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ハリーとディゴリー氏が目の前で先生に抱えられ去っていくのを呆然と見送ってからというもの、会場はパニック状態で、各々の寮の監督生たちも混乱していただろうに、監督生の責任があるらしく中には泣きながら指示する人もいて、私たち生徒は彼らの誘導のもと寮へ戻った。気分は最悪だ。ずっと悪夢の中にいるみたい。今朝から色んなことが起こりすぎて、何が何だかもうわからない。ハリーは薄らと目が開いているのを実際この目で見たから、生きているということはわかる。でも身体はボロボロだった。ディゴリー氏なんて本当にわからなくて、ただ母親のような人が泣き崩れているのを見てゾッとした。
寮へ帰る途中の廊下で誰かが言った、試合なんかやらなきゃよかったんだ!という叫びに頷く。誰もこんなことになるなんて、思ってなかったよな。
ハリーは大丈夫なのか。なにがあったとか、もうそんなのはどうでもいい。怪我の状態はどうなってるんだ?呼吸はしっかり出来ている?あのときは生きていたけど、なんて、そんな心配がずっとぐるぐる回って。グリフィンドール寮の談話室はほとんどお通夜状態だった。部屋に戻った子もいれば、怖くて眠れないと談話室で夜を明かそうとする子もいて、私も後者だった。とてもベッドに横になれる気はしない。

「大丈夫か?」
「…………うん」
「……悪い、馬鹿なこと聞いたよ」

入り口の隅で膝を抱えていると、隣に温かい体温が来て、くしゃりと頭を撫でられる。腕に埋めていた顔を上げると、ウィーズリーの双子のがいた。1人は私の目の前に、1人は私の横に、同じ顔が同じような辛気臭い表情だった。

「ロンがいないんだ。多分、ハリーについていった。きっとママたちもそっちにいる」
「…………そっか」
「行かないのか?」

私が行ったってなんの役にも立たないのに?魔法は下手くそだし、知識もないし、ハリーは私に話したくないことが沢山あるのだ。今回もそれが絡んでいたら、私が首を突っ込むことじゃない。なんて言い訳を自分にしながら、きっと、私はハリーが傷ついた姿を見るのが嫌なのだ。首を振る。すると、隣にいたウィーズリーが私の頬に手を当てた。かさついた手が私の冷えた頬に体温を分ける。

「医務室だ、わかってんだろ」
「そうだぜナマエ。お前は面倒臭いとこあるから悩んでるんだろうけどな」
「男なんて単純なもんなのさ。なあ兄弟?」
「その通りだ兄弟。わかったらほら、立て」
「立てよナマエーッ、お前意外と重いな……」
「失礼な……」

正面のウィーズリーにぐっと持ち上げられて、無理やり立たされる。そのままくるりと後ろを向けさせられて、半ばというか、モロ寮から追い出されてしまった。う、うおお。廊下でたたらを踏んで寮を見ると、ドアはもう閉ざされていた。な、なんという強引さ。シンと廊下は静まり返っている。婦人はうふふと笑い手を振った。……さいですか。ハハ、私の気の抜けた半笑いが廊下に響いた。


のろのろと歩いても医務室には辿り着いてしまう。ドアの前で入ろうか、でもやっぱ寮に戻ろうかと逡巡していると、中からマダムが出てきて無理やり入れられてしまった。なんでみんな強引なの?
中には片手で数える程度の人がいた。思っていたより少ない。奥のベッドにカーテンが引かれていて、緊張状態に陥りそうな体には横から大泣きのハーミーが抱きついてきた。ほぼタックル。

「ぐふゥっ……つ……ハ、ハーミー……」
「ひっく……ナマエ……!」
「……ハリーは?」
「それが、まだ来てないんだ」

ハーミーの涙を肩で受け止めて、彼女の震える背中を摩る。ロンもまた赤い目元で暗く言った。そっか。まだ来てないんだ。とりあえず座って待とう、とハーミーを椅子へ誘う。と、カーテンの隙間からベッドに横たわる人が見えた。

「……ムーディ教授?」

なんでここに。色々なことを思い出して顔が歪む。でも、ベッドで眠るムーディ教授はどこか様子が違うというか……痩せてる?そう、痩せてる。頬は痩けてるし、なんか憔悴状態みたいな……会場で見たムーディ教授とは全然違う。どうなってんだ?私の疑問に答えてくれる人はいなかった。
椅子の数も限られてるから、とりあえずハーミーとロンを座らせて、私は2人の前にしゃがみ2人の手を握る。ぎゅうと力を込められて、2人の不安な思いが流れ込んでくるようだった。少しいいかしら、と後ろから声をかけられ、首だけ軽く振り向くとロンのお母さんと、多分お兄さんが。立ち上がり、しっかりそちらを向く。みんな本当に綺麗な赤毛の家族なんだなあ。

「昼間はごめんなさい、私、記事を鵜呑みにしてしまって」

一瞬なんのことだと不思議に思ったけど、記事という単語にああ…例のやつかと思い出した。ていうか正直こんな話はどうでもいい。が、今はなるべく重苦しい空気でいない方がいいだろうし。出来うる限りの笑みを浮かべる。

「いえ、大丈夫です。私にも悪いところがありましたから」
「悪いところ……?じゃあ、やっぱりあなた、」
「四角関係はマジでないです、それは本当にないで、ゴフッッ!?」

す、で終わるはずが、最後まで言えずに横から何かが飛んできた。そんで不意打ちのタックルに耐えきれず床に倒れ込んだ。本日2回目の攻撃。ウッ肘が。いてえ。しかしぎゅううと人の腹を抱きしめるハリーの姿に痛みを一瞬忘れた。一瞬だけな。っていうかこれは抱きしめるっていうより締め、締めだよ、ねえちょっと。内蔵の圧迫がやばいって。

「ハリー!」
「いてえ、いて、ハリーちょっとまてや、」
「ハリー、大丈夫!?」
「ヘイヘイハリー聞いてっかギブ!ぎぶあーっぷ!」

バシバシハリーの背中を叩いてギブ!と叫ぶと慌ててロンとハーミーがハリーを離してくれた。脱力してべちっと床に倒れ込む。マジで臓物がエマージェンシーだった。はあはあと息を吐く。床についていた手を取られて、またコケッと体勢を崩しかけるが誰かに支えられた。いや、誰かじゃない。顔を上げると、傷だらけのハリーがぼんやりした目で私を見ていた。
今夜は絶対に質問するなと私たちに強く言ったダンブルドア先生がハリーを呼ぶ。私も立ち上がって、ゆらゆらと足元がおぼつかないハリーを引っ張ってベッドに座らせた。その状態でよく人のこと締める力あったなあ……。
着替えるようなので離れようとすると、手が握られたまま離されない。えっ。おい。グッと力を込めても離れなかった。マダムはそのままカーテンを閉めてしまう。えっちょっと。

「それはちょっとなあ……」
「ここにいて」
「私まだ捕まりたくな、いて、いてえってハリー」
「ここにいて」
「力強くなったね少年……」

わかった、わかったよ。ここにいるから、後ろ向くからそれでいいね?そこは頷かせて、着替えるの邪魔でしょと今度こそ手を離す。その隙にと出ようとすると「ナマエ!」と呼ばれてしまったので大人しく留まった。3歳児か、と思ったけど、今日あったであろう私には想像のつかない数々を思うと甘やかしたくなってしまう。そうしてハリーが着替え終わると、ハーミーたちもカーテンの中に入ってきた。すかさずベッドの横に黒い犬が来る。……いぬ?うん?いぬ……犬だな……。当たり前のように医務室に犬がいるけど誰も何も言わないので私もお口チャックした。

「僕、大丈夫だよ。疲れてるだけ」

そう皆に言うハリーの表情は確かに疲れている。何があったかわからないけど、それだけでなんとなくやばかったんだろうと察せた。大人しくベッドに入ったハリーに布団をかけ、マダムに渡された色のやべえ薬を飲み終わったハリーが手を出してくるので、しっかりと握る。

「……ナマエ、あのね、」
「うん」
「疲れたよ」
「うん」
「手、繋いでてね」
「おう、任せな」

ニッと笑って握る手に数回力を入れた。少しうとうとした後に、こてんと首が横を向く。規則正しい呼吸に眠ったことを確認した。しかし手から力は抜けなかった。がっちり。どんだけ。任せろって言ったからな…まあいいか……と私も楽な体勢を整えると、ふいに犬と目が合って息が詰まった。じっと見つめ合う。観察されてる気分。興味本位でそっと手を伸ばして頭をわしわしと撫でる。犬は大人しかったけど、なるほどスナッフルズってこいつか……と呟くとビクッと飛び跳ねたからちょっと面白かった。

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