォーチュンクッキーは日本発祥だと私は初耳な情報をさっき教わったが、占いの中身がおみくじ寄りなのはどうかと思うぞ。もっと普通のあっただろ。なんでおみくじ寄りのを作っちゃったんだ。やうつり、とか書かれてないだけわかりやすいんだろうけど、ネビルも言っていたように待ち人とかいわれても……感は満載である。

「待ってる人かあ、来ないのは寂しいね」
「なんて健気…大丈夫だよ…ネビルにはちゃんと来るよ…」
「ナマエは?どうだったの?」
「見せて」
「うおっ、びっくりした」

これー、とネビルに渡す前に横からロンに取られた。なんだい私の恋占いが気になるのかい。やけに真剣な顔で紙を見るロンにはてなマーク。私もちょっとしか見てないからよくわかってないんだけど、そんなやばいことが……?信じてないけど悪いこと書かれてたら不安になってちゃう。だって女の子だもん。

「……ナマエ、君……」
「何?……えっ何!?何が書いてあった!?不安になるじゃん言えよ!?」
「恋愛・縁談、良しって書いてあるよ」
「あー、はいはい、よくあるやつね」
「君結婚するの?」
「少なくとも今はしない」

私の返事にロンはふうん、と妙に複雑そうな顔をした。どうしたんだよ。今日、妙な顔ばっかりしてるぞ。……あっ。

「ははーん、もしやこのナマエの魅力にやら」
「気色悪いこと言うなよ!鳥肌立った!トロールのほうがまだマシだ!」
「おうおう喧嘩売ってんのかワレ」

食い気味に否定しおってあぁん?と下からガンつければ、ネビルにまあまあ落ち着いてと肩をぽんぽん叩かれた。全く失礼しちゃうぜ。結婚するも何も相手もいなけりゃ今こんな状況だ、出来るわけがない。そもそもこんなんホイホイ信じてもねえ、結果なんて何通りもあるんだから可能性の一つでしかないってだけだ。身も蓋もない。

「ところでハリーは?」
「お腹痛くて籠ってる」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」

もちろんうっそぴょーん。ハリーは今頃アクシオに苦戦しているかもう成功したかのどちらかだ。そう、私たちはつい先程までずっとハーミーが参考になるらしい本を読みあげる傍ら杖を振り回していたのです。そしてハーミーは数占い学へ、私はハーミーにいいから行きなさいと言われハリーを1人残して授業に来ているのであーる。ハリーの分のノートを取れって言われても、ノートに書く事がほぼない。板書もほんのちょっとだし。ハリーの分のクッキーを持っていくくらいだ。




「というわけで、はいフォーチュンクッキー」
「……なにそれ」
「中に恋占いの紙が入っているそうな」

ハーミーの分もあるよ、と渡す。しかしハーミーは「馬鹿馬鹿しい、それどころじゃないわ」とがしゃりと割ってバクバク食べて主役の紙は見もせずローブのポケットに入れてしまった。わ、わぁ、ワイルドだなぁ。イライラしていらっしゃる。このクッキー美味しくないわ、という声には同意した。
一方ハリーは心底疲れた様子でクッキーを割った。心做しかクッキーもクシャン…ってなよなよした感じで割れていた。ちなみに私は大広間に寄ってとってきた夕飯代わりのサンドイッチを美味しくいただいている。クッキーはもういりません。

「……時間はかかるが叶う………」
「あら、よかったじゃない」
「おっなになに好きな子いんの?ひゅー青春だねえ」
「あなたは黙って」
「あっはい」

何故かイラッと来たらしいハーミーに怒られてしまった。大人しく黙ってサンドイッチを咀嚼する。少し元気が出たらしいハリーが私の隣に座り、チキンサンドを手に取った。たくさんお食べ。
残念ながら授業中の時間を費やしても呼び寄せ呪文の会得はまだのようで。そんな簡単に出来たら苦労しないもんね。じゃあ疲れたしまた明日に──と教室を出ようとしたところでハリーは言った。「明日の午後までに使えるようにならないといけない」。既に時間は消灯ギリギリ。しかし関係ないらしい。ハリーたちは練習を続けた。もはや修行である。かくいう私も付き合ったさもちろん。途中でピーブスに物ぶん投げられまくって投げ返して、ハーミーに引きずられて寮まで戻って、ヘトヘトでも談話室で付き合ったさ。ちゃんと付き合ったんだよ、あくびを噛み殺しながらさ。

「アク、クァ……シオ!ぎゃん!」

ところであくびをしながら呪文を唱えるのはみんなやめようね。何故か周辺のもの全部飛んできて、そこから私の杖はハーミーに取り上げられてしまった。ハリーの邪魔になる、と。ド正論。でも部屋に返してはくれないらしい。曰くハリーの精神安定剤。ちょっと何言ってるかわからないですね。
そうして日付が変わっても続けること数時間、ハリーのアクシオ!という声をBGMにソファの上でうとうとしていたら、いつの間にか部屋で寝ていた。目覚めたらベッドの上。サーシャ曰く夜中トイレに起きたら私が寝たままの体制で浮いて来たらしい。多分ハーミーの浮遊呪文だろうけど、なんか、あの、私マジで必要だった……?

「おはようナマエ」
「……おはよう…隈さんが酷いね」
「でも寝れてすっきりしたよ。出来るようになったんだ、ナマエのお陰だよ」

大広間で会ったハリーは目の下に隈を作り疲れた顔をしていたが、なんとか出来たらしい。私のお陰ってどこがやねん。私何もしてないぞ。ハリーが頑張ったからだよ。へらりと笑ってそう言うと、ハリーは嬉しそうに頬を緩めた。わあ可愛い。

「これなら僕、ドラゴン相手になんとかやれる気がする。ナマエ、応援しててね!」
「そりゃもちろ─────ドラゴン?」

なんだって?と聞き返そうとハリーを見ると、既にハリーは意気揚々と大広間を出ていくところだった。…………ドラゴン?

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