01

目が覚めたと思えば、視界にはよく数えていた天井の木目なんて何も無く、代わりに何やらコンクリートのような灰色の天井が一面に広がっていた。え、なんだこれ。目と首だけを動かして周りを1周見回すも、やはりいつもの少し散らかった、でも黒と赤で統一したお気に入りのインテリアの部屋ではなく、逆にほとんど物のない簡素なお部屋。
え、ええええ。勢いよく起き上がれば、ベッドが痛そうに悲鳴をあげる。……ん?待った、私のベッドはこんな小さくて可愛い安そうなパイプベッドなんかじゃないぞ。自分の寝相に悩みに悩んだ末に購入したセミダブルだ。流石にダブルに手を出せるほど金銭的にも間取り的にも余裕が無かった。でも結局セミダブルでも落下は防げなかった。私の痣は増える一方だ。って、そんなことはどうでもよくて。
これ、誘拐ってやつ?やばくない?私誘拐してもメリットなんもない。
部屋の隅に申し訳程度にある石の…机?ただ石を削ったような感じにも見えるが、その台の上にあった茶封筒をペラリと開ける。あ、破けた。
中を見れば緑色のカードが。そこには、英語でキ、キングス・クロス、ステイション。あ、キングス・クロス駅の、

「9と3/4番線……?はあ?なんじゃそれ」

そして、景色が変わった。





がたんがたん、がたんがたん。真っ赤な汽車ポッポに揺られ揺られて、行き先知れず。
なんじゃそれ、と呟いた次の瞬間、私がいたのは見知らぬ駅のホームだった。洋画で見たことあるような造りの駅でぽつり、騒がしい人(どう見ても外人)たちにもまれながら、景色が変わったと共に片手が勝手に持っていた謎の重たいトランクを必死にかつぐ。帰ろうにも道が見当たらず、出発の汽笛が鳴り驚いて、何も考えずそこにあった列車に乗り込んでしまった。
だが乗り込んだはいいが、こんな列車乗ったこともない。いつかテレビで見たような期間限定の古いお高い列車のようで、乗車券も何も無いし指定席なのか自由席なのかもわからない。というわけで、私は1人狭い廊下の端の隅っこでトランクを椅子に風を浴びている。ぶっちゃけ寒いが、これで勝手に個室入ってお金取られるよりはいい。どっちにしろお金は必要なんだけど。
確認したところ、私の持ち物は見事だった。トランクは魔法がかかっているんだか未来からきた猫ロボットから貰ったんだか知らないが、見るからにスペース以上の量が入っていた。が、それを全て確認しても見つからない、私の財布と携帯。常にポケットに入れていたはずのものがないというのはなんだか違和感ありまくりで、しかしあれが無くては私は何も出来ないのだ。
代わりに、トランクから出てきたのはこれまた茶色い合皮の財布、中に入っていたのはちっちゃいドラゴンとかライオンもどきとかヤギみたいなやつが書かれたおもちゃのメダルみたいな硬貨が何枚か。どっかの国のお金かもしれないけど、こんなん見たことない。ドルやフランならまだいいけど、確実に違う。っていうかテーマパークのメダルといわれても納得の見た目。もしや、これは誘拐犯の手の込んだ嫌がらせなのか。だとしたら許すまじ。私の諭吉を返していただきたい。
だが、なんだか気持ち悪いことにトランク内にはぎっしりと私が中高生の間に着ていた服(ほぼジャージ)や、一時期ハマっていたミサンガ作りセット、それからこれまた一時期ハマっていた寝袋や簡易ドライフードを含めるサバイバルセットがあった。なんとテントもある。確か壊した覚えがあったが、まあ素直に頂戴する。
それにしてもまあ、何故私はこんなとこにいるんだか。不思議だが、人生に疲れはじめた淑女への暫しの夢の旅だと思って納得する。文句は聞く気がないので却下。
それにしても、

「どこ行くのかねえ」

そしてまた、景色が変わった。




一日に時間が近すぎるデジャヴを味わったわけだが。
今度はお城のような場所で、どこからどう見ても小学生もしくは入学したばかりの中学生な子供たちの中に混じって、移動の最中だった。
子供だけど、目線は合うし、これはもしや私はめちゃくちゃ若返ってたりするのか?
お城のような場所で、一昔前の魔女の印象を持たせるとんがり帽子に、微妙なお洒落を施したローブを羽織ったマダムを先頭にぞろぞろと子供(やっぱり外人)たちと一緒に歩いて行けば、大広間のような場所に出た。ちなみにとんがり帽子を古くさいと思っているわけではない。あれはアイデンティティのイメージもあるから大事なグッズだ。だけど、今はもう魔法少女もふりふりの衣装と首からぱっくんちょされてしまう時代だ。許してくれ。閑話休題。
大広間のような場所には私の周りにいる子たちよりはいくらか年上であろう子供たちが揃って座っている。赤、青、黄、緑。色順、とはなんだろう、運動会の割り振りくらいしか出てこない。あ、寮かもしれない。どちらにせよ、すごく……信号機です……。そこはどうでもいいけど。

「 Abbott Hannah 」

多分入場曲かなんかを遅れて流したんだと思われる謎の外国の歌が流れ、着席した周りにつられて座った。するととても流暢な発音で誰かの名前を呼ばれ、少し驚いて身じろぎをした。
え、誰? 誰が誰を呼んだの? よくわからないまま集団の中から少し首を伸ばせば、私たちの中から1人、女の子がゆっくりと緊張しているように硬い足取りで、舞台のような場所に向かう。置かれた椅子へ座り、見るからにぼろくさい帽子を被った。
するとすぐに「 Hufflpuff 」という、低い男の人の声が聞こえた。それが広間に響くなりなんなり、黄色い席(アバウト)から歓声が上がる。
え、なになに、ついていけないんだけどどういうことなの?
きょろきょろと遠慮も緊張もなにも無く見てみれば、先ほどの彼女、アボットちゃんは林檎のようなほっぺを緩ませて黄色い席へ走って行く。

「あ、あの帽子喋ったよ……」
「魔法界ってすげー」

うえ?聞こえてきた周りの子たちの声に疑問符を浮かべる。わけがわからないよ!
魔法界ってなんぞ。帽子が喋るって。あのぼろっちいやつ?何年どころか何十年単位で洗濯してなさそうなやつ?あれが喋ったの?そして私はいつから外国語がこんなに理解出来るようになったんだ。わからないことだらけだ。

「 myouji namae 」

疑問は止まらず、ついていけないまま空気に呑まれていれば何故だか外国語発音で呼ばれてしまった私の名前。違和感を感じつつ今までの子の真似をして椅子へ座り帽子を被れば、なんと驚くことに帽子は私の脳内に直接語りかけてきた。

『君は、不思議な存在だ』
(!? こいつ、直接脳内に……!?)
『君が来たことによって、変わらない未来が変わるかもしれない未来となったらしい』
(厨二乙)
『すまない、私は未来の言葉がわからなくてね。申し訳ないが、君の意思はうまく聞けないようだ』
(電波なの? ガン無視の上に電波なの? 洗濯、する?)
『ナマエ・ミョウジ、君の強さは時に剣となり時に諸刃となるだろう』

「 Gryffindor 」

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