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ハーミーは言った。呪文が出来ないのは理論がわかっていないからだと。だから図書館に行って理論を学習するべきなのだと。学年一の才女はそう言った。
いいえ、無理です。
私は拒否をした。しかしハーミーは怒ると怖い。私は負けた。

「わっかんないよお〜」
「わからないと思うからわからないのよ、わかると思ってやりなさい」
「ついに根性論言い出したじゃん」
「ナマエ、チョコレート食べる?」
「食べる〜」
「そこ!甘やかさない!」

ハリーから貰ったチョコレートはハーミーに取り上げられてしまった。出来るまでお預けらしい。なんてこった。チョコレートを食べられるのはどれほど先になるのか。食べる前に溶けてドロドロになりそうだ。かれこれもう結構な時間図書館にいるが、本を読んだところで一向に理解出来る気がしない。そこで私は考えた。

「違う方面で攻めてみようと思うんだよ」
「つまり?」
「呼び寄せ呪文とかそういうのじゃなくて、そもそもの魔法を理解しようと」
「…………一応聞くわ、あなた今4年生よね?」

言外に今まで何をやってきたんだという意味を含ませハーミーが言う。それに堂々と頷き私は席を立った。ぶっちゃけ猿でもわかるシリーズを読んでもわかんないんだから何読んでもわかんないと思うんですけどね。発音は出来ても呼び寄せられるかと言われれば無理だ。杖降るより取った方が早くない?私は早い。
どーれがいいかなー、とてきとうに棚を流し見していく。かなり奥の方に行ったとき、にゅっと手が出てきて引っ張られた。

「んぐっ!?」
「すみません、少し静かにしてヴぉしい」
「!!???」

まさかホグワーツで凶悪犯罪が!?というフラグに恐る恐る私を棚と棚の間に引きずり込んだ手の主を見ると、いつぞやのクラムくんであった。アイエエ!?ナンデ!?ナンデクラム=クン!!?
周りに人がいないのを確認して、クラムくんは大きな図体を隠すように縮こませる。うん、まあ、隠れないんだけど。君はよく成長しているね。とりあえずしゃがもうか、と合図をすると彼はすとんとしゃがんだ。素直か。

「どうしたんだいクラムくん」
「……君ヴぁあの子と友達ですか?」
「どの子ですか?」
「代表選手の友達の、」
「ハリー?の友達?ロン?ハーミー?」
「ハーミー、?」
「正式にはハー……ちょっと待って……はーまいおぅんにー……ダメだ言えない」
「ハームオゥンニニー」
「待ってもっとすごいことになってる。オーケー、名字から行こう。彼女はグレンジャーです」
「グレンジャー」

クラムくんはグレンジャー、と大切そうに名前を繰り返した。その様子になにか引っかかるものがある。……もしや。いいや待たれよ。少なくとも今現在スリザリンの席ではよくマルフォイくんの座っている姿を見ている身としては許すわけにはいかない。穢れた血なんて言ってみろ、私が彼を殴ってダムストランクのおじさんとホグワーツのおじいちゃんに喧嘩をさせてしまうかもしれない。っていかまずその可能性はないかもしれないんだから、そう、ないかもしれないんだから。大事なことなので二回言いました。

「ミスグレンジャーとポッターは……つ、付き合っているのか?」
「まっさかぁー。デキてないよ」
「……ヴぉんとうか?」
「少なくとも今は呼び寄せ呪文の先生と生徒の関係」
「呼び寄せ呪文が出来ないですか?」
「私とハリーが出来ません」
「……なんだ、君たちならいい」
「よくねえよ」

何言ってんだこいつ。さてはハーミーが出来ないなら自分が教えるとかそういうフラグが欲しかったというのか。ハッハー残念!ハーミーはすぐに出来ました!フラグはそもそも建てられませんでした!友達はガンガン自慢するスタイルで。
クラムくんはでかい図体をもじもじさせ、私に言う。

「彼女ヴぁどんな人ですか?何が好きですか?」
「うわあまずっぺー。グレープフルーツの如くあまずっぺーっぺー」
「За какво говориш?」
「えっ何語」
「……君ヴぁ変な子です」

心底意味のわからないものを見る目で見られてしまった。失礼な。確かに君たちに比べれば変わってるかもしれないけど、私から見たら君たちの方がよっぽど変わってるんだからな!あーびっくりした、謎の呪文を唱えられたかと思った。対抗出来そうな呪文バルスくらいしか知らないわ。

「大体ね、そういうことは本人に聞くべきなの。わかる?恋愛の基本よ?何度もダイヤルを回してやっとかけたけど親に出られて結局あの子と話せない放課後なのよ?」
「За какво говориш?」
「日本語で喋って」
「……ジャパン?」

君ヴぁ日本人なのか?クラムくんの問いに、日本人って単語自体久々に聞いたな、と思いつつ頷く。ずっとモンキーだったからな、久々に人になった気分だ。
クラムくんはそうか、と頷いた。

「日本ヴぁ前に行ったことあります。とても良い国です、テンプラーヴぁとても美味しかった」
「……マ、マジ?マジ!?」
「ホグワーツヴぁ日本人もいるのは、すごいです」
「…ヘイ……ヘイヘイヘェーイ!君最高だよ!」

バシン、と肩を叩きニッと笑うと、クラムくんは不思議そうな顔をしながらも頷く。ああ、泣きそうだ。初めてじゃないか?日本の話をするのは、出来る相手は。ここに来てから1度も日本の話はしたことがないし、というか1度も日本人相手として私に話しかけてくる人はいなかった。感動。約4年目にしてやっとだ。とうとうぼたぼた泣き出した私を見てクラムくんは慌てたが、全くそれどころではない私はクラムくんとがっしり握手をし、なんでも聞いてくれ!と泣きながら半ば無理矢理友情を結んだ。戸惑いながらもよろしく、と言ったクラムくんはとてもいい子であった。

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