19

目を開けると、そこに私の求めていた景色は何も無かった。
灰色の天井、灰色の壁、小さくて安そうなパイプベット。望んでいた家ではなく、いつか見た場所。しかし部屋には以前あった石を削ったような机もどきはなく、代わりにイベントとかでよく使われるようなこれまた安っぽい簡易机と椅子があった。その上には、ノートが乗っている。
私の持っていたトランクはベッドの上に乗せられ、私は部屋の入口があったような、不思議な位置にいた。窓もない、扉もない。まさに密室だな、とぼんやり思った。
靴は脱がされていた。靴下を脱ぎ放り投げると、ベッドに行きトランクの中を開ける。

「マジかよ……」

中には2、3日前に出された夏季休暇の宿題のみ。つまりレポート用の羊皮紙と教科書の山。衣類とかも何もなく、ただそれだけしか入っていない。
開いているトランクを衝動のままにベッドから放り投げる。消えてなくなりたい、なんて思ったのは初めてで、私の心は結構消耗していた。

何をすることもなく、ベッドに寝転ぶ。しかしどれほど時間がたったのかわからないが、眠気が訪れることは無かった。仕方なく起き上がり、初めて見る机とノートを見てみる。

「普通のノートだ……」

安物のパイプ机はぎいぎいと鳴りいつボキっと壊れてもおかしくないし、その上に乗った一冊のノートは驚く程普通のノート。コンビニとかでも買えちゃうCから始まってSで終わる、B5サイズのノート。カラーはピンクだった。女の子カラーってやつか?この1年羊皮紙しか見てなかったから結構新鮮。とか言ってる場合じゃねーわ。
ぺらぺらと捲っていく。白、白、真っ白。中にはなにが書いてあるわけでもない、至って普通の新品ノートらしい。

「…………これを、どうしろと?」

部屋を見回しても、目新しいものはこれのみ、あとトランクの中に宿題の山。眉間にしわがよるのを指でぐりぐりと阻止し、はあ、と息を吐いた。
放り投げて散乱した物の中から、羽ペンとインクを出してみる。インクをつけてみる。ノートに、とりあえず「 出 せ 」とでっかく書いてみた。何があるわけでもなかった。なおかつ書きにくい。ボールペンとか置いとけよ!

「誘拐犯に告ぐ、直ちにここから私を解放せよ、っと。うわ、インクが……めっちゃ染みてる……」

そりゃそうだわ。インクだもの。べたべたになったノートをそのまま閉じてインクを仕舞う。そのままインクが乾いてくっついてしまえ。剥がすのに苦労しろ誘拐犯め。
時計がないのでよくわからないが、結構時間がたったような気がした。しかしお腹が空くわけでもなく、眠くなるわけでもなく、ただただベッドに寝転び暇を持て余す。散乱した教科書類を片付ける気はな………………そういや宿題があったな……。

「もしや帰れま10?」

汚い床一面を見てハッとした。これやったら帰れるんじゃね?
一縷の希望に、私は飛び起きてとりあえず変身学から手をつけた。





「終わってしまった、だと……?」

私はいつからこんなとんでもない集中力の持ち主になったんだ。全ての宿題が、休憩も無しに終了した。終わってしまった。
言っておくが、私は自他ともに認める遅筆で、調べる能力も低い。一つのレポートにかなりの時間がかかる。というのに、全ての宿題が終わってしまうというのは、それはとんでもないことだ。何時間たった!?時計をくれ……。
しかし終わってしまった。でも帰れそうな気配はない。ははは、どうしろってんだよ。終わった宿題の山と羽ペンたちを机の上に置いたまま、またベッドに寝転がる。疲労感も空腹感もない、気味が悪い。気分も悪い。目を閉じても眠れず、ただひたすらに何かを考えるのも嫌でまた起き上がった。
ふと見ると、机の隅にやったノートの上に何かがある。さっきまでなかったはず。いつの間に出現したんだ、すごく怖い。恐る恐る近づくと、それは一通の手紙だった。どっかで見たことあるやつ、前にここに来たときも見たことあるやつ。
中を開いてみると、前とはまた違う内容で、しかし私にこんな長文を読む英語力はない。ホ、ホリデイ、ウィズ……

「鬼婆と休日?はあ?」

妙な文が並んでいることに眉を寄せた。なんだこれ。
なんだか一気に力が抜けて、精神的にどっと疲労感が来た。身体はぴんぴんしているから気持ち悪い感覚。

「あーあ、」

帰りてえ。
そう呟いた瞬間、視界が回った。

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