09

トロール事件から約一ヶ月、特に何もなく平穏に学校生活を過ごしている。結局あれは事故だったらしく、怪我人は私一人だったという。そりゃそうだ。あれが故意的だったとしたら、マジで笑えない。死人が出たかもしれないという事実に、これだからド田舎は…と頭を抱えた。熊以上の恐怖。ホグワーツは早急に電気柵を導入すべき(トロールやら魔法生物に電気が通じるのかは置いておく)。
しかしあんな危険極まりないことがそう何度もあってたまるか。と、思っていたら、なんと驚くことに魔法界はそもそも危険極まりないものばっからしい。マジでヤバい。誘拐犯早急に私を帰して。

「ク、クジチ?」
「quidditch!」
「クヂュ…クィ、クュデュ……何その意味わかんないやつ」

トロール事件から友人、初めての友人となってくれたグレンジャーちゃん、もといハーミーに興奮気味に言われた単語に眉を寄せる。五回くらい「quidditchよquidditch!」と言われたけど、わからないものはわからない。発音も出来ないまま諦めた私に、赤毛くんことロンは「諦め早いな君」とわざとらしく溜息を吐いたが気にせずハーミーに視線をやった。うっせ生粋の日本育ちなめんな。グレンジャーちゃんの名前も難しくて発音出来なかったため直々に「ハーミーでいいわ」とご許可をいただいた悲しい過去は忘れられない。ハー、ハーミィ、ハーミィ、オゥニー…マジで難しいんだってこれが。
ハーミーと仲良くなれば、自然とハーミーの仲間らしい眼鏡くんと赤毛くんの二人とも仲良くなることが出来た。と言ってもまあ、少し話す程度だけども。眼鏡くんはハリー、赤毛くんはロンと普通に呼べてるからうれしい。そうそう、なんとハリーは魔法界の英雄だとかですごい子らしい。まあよくわからず「へえ、すごいね、雑誌とか乗っちゃうの?」「本には載ってたらしいけど…よくわからない」「らしいってそれ肖像権の侵害じゃね?訴えた方が良いよ?」という会話をして困り顔をされたのはいい思い出だ。

「あなた、クィディッチを知らないの?」
「え、そんなポピュラーなの?多分それ地方限定じゃね?日本で聞いたことない」
「魔法界限定よ!」
「知ってるわけがない」

魔法界限定のクィ、クィヂュチュ…ああもう無理マジ無理。まあ、それを知ってるわけがないよねって言う。こちとらつい先日まで魔法なんて存在信じてなかったゴリゴリのパンピーであるぞ、っていうか魔法はぶっちゃけ今でも大して信じてない。信じられるかあんなふわふわしたもの!
脳内で話が脱線しつつ、やけにねっとりとしたスクランブルエッグをフォークでつつきつつ、行儀が悪くもハーミーの言葉に耳を傾けると、なんでもその魔法界限定の何かはスポーツで、このホグワーツでも寮毎にチームがあって、ハリーは奇跡的にそのチームの一員になっただとか。

「へえ、すごいね」
「君本当に何も知らないんだな」

呆れた顔を向けてくるロンにへらりと笑い、目をハリーに向けるとハリーはガチガチに固まり居心地悪そうにしていた。おろ?そこは自慢してきそうなポイントだと思ったが…どうやら違うらしい。

「ハリーはとても緊張してるの。明日が試合だから…私も緊張しちゃう」
「僕だって緊張してるんだ、っていうよりグリフィンドールで緊張してないのは君くらいだよモンキー」
「ロン!」
「ああ、いいよいいよハーミー。ふーん…試合かぁ、上手く行くと良いね」
「あなたって結構他人事なのね」
「いや事実他人事だし…?」

胡椒をかけて口に入れたスクランブルエッグの濃厚なバターの匂いに吐きかけるが、炭酸水で流し込む。ここ最近素朴な水は飲んでないなあ、と考えながらハリーをまた見やると、ウィンナーをもそもそと食べていた。寮対抗ということはまあプレッシャーはかかっているんだろうけど、私に言われてもどうすることも出来ないしなあ。先程とは一転してキッと見てくるハーミーに苦笑して、まあ気休め程度なら、とハリーに声をかけた。

「掌に人って三回書いて飲む込むといいよ」
「……hitoって何?」
「あれ、今日本語で言った?……あーと、ヒューマン」
「人間を飲み込むの!?」

日本人こわっ!!と声を上げたロンに、アーチャーと頭を抱えた。ンンー、そういくかぁー…。

「書くだけだよ、書くだけ。ヒューマンて書くのかはわかんないけど」
「日本語の人ってどう書くの?」
「こう」

棒と棒が支え合って人になるんだよー、とどこかで一度は聞いたことのある台詞を言いながら机の上に指でなぞると、ハリーはよくわからなかったらしく「書いて」と掌を出された。お、おう。少し意外で驚いたが、ハリーの手を失礼しやすと触り掌に指で人の字を書くと、ハリーはくすぐったいと笑った。ウワァショタァ…すごく罪悪感が湧いてきたが知らないふりをする。

「単なるおまじないの一種だけど、まあ気休め程度にどうぞ」
「うん、ありがとうナマエ」

少しはにかんだハリーにどういたしまして、と笑いまたフォークを持つ。なるべく怪我をしないといいなあ、と軽く祈りながらも、流石に学校でやるスポーツだし、そこまで危険がある訳ないしなと内心笑った。笑ったの、だが、その翌日私の思いは酷く打ち砕かれた。

翌日、私はハーミーとロンに連れられ早朝から大広間へ行き、ご飯をあまり食べようとしないハリーに無理矢理食べさせる二人を横目に眠たい目をこすり、そしてお外へ連れ出されて人の賑わうフィールドの観客席へ座った、わけだが。

「ねえ待ってあれ私の知ってるスポーツと違う!!」
「おかしいわ、箒があんな動きするはずないもの」
「聞けよ!」

私のしょぼい反射神経じゃ視認さえできないほどの速さでビュンビュンと飛んでいる箒on選手に、その周囲をガンガン飛ぶなんかよくわからないでっかい玉。でっかい玉は選手へ魔法でもかけられているのか自分から飛んでいき、攻撃を仕掛けている。って、ねえ、そもそも空中戦なの?どうなってんの?箒から落ちたら終わるよね?と顔を青くして大喝采の中で声を上げると、後ろに座っていた黒人の男の子とその友達っぽい白人の男の子が説明してくれた。
曰く、あのでっかい玉はブラッジャーで、ブラッジャーを使って妨害しながらゴールへ入れて点を取り合うのだとかなんとかで。

「え、それめっちゃ危険なサッカー?いやラクロス?ホッケー?」
「So cooool!」
「 ど こ が だ よ ! 」

魔法界って本当、マジで意味がわからない。ハーミーが堂々と教師に攻撃をしかけるという優等生それでいいのかという事案も知ることなく、私はハリーの勝利を心臓が縮まりながら見守ったのであった――――。かえりたい。

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