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グォォオオオ、とまるで滝の中にいるような音だった。ただ鳴いただけらしいが、ビリビリと鼓膜を揺さぶられ、足踏みをされれば地面がガタガタ揺れる。

「……これ、ハリー死ぬんじゃね?」
「縁起でもないこと言わないでよ馬鹿!」
「いやだって……」

ドラゴン相手にとか、んな無茶な。
ザッと顔が青ざめる。もちろん隣にいるハーミーも青ざめていた。お互い手をぎゅっと握り合う。どうかハリー死にませんように!

第一の課題だ、と授業後にハリーが呼び出され、私たち生徒は観戦席へ連れて行かれた。ドラゴンって私の聞き間違いかと思ってたんだけどね。思いたかったんですけどね。ハリーが必死に呼び寄せ呪文を練習してた理由がやっとわかった。きっとハリーはあれだ、呼び寄せ呪文でなんか、こう、こう……強い人!そう!強い人を呼び寄せて代わりに戦ってもらうとかそういう奴だ!召喚しようとしてるんだろう!そしたら百人力で、

「人を呼び寄せることなんて、ハリーの魔力と実力じゃ出来るわけないでしょう!適当な事言わないの!」
「じゃあハリーきゅんは呼び寄せ呪文で何をするんだよ…死んじゃうじゃん……」
「見てなさい、あなたがハリーを信じてなかったら誰が信じるの」
「もちろん信じるけどハーミーさん言い方」

まるで私以外信じる人がいないみたいじゃないか。やめてよ不穏。少なくともグリフィンドールの皆さんはしっかり信じてるよ。ドラゴンに勝利どころか試合優勝さえ信じまくってるよ。見ろ、双子なんて既にハッフルパフを挑発する体勢に入ってるんだぞ。なんて血気盛んなんだ。兄貴がドラゴン使いだとかで尚更テンションアゲアゲらしい。もしかするとドラゴンの近くにいる赤毛は例の兄弟なのかもしれない。どれどれ、とそちらをよく見ようと顔を動かすと、ふと目が合った。チョウだ。レイブンクローの集団の中にチョウが、じっと手を組んでいる。何故か頷かれたので頷き返す。多分ディゴリー氏は下手なフラグ建てないでいれば普通にイケメン補正で助か──アッ既に建って、いやいやあれは入らないでしょ。やめろよ不穏だわ。っていうか死ぬ前提で考えてるやめよう。
そんなハラハラな心境でいると、試合が始まった。ディゴリー氏が、グラウンドで、ドラゴンと対峙をした。






なんというか、試合は、圧巻だった。 全てに圧倒された。鳥肌は止まらないし、涙も止まらなかった。ついでに悲鳴も止まらなかった。
最初から最後まで、とにかくドラゴンは怖いし、なのに皆ドラゴンに向かっていくし、火を吐いたり尻尾振り回したり、その他にもたくさん危険があってたくさん危ないところがあったのに、皆しっかり立ち向かって。ぼたぼたと泣きながらひたすらひえぇ、と情けない悲鳴をあげていた自分が恥ずかしい。皆怖くないのか。どうして平気なんだ。特にハリーは存在が近い分、恐怖が増した。箒に乗るんだもん、落ちたら危ないじゃん、でもハリーはヒュンヒュン飛んでドラゴン相手にも臆していなかった。

「ナマエ、ナマエ!行くわよ!」
「……ぇ、あ、」
「ほら、いいから!」

袖でぐいぐいと涙を拭きながら、ハーミーに手を引かれ、ロンに背を押され救護テントへ走る。飛び込むように入ると、ハリーは丁度そこにいて、手当を受けたあとのような消毒液の匂いがした。頭が真っ白になる。
ハーミーが、ハリーに興奮して話し、ロンはハリーにもじもじとしながらも何か言っていた。それらが耳に入っているはずなのに、全く聞こえない。まるで私だけ遠くにいるみたいな感覚で、でも目はしっかり近くのハリーを凝視している。見たところ酷い怪我はない。動けてるし、骨折した感じもないし、骨が無くなったようなのもない。しかし私は見つけてしまった。ハリーの服は焦げていた。 ロンと少し話して笑顔になったハリーと、目が合った。

「ナマエ、僕──」

「……え、う、うう、ううう」

決壊した。多分私の心と涙腺のダムがガシャンっと勢いよく崩れ落ちた。

「ううう、うええ、うあああっ」
「ナマエ!?ナマエ、どうしたの、」

慌てたハリーが近づいてきて、反射的に抱きしめた。ハリーの胸より少し上あたりを濡らしてしまうが、ぶっちゃけそれどころではない。思いっきり、それはもう思いっきり抱きしめる。

「なっ、ナマエ、あの、」
「怪我、けがは、うええっ、やけど、ハリーの卵のお肌にけがはっ、ヒック、うう」
「……え、えっと、大丈夫だよ、マダムが治してくれて」
「うぐっ、げほっ、ぐすっ、うえええっ」
「ナマエ、落ち着いて」
「だって、うああ、なんで、なんっでいっつもハリーばっかり、うわああん、ひぐっ、ひゅぐっ、しぬ、死ぬかと思っただろうが!!!」

勢いのまま、怒鳴るように泣きながら言えばハリーの身体がびくりと震えた。がばっと体を離してハリーの頬を両手で挟んだ。

「死ぬかと!思った!ハリーが!危なくて!私の心も!死ぬかと!」

目の前がぼやけすぎてもう何が何だかわからないが、私は泣きながら怒った。わああと汚い泣き声晒しながら、ドラゴンのくそったれ!とか、あんまり心配させんな!とか、死んだら私が殴る!とか、かなりぶっ飛んだことを泣き喚いた。酷い醜態を晒してしまった。
しかし、ハリーは優しいことに私が泣きわめいている間も相槌を打ち、時折「大丈夫だよ」と声をかけ、私が泣き終わるまで抱きしめ続けてくれた。
あとは────わかるな?

散々泣いた後に残るのは羞恥のみである。勝手にダム決壊して大泣きしてキレて、幼い子供みたいな行動をしてしまった。私の泣きすぎて真っ赤になった目と顔を見かねたハーミーに連れられ先に寮へ帰った。寮につく頃に正気に戻り出す頭。

「申し訳ありませんでした……」
「何が?」
「醜態を晒したこと、深くお詫び申し上げます……」
「ああ本当に酷かっ」
「ううん!全然!ねえハーマイオニー!」
「……そうね」

ハリーとロンが帰ってきたとき、私はお祭り状態な騒がしい談話室で1人土下座をした。「わあなんてポーズですか!面白い!」とコリンにパシャられたような気がしたがいい。許す。むしろ今後の咎めとしてその写真ください。

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