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第3の課題が終わってから約一月の間、皆のハリーに対する態度はまるで腫れ物に触るようなものだった。ひそひそと色んなところでこっちを見て話され何度キレかけたか。あーイライラする。そうしてイライラを我慢して、今年もちゃんと学年末はやってきた。
大広間に入ると、垂れ幕は何やら黒くて皆が俯いていた。困惑しながらグリフィンドールの席につき、食事をする。カルカロフがいないとか本物のムーディ教授だとか、ハリーたちの会話はよくわからなかったが、確かにカルカロフ校長の席は空いていたし、ムーディ教授はあの日医務室で見た痩せこけたバージョンだったし、なんかこう、おどおどしてる。突然何があったんだろ。部屋にゴキブリでも出たんかな。サックサクのクロワッサンを黙って食べる。美味しいけどこれボロッボロ落ちるな。私が食べるの下手くそ案件ですよ。口の周りにもついてるから、とロンに呆れられてしまった。流れるようにハリーがナプキンをくれた。もはや恒例のくだりとなってきてしまったな…私の雀の涙も無かった威厳が消失してしまう……。
机の上の食事があらかた10代成長期たちの腹の中に収まったところで、ダンブルドア先生が壇上へ立つ。

「今夜は皆に話したいことが色々ある。しかし、まず初めに一人の立派な生徒を失ったことを悼もう」

ダンブルドア先生は、ハッフルパフを向いて、セドリック・ディゴリーと言った。……えっ?身体が固まり、背中がひやりと冷たくなる。錆び付いたネジのようにグギギとハリーを向くと、ハリーは小さく頷いてから、「色々あって」と言った。い、色々あって?

「生きてるんじゃ、」
「大丈夫だよ、安心して。そういうことになったんだ」
「…………そういうこと?」

ハリーは小さく頷き、肩を竦めた。それ以上は言えないってことか。よくわからんが、わかった。とりあえずディゴリー氏は生きてるし、死を偽装するってことね。あれでしょ、FBIの証人保護プログラム的なやつ。そう思っておくことにする。
そしてダンブルドア先生は続けてハリーの名前を出し、ヴォルデモートとかいう脅威がどうのこうのと言って、我々の結束は固いとか、まるで軍──いや、内容的には革命軍側のようなことを言って締めた。話し中私の周りには多分はてなマークしかなかった思う。そのヴォルデモートってのが敵でFA?魔法界、なんか波乱だなあ。
学年末パーティが終わると、私のところにマクゴナガル先生が来て、コソッと荷物を持って医務室へ行くよう書かれた紙を渡された。あとはなんとなく察しがつくというものだ。一緒に汽車へ行こうと誘われたけど、ちょっと約束があってねと断り大広間の前でみんなと別れる。医務室へ行く前に、ムーディ教授に会わないと。先延ばしにしたいような、今がチャンスのような。

「ナマエ!」
「おん? ────クラムくん?」

角を曲がると、後ろから声をかけられた。振り向くと大きな体がずんずんと近づいてくる。う、うおお。ちょっと圧倒された。クラムくんは硬い表情でじっと私を見下ろす。

「エゴロウナから全て聞いた。謝る機会が無かった。……すまなかった」

そう言ってクラムくんは軽く頭を下げる。はっ!?ビビった私は慌てて顔を上げさせた。誰かに見られてないよね!?やめてよモンキーまた新聞に書かれるの嫌だよ!クラムくんもそんなことで軽率に頭下げちゃだめだぞ!頬が引き攣る。

「いんやあ、私も悪かったもん。こちらこそごめんなさい。わざわざありがとね、クラムくん」
「いや……ハームオゥンニニーのことヴぁ好きだ。でも、ヴぉくは君との友情も大切にしたい」

うわめっちゃ嬉しいこと言ってくれる。照れるわー。頬をかいて誤魔化した。アリガトアリガト。クラムくんのいるブルガリアはとても寒いらしいが、是非遊びに来てくれと言われて、多分遊びに行く日は来ないだろうなと思いながらもうんうんと頷いた。はは。
クラムくんのお友達がクラムくんを呼ぶ。そちらを見ると、なんとムーディ教授が歩いていた。みっけ!

「んじゃクラムくん、お元気で!多分表にハーミーいるから!じゃね!」
「待て、ナマエ」
「うん?」
「ハリー・ポッターヴぁいいやつだ」
「知ってるよお」

だって私の友達だもんね!にししと笑うと、何故かクラムくんはため息を吐いて軽く頭を振った。えっなに?否定?友達じゃないって否定されたの?ちょっとショック。しかし視界の端のムーディ教授はどんどん行ってしまう。真相を聞かぬまま、私はクラムくんに「じゃあね!」と声をかけて駆け出した。

ま、まってえええ。廊下を駆け抜けて、曲がり角で壁に当たって、よろけながらもムーディ教授に追いついた。

「ムーディ教授!」

後ろから大声で呼ぶと、教授はいつもの油断大敵!どころか、ビクッと跳ねてひっくり返るようにこっちを向いた。えっなに?マジでどうしたん?PTAにでもドヤされてビビッたのか?今更じゃんね。隣に立つと、超怖いおじさんならぬビビりおじさんは「な、なんの用だ」と覇気のない声を出した。

「あの、私の祖母の件なんですけど」
「祖母?知らん!」
「……知らんはずないでしょ、そっちが言ったんじゃん、必要なものがどうのこうのって。アレなんなんですか?マジなんですか?なんで教授知ってたんすか?」
「ええい、意味のわからんことをぺらぺらと。わしは知らん。わしはアラスター・ムーディだ!」
「知ってますけど」
「わしがアラスター・ムーディだ!貴様に吹き込んだのはわしではない!」
「は?」

わかったな!そう言うと、ムーディ教授はすたすたと行ってしまった。思わず固まってしまい、気づくとムーディ教授はいなかった。……いやいやいや、どういうこと?わしではない?どんな責任転嫁の仕方よびっくりだわ。
もやもやしながら、遠くからブオオと汽笛が聞こえてきたんでとりあえず医務室へと向かうことにした。とぼとぼと歩きながら考える。
ムーディ教授なんかおかしくない?結局失踪事件のことわからずじまいだし。っていうかなんで私がこんな月9の刑事ドラマとかでやってそうなことに首突っ込んでんのさ。今更意味わかんなくなってきちゃったよ。ため息を吐きながら、失礼しまーすと医務室のドアを開ける。
そして、視界が回った。

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