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「さっみぃぃぃぃ」
「今年も丸いなー」
「誰がデブだと?」
「言ってねえ!」

どんと威嚇するように軽くディーンに体当たりをしたら、温室の結露が揺れてびっしゃーと水が落ちた。恐ろしい。道理で寒いわけよ。震えながらローブの前をぎゅっと締めてネビルの書くまとめレポートを覗く。はえーぎっちり書かれてるもんだ。感心してアホっぽい声が出た。

「ネビルすごいねえ、私こんなに書けないよ。同じグループに君がいて良かったー」
「ほんとう?うれしいな、僕薬草学好きなんだ」
「確かにネビルは熱心に受けてるよな。同じ薬草でも魔法薬学とは大違い」
「うっ…スプラウト教授はやさしいし…」

それはそう。私もディーンもうなずいた。でも確かにネビルは薬草学を真面目に熱心にやってて、植物にやさしく言葉をかけている印象だ。心優しき少年よ…ジ○リの主人公に出てきそう。うわ似合う。ネビルってば将来性ありすぎじゃないの。大人になってもお花に水やりながら父親もしくは恋人のごとく声をかける姿が想像つくぞ。にーあーうー。褒めるとネビルはえへへと笑った。可愛いかったからほっぺをむにっと両手で挟んでむにむにすると、予想以上の体温の高さに私が固まってしまった。ナニコレあったけえ……。

「ナマエの手とっても冷たいよ!」
「死んでる?」
「縁起でもないこと言わないでよディーン。ナマエも次の授業があるでしょ!」
「あれハリー?いつの間に」
「僕が来ちゃ悪いの」
「いや別にそんなことはないけどもだね」

なんかご機嫌斜めじゃん?ぷんすかしているハリーに手を引かれて、ネビルたちに手を振りながら教室を出た。ロンもハーミーもやっぱりあんまり仲は良くないっぽいけど、ハリーまで不機嫌なのかー思春期だなあ。しかしハリーの手もあったかい。ぎゅっと握るとぎゅっと返された。そのおかげで、数分後私の手には人肌程度の温もりがあった。ナイスだハリー!
そしてハリーと玄関先で別れ向かった数占い学。今日も息継ぎの音が聞こえないベクトル先生の講義だが、今日はいつもとは違い珍しくノット先生が私の隣にいた。

「さて今まで授業を受けて来たあなたがたが自ら発見し理解しているか私が今言うことによって理解を始めるかどちらかわかりませんが数字には全て意味があり人生だけではなくあらゆる生物の生に数字は当てはまり関係し影響を及ぼします魔法界で主に一番重要かつ有名な数字は7という数字でこれは奇数であり────」

「俺も疑っていたから聖マンゴの入院患者リストを見た。それで、あなたはレベル5、つまり重篤患者扱いだった。生命は保たれているレベルだ。どういうことだと思う?」
「待っていきなり爆弾をぶち込んでこないで」

ベクトル先生の言葉が何にも入ってこなかった。おかげで私の羊皮紙にはでっかく7と書かれただけだ。は?なに?なんだって?私が生命が保たれているだけの状態だったってこと?なんじゃそれ。

「私めっちゃ生きてるんですけど」
「……俺にもそう見えるが」
「つかなんで聖マンゴの患者リストなんか見れ……あっコネね」
「否定はしない」

大人しく肯定しろよ貴族。チベスナ顔で見てしまった。ノットくんは本気で考えているらしい、まるで迷宮入りの難事件に挑む探偵みたいな顔してた。真実はいつも一つ!でも真実がどれかなんて私の頭じゃわかりゃしない。というか更に謎が増えただけだよ今回は。眉間をもみもみして溜息を吐いた。

「それマジで私?」
「日本人のナマエ・ミョウジ、ホグワーツ4年生の14歳があなた以外にいるのなら」
「……はーーマジかあ……」

歳はともかく、日本人で同姓同名のホグワーツ生はいないわなあ…だとすると私だ。記憶が無いとはいえ、周りの反応からみるに私は確実に聖マンゴにいたんだろうし……つまり、私だ。
参ったな、本当に本気で記憶が無い。無駄に羽根ペンの先にインクをつけて板書をしようとしたら、滲んでそれどころではなくなってしまった。バカじゃん何してんの私。

「薄々そんな気はしていたんだが、……記憶が無いのか?」

ノットくんのぼそりとした声に、俯いたまま頷いた。それからはお互い無言だ。話す気にもならなかったし、ノットくんも黙り込んだし、どうすればいいのかわからなかったのだ。記憶が無いとか言って信じる奴いる?私今こんなにピンピンしてんのに?明らかにおかしいじゃん怖いよ。
結局ベクトル先生の講義内容はびっくりするほど頭に入ってこなくて、ノットくんがノート見せてくれちゃったりした。ノットせんせー!そういう優しいところはあるのに爆弾は容赦なくぶっこんでくるのなに?やめた方がいいよ?



悩んでも悩んでも悩んでも悩んでも悩みは尽きないし謎は解明されないし、そもそもどうして私はこんなことで悩んでいるんだ…?と一周回って悩み自体が分からなくなってきても夕ご飯は美味しかった。席についてアツアツのグラタンをはふはふ食べながら、ハリーと顔を合わせた途端「これ見て!」と顔面に突き出された新聞を読む。ふーむなになに……。ヒッポグリフって聞いたことあんな。なんだっけ。……あ、マルフォイくんが怪我したヤツね、はいはいそういやあったなあそんなこと。

「今日の占い学のあとで、戻ってきてほしいってハグリッドに伝えなきゃ。ハーマイオニーもそう思うだろう?」
「もちろんそう思うわ!」

前に会ったときはそんな感じしなかったけど、慕われてるいい先生なんだなあ。ロンに押し付けられたブロッコリーのトマト煮を食べながらうんうん青春だと頷く。このブロッコリーめっちゃわさわさしてんな。もうちょっとくたっとした方が好みです。そしてロンはハーミーが見てないところで私に押し付けるのやめてください。代わりにグラタンに入ってたかぼちゃをまとめて押し付けたところで、ハリーが私を見た。

「ナマエも行こう」
「うん?」

どこに行くって?よく聞いてなかったぞ。もう一回言ってと言うと、ハリーはにっこり笑って私の手を取った。おっとこれは説明面倒だから強制だな?まあいいやと残りのグラタンを頬張った。
ハリーたちはハグリッドの小屋に行くんだと。小屋に住んでるとは驚きだが、そもそも魔法界の小屋は小屋じゃないんだろうな。階段は階段じゃないしな。羊皮紙を枕に半分寝ながら授業を受けた後、眠い目をこすってコートを頭から被りハーミーの隣を歩く。ハリーとロンは少し前でなんかやんや話しているがよくわからない。ハーミーもハーミーでリータがどうのとかよくわからない。盗聴?盗撮?よくわからないけど犯罪だと思うよそれは…。すっかり枯れた芝生に霜がわさーっとかぶさりじゃきじゃきと音を立てる中歩いて、もうすぐ小屋らしいときだった。

「ナマエ?どうしたのよ」
「────あれ?」

急に足が止まり、動かなくなる。前に出そうとしても、動かない。手を伸ばしても、足は動かない。

「えっ」

なんだこれ。なんで動かないの。焦ってローブの裾を踏み、べしゃっと転んだ。ハーミーが起きるのを手伝い、霜で濡れたところを乾かしてくれた。

「何してるの、もう」
「いや……あれ…おかしいな……」
「ナマエ?」
「うん……ご、ごめんハーミー。私、まだ呪文学のレポートやってないの思い出した……」
「なんですって!?提出明日じゃない!早くやるのよ!」
「う、うす」

へらりと笑って起こるハーミーに謝って、ハリーたちの後を追う姿を見送る。しばらくその場で足踏みしたけど、その先へは決して進むことが出来なかった。

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