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今年初めてのホグズミードが解禁された。無論私は行かない。どんなにハリーに誘われてもどんなにハーミーに「ハリーったら透明マントを着るっていうのよ!私が独り言喋ってるみたいになるじゃない!」とよくわからないことを言われようが行かないったら行かない、と貫き通し、今朝ぼっちのハーミーを見送った。ハリーやっぱ行くのやめにしたのかな。よくわからない。
そんなわけで私は悠々自適な休日を過ごすわけだ。といっても宿題がある。でも占い学だからすぐ終わるんだぜぇーイェーイ。と、2度寝した後のすっきりとしたテンションのままルンタッタと図書館へ行く。行く途中ボーバトンの子に「何でーすかあーの変な服……」とわざわざ英語でひそひそ笑われたが気にすることなく私は図書館へ向かった。ジャパニーズ芋ジャーと言います。私の部屋着です。

「土星の座標、土星の座標──っと、」

ハーミーが勧めてくれた本を探して静かな図書館を見て回る。とっくに皆に背をこされてしまい、今や私はひょこひょこ飛び跳ねて本を取る唯一の身だ。ハーミーは普段取れないところは背の高いロンを使っているし。喧嘩しても黙って使われるロンもいい子だよな……。今頃ホグズミードで気まずい空気になっているかもしれない彼らを想像していると、本が見つかった。そうだな、クラムくんの頭のてっぺんくらいの高さにある。つまり遠い。脚立を探して持ってくるのも面倒だし、練習中の呼び寄せ呪文を試して棚をひっくり返すのも嫌だ。今こそ私の脚力が試される──と足に力を込めたときだった。

「これかい?」
「ヴァっ!?」

私の頭上をぬっと手が通り、私の目的の本を取る。振り向けばそこには爽やかフェイスが。

「セドリック・ディゴリー……」
「……やあ、ナマエ」
「えっ友達でしたっけ?」
「ううん」

しまった、いきなり初対面でコントみたいなことをしてしまった。まさか私の名前を知られてると思わなかったんです。名乗ってないのにファーストネーム呼ばれたらあれ友達だったっけ?ってなるよね?ね?
私の反応にディゴリー氏は失笑し、取ってくれたらしい本をはいどうぞ、とくれた。あ、あざっす…。恐る恐る受け取る。スマートだ……。

「その、ジャンプするのはいいけど、制服のときはやめた方がいいよ」
「なんで知ってんの……」
「最近よく図書館にいるだろう?ハリーと、クラムもよくいるから少し気になって」
「あー…」

一瞬ストーカーなの?チョウやめた方がよくない?とか思ったが、言われた内容に納得した。そりゃなんかあると思うわな。怪しいよね、なんか会合とかしてそうだもんね、疑うのわかる。まあその実単に呪文習得のためのお勉強ともう片方は恋煩いなんだけど。お年頃だからね。
ディゴリー氏は休日だが制服姿だった。ちらりと見れば、彼はその視線に気づき「制服の方が慣れちゃって」と言った。普段見慣れている制服でも人が違えばスマートに見える。これが…イケメン力…ッ!しかし向かいにいる芋ジャーが場面を大破壊している。すまんの。

「──ハリーは、本当に入れていないのかい?」
「唐突の本題」
「あ、ああ、ごめん。……えっと、知ってると思うけど、セドリック・ディゴリーだよ。ハッフルパフの6年生」
「ここで自己紹介かーい。アー、ナマエ・ミョウジ、グリフィンドールの……4年?っす」

はじめまして、とお辞儀をすると、ディゴリー氏は律儀にお辞儀を返してくれた。それからふんふんとその場の立ち話だが、言いたかったらしい内容を聞けば、ディゴリー氏は現在葛藤の狭間にいるらしい。曰く、ハリーは名前を入れたと思ってる、確かにそれは不正だと思う、しかし冷静に考えれば年齢線を越えられるとは思わない、それに既に終わったことは認めざるを得ないし、ハリーが自分で名前を入れたとしてもゴブレットが他でもないハリーを選んだことに変わりはない。
寡黙なハッフルパフプリンス〜とか少女漫画みたいなこと言ったの誰だよこの人めっちゃ話すぞ。そして話を真面目に聞いた私の感想はただ一つだ。

「ディゴリー氏人間出木杉くん」
「え?」

年齢詐称してるでしょ?実は30代前半とかなんでしょ?なんでそんなしっかり考えられるの?ハリーを差し置き喧嘩とか文句とか片っ端から買ってきた私が言うのもなんだけどね。周りが言うのと渦中の人が言うのじゃまたぜーんぜん違うものだ。当然。しかもディゴリー氏は同じホグワーツ。複雑でしんどいのも当たり前ってもんだ。

「もっとラフに生きていいと思うよ」
「ラフ?」
「ハリーの味方としてはそりゃ信じてほしいってとこはありますけどね、別に無理に信じなくたっていいでしょ。嫌だったら嫌でいいと思う、どうせ選手としては敵同士だし」
「……君はどうしてハリーを?」
「友達だから」

へらっと笑い親指を立てた。ぶっちゃけハリーは自ら面倒ごとに首を突っ込むほど暇な生活をしていない。あとハーミーも信じてないし、ダンブルドア先生のあの顔だし。
私の単純な言葉をディゴリー氏は反芻し、そしてふふ、と小さく笑った。不思議に思い見ていれば、ディゴリー氏はうん、と一つ頷く。

「そうだね、それだけで十分だ。僕はまだハリーを信じることが出来ないかもしれないけど、ハリーは僕のライバルだ」

代表選手としても、クィディッチの選手としても。ディゴリー氏はそう続けて、笑顔で私に手を差し出した。

「ありがとうナマエ、すっきりしたよ。ハリーが君のそばにいるのがわかる気がする」
「私もあなたがハッフルパフプリンスって言われる所以わかりました。……ども」

爽やかフェイスは笑顔になればもっと爽やかだ。爽やかすぎて眩しい。後光さしてない?大丈夫?目をしぱしぱさせながら、恐る恐るシェイクハンドをした。彼の掌は分厚くゴツゴツとしっかりしている。……チョウ、こういうキャラに弱そうだもんな…。

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