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「フガッ」

……あれ、寝てた?顔の下に敷いていたであろうレポートと教科書を見て首を傾げる。やべっ教科書に涎ついてる。袖でゴシゴシ拭って、少し痛む首を摩りつつ周りを見る。図書館だなあ。あっ、そういやレポートやらなきゃと思っ…思って………?頬に手を当てると乾いたインクがぺりっと落ちた。

…………あれ?あれれ?おっかしいな……呪文学受けてからの記憶がねえ。いやいやそんなはずは。レポート確かに終わってるし、と手元を見る。ん?あれ、これ……あーーーーっっ!!!

「今日までのやつじゃん!」

がたんと椅子から立ち上がるとマダムピンスからいつものお言葉が飛んできた。が、ぶっちゃけそれどころではない。教科書とレポートまとめてごっちゃに鞄へ詰め込んでズダダダッと半分滑って転けながら図書館を出た。やべえやべえ急げ!変身学はぶっちゃけまあなんとかなるところもあるけどスネイプてんてーはシャレにならん!はよ出さな!つか今何時?わかんねー!走り去る合間に見えた外は曇ってて時間もわかりゃしない。午後ってことしかないよやばいよやばいよ。えっもしかして夜?ガチヤバ。
ギリギリのところで階段に飛び乗って下に降りる。すれ違う生徒になんだなんだと見られた。ごめん騒がしくて急いでんのよ。さながら今の私は狩り中のチーターレベルの速さだぜ。ごめんちょっと盛った。
勢いよく走って壁という壁にぶつかりつつ、地下の魔法薬学の準備室へなんとか滑り込むことが出来た。もしかして今ギネス記録出しちゃったんじゃないのレベルで図書館から駆け抜けた自信ある。人間やれば出来るわマジ。ドリームフューチャーも夢じゃないわ。……何言ってるんだろうね?多分アドレナリンだらけでハイになってる。
幸い部屋には誰もおらず、ハアハアと私の酷い息切れだけが嫌に部屋に響いた。そして、そして──机の上にはなななんとまだ添削されてないグリフィンドール4年のレポートの山があった。一番上がシェーマス・フィネガンだから間違いねえ!勝利のガッツポーズ!

「セーーフ!よっしゃあ!」

「……何をしている」
「ぎゃっスネイプ先生」

山の上に自分のを叩きつけたら後ろから恐ろしい声が聞こえてビビって飛び上がった。多分今サーバルキャット並に飛んだよ。ごめんこれもうそ、ちょっと盛った。
スネイプ先生は今日も眉間をシワシワにして、いつもと違うのは私に杖を向けていたことだ。えっなに?

「レポート提出期限遅刻により──」
「まって!遅刻じゃない!遅刻じゃないです!間に合った!たぶん!」
「二度と無断で立ち入るな」
「それについてはすみませんでした……」
「グリフィンドール3点減点」
「ぴえん」

しまった、レポートとは違う方面で減点されてしまった。でも罰則がない分マシだろう。最近の私罰則あんまりしてない、えらい。ところでスネイプ先生いつまで私に杖を向けておられるのか。マジで魔法飛んできそうでビビりながらそろりそろりと教室から失礼した。今日ご機嫌ななめだったのかな。
息も整いレポートも出せてハッピーイエイ!な精神でほっと息を吐いたところで痛みを思い出した。途中曲がり角とかで壁にぶつかりまくって来たんだった。ズキズキするところを見れば手足に薄らアザができ始めており、うげっと顔が歪んだ。青タンにならないといいなー。
ぐちゃぐちゃの鞄を直すのも面倒でそのまま抱えて歩くと、廊下でハリーに会った。ばったり。手を振ってくれたハリーに軽く振り返し近くまで寄る。

「どしたんハリー」
「これからふくろう小屋に行こうと思って。ナマエこそどうしたの?」
「今魔法薬学ギリギリ滑り込んできたところさ。スネイプ先生なんとか許し、えっどしたんハリー」

顔!顔!スネイプ先生のスネイ、まで言ったあたりで天使のキュートフェイスがまるで梅干しを生まれて初めて食べたようなぎゅっとした表情になってしまった。ハリーってばスネイプ先生のことそんなに嫌って……たな、うん、嫌ってたけども。そんな顔初めて見たレベル。あっもしや地雷踏んだか…?またスネイプ先生と何かあったのか……?首を傾げると、ハリーはギュッとした顔のままなんでもないと首を振った。どう見てもありますがな。でも私大人だから本人が隠そうとしてるんなら知らんぷりするよ。めんどくさいし。あっ今のは建前と本音がだね。失礼、こんな大人になっちゃダメだよ…。

「ナマエも一緒にふくろう小屋行かない?」
「……いいや、私先寮帰ってるね。気をつけて行っといで」
「……そう?わかった」

ギュッとした顔からモヤっとした顔になった。この前話したのに、と言いたげな。うーん私としても付き合ってあげたいんだけどさ、ぶっちゃけまだ怖いんだよなあ…。今思えばこの前のホグズミードだって行けるか試せばよかったんだけど、怖気付いて逃げてしまった。私の悪いところだよ。そんで、今のも。
何も言わす受け入れてくれたハリーはふくろう小屋へ行こうと一歩踏み出す。が、踵がくるりと回ってこちらを向いた。

「そういえば、ナマエの親戚で先生がいたの?」

思わぬ質問にぱちくりと瞬き。なんだって?先生?親戚に先生は……小学校教員はいたけど、何故ハリーがそれを知っているのかモヤっときた。いたって過去形だしよ。私誰にもそういう話したことないってばよ。

「……なんで?」
「マートルが言ってたんだ、いじめられていたときいつもミョウジ先生が助けてくれてたって」
「まって。……先生って、ホグワーツの先生?」
「うん、そうだけど……ミョウジって名字、珍しいからナマエの親戚かと思って」
「…………ふうん」

ごめんよく知らないや、とへらりと笑う。ハリーはそっか、と頷いて、今度こそふくろう小屋へと向かっていく。その後ろ姿をちらりと見てから、私も寮に帰るべく階段に向かった。
私の名字は別に日本では珍しいわけじゃないが、ホグワーツにいたとかそんな話は一切聞いたことがない。魔法学校ってことは伏せるにしてもイギリスの全寮制の学校に行ってたなんて話があったらどこかしらから噂話くらい聞くだろうが、そんな話も聞いたことない。つまりそれは家ではないんだろうけど、ただの同姓、にしては……気持ち悪い感じがするなあ。ゾワっと立った鳥肌を摩ると、ぶつけたところが軽く痛んだ。

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