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ぐらぐらと世界が揺れる。……ん?世界が揺れる?地震かな……変だな……。薄らと目を開けると、眩しくて逃げるように下の柔らかい布団に顔を擦り付けた。それでもぐらぐらと揺れる。

「ナマエ、ナマエ」
「んー……」

がくっと肩ごと持ち上げられた。およよ。目を細めながらゆっくりと開く。……ハリー?おや、ハリーだ。

「おは、よー……」
「ナマエ、君って、もう……!」

いつの間にか寝ていたようだ。でも眠気が収まらない。寝起きの掠れた声で挨拶をすると、強い力で引っ張られてハリーにぶつかる。肩にハリーの頭が乗っかって、じわじわと濡れていくのを感じる。泣いてんの?なんで?っていうかハリー力強いなあ。しかし眠くてあたまがまわらない。だんだん瞼が落ちていく。揺れが心地よくなってきた。ゆりかごってこんな感じだろうか。ぶるぶる震えるハリーの背中をゆっくりと手を動かして摩る。耳元でぼそぼそ声がする。うーん。

「どうしたの……うん……?んん……きんか……うん……セドリック……?セドリックがどしたの……うん……いきてたの……それはよかった……しんぱいしたんだよ……しんじゃったのかと……おもって……そういや……あれ、なんだっけ……うん……?うん……うん……そだねえ……うん………」

正直に言おう、そのまま寝た。




次の日のことだ。頭にガンガン響く酷い怒鳴り声で目が覚めた。体を起こすと男性が部屋から出ていく背中だけ、カーテンの隙間から見えた。一晩中突っ伏していたせいか肩が嫌な音を立てた。

「……なにごと?」

困惑したまま首を傾げる。シーツの上に放ったままの手を取られて、見るとハリーがベッドに入ったまま私の手を握っていた。ハリーの目元に赤く擦ったあとがある。

「……えっと、おはよう」
「うん、おはよう」
「ハリ、へぶっ、あの、ちょっと」

にっこりと笑われて、よくわからんままへらっと笑い返すとハリーの袖でごしごし頬を拭われた。えっちょ。力つよ。昨日からハリーの筋力系成長を実感出来て何よりだけどもだね。

「あの、どゆこと?」
「昨日の夜のこと覚えてない?」
「犬撫でた」
「撫でた!?」
「そ、そんなびっくりすることかね…」

勝手に飼い犬触ったことならごめん、と謝ると、そういうことじゃないんだけど……と悩ましげな顔をされてしまった。しかしハリーは直ぐにパッと笑顔に戻る。そして、手を引かれて抱きしめられた。ハリーは寝起きじゃなさそうだな、身体が冷えてる。暖めるように背中をさする。

「多分ナマエにも知らされると思うんだけど……秘密だよ」
「寝起きに重大発表はきついな」
「セドリックは、生きてるんだ。セドリックが死んだと思ってたら、生きてたんだ」
「あ、ああ…なるほど……?それはよかった。本当に、よかったねえ」

私の肩口に埋めた頭をぽんぽんと撫でる。ちょっとマジで寝起きにはきつい重大発表だけど、っていうか死?死ってあれか?deathか?マジでハリー昨日何があったの?と問い詰めたくなるような内容だったけど、私はぐっとこらえて息を吐いた。
私にはハリーが抱えている事情がわからない。ハリーが私に隠そうとしているから、という理由を前提においてるけど、正直なところ下手に首を突っ込むと帰る決心が揺らぎそうだから私も知らんふりを徹底してる。ずるいだろう、本当なんでグリフィンドールになったのか。
もし、もしもの話だし極論ではあるけど、人生の別れ道の前で迷い、今までのものとは違う道を選ぶようなことをしたくない。私は最初で最後のチャンスを捨てられない。人生と友情のどちらかと言われたら真っ先に人生をとるべきだ。だから、そうならないかもしれない未来を避けている。それに心身ともにこんなに傷ついて、まだ14歳の身で過酷な環境にあるハリーを私では守れないだろう。魔法も出来ない知識もない、何の役にも立たないモンキーだ。でもハリーの力になってやりたいと思う自分がいることが、恐ろしい。年々心を揺さぶられている。たくさん言い訳を考えて言い聞かせて生きている。だが、この温もりが冷たく失われることを想像するだけで、背筋が凍るのだ。ハリーの温かさを確認するように、抱きしめる手に力を入れた。

「ふふ、どうしたのナマエ、くすぐったい」
「……なんでもないよ」

ディゴリー氏はまだ目覚めていないが、ちゃんと五体満足の無事らしい。ハリーも一晩寝てだいぶ落ち着いたんだとか。とりあえず難しいことは考えずゆっくり休もうぜ、と笑いあって、めでたしめでたし、だ。

「あとねナマエ、起きたときからヨダレのあとがあるよ」
「ああ…だからさっき私の頬を拭って……いや痛い、痛いからハリー擦れるから」

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