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ビクッ、ビクッ、眠るハリーの身体が跳ねる。最初は元気な夢かな、と思ったが、数回続くとなんだかちょっとな。ロンと目を合わせてハリーの様子を伺う。ハッ、ハッ、と息が少し荒い。……なんかおかしいぞ。手に触れると冷たくなっていて、思わずぎゅっと握った。様子が変だ。

「しかし海王星は以前にも言いましたようにゆっくりと動き世界を惑わせるものですわ」

だらだらと汗が酷く、身体がどんどん冷えていっているようだった。ハリーの両手が耐えきれないというように自らの顔を覆う。ガタガタとハリーの身体が震え出した。痙攣?やばいな、何かの中毒か?いや、もしかして熱中症かも。そう思うがすぐに手を伸ばして力を入れ、背後の窓を全開にしたところ、ぐらりとハリーの体重の全てがこちらへ倒れてきた。こんなんもう授業どころではない。

「その遅鈍な星が長い時間を経て周り、火星と出会うことによって、いよいよ世界の滅亡が訪れるのです!」

「う゛ぅぅぅ、」
「ハリー!」

支えきれず、私が下敷きになる形で床に倒れ込む。呼吸が浅く、苦しそうなうめき声がして。ロンがハリーを起こそうと肩を揺さぶるが、身体が暴れるだけで意識が浮上しそうにない。のたうち回り床にうちつけそうな頭を抱えてひたすら名前を呼んだ。

「ハリー!」
「ハリー、起きろ、ハリー!」

「うわあ゛あ゛ぁ゛ーーーーッッ!!!」

ハリーは額の傷のある場所を両手で抑えていた。ハッと目が開いて、翡翠の目玉がぎょろりと動き、潤んだ目が私を捕らえる。あ、あ、と小さく悲鳴の余韻が出されて胸が傷んだ。

「大丈夫、大丈夫だよハリー」
「うし、うしろ、後ろに、ヒッ」
「後ろ?何も無いよ、何もいないし誰もいない」

伸ばされた手をしっかり掴んで抱きしめる。後ろに、なんだろうか。安心させるよう背中をさすりつつ、青い顔をしたロンに手伝ってもらい2人でハリーを支える。水、水……無えじゃん!見回しても見当たらない水にクソッと、近くの机に乗ったコップに杖を向けた。

「ナマエ、なにして……ウワッ!?」

とにかく前を思い出して、水出ろ!と願う。少ししてから、ボコボコボコとコップの中に溢れ出し、しかし勢い止まらず床が軽くびしゃびしゃになってしまった。うわやっべこのままじゃ洪水じゃん。もういいから飲めないからもういらんから!と口に出すとパチッと切れたように水が止まった。ふーやれやれ。
少し引いたような顔をしたロンにコップをとってもらい、近づけてハリーの口に少しづつ含ませる。これしか方法思いつかなかったんだってば。ぐらぐらと揺れている頭を抑えたままハリーの呼吸が整うのを待つ。

「大丈夫か?」
「大丈夫なはずありませんわ!」

ロンが聞いたことに、シビレル先生が返事をした。ざわつく生徒たちをかき分けてシビレル先生がこちらへ来る。

「不吉な予兆?亡霊?何が見えましたの?」
「なんにも」

私の肩に顔を埋めながらハリーは首を振り、掠れた声で答えた。震える冷たい体をさすり続ける。シビレル先生は酷く脅えているような様子のハリーに甲高い声をあげて詰め寄った。

「あなたは傷をしっかり押さえつけて、床を転げ回ったのですよ!さあポッター、こういうことにはあたくし経験がございましてよ!」
「やめてください」

おいおいおいどんな状況かわかってるのか。経験があるっつーことは、今まで何度かこういう生徒がいたと?熱中症の重度に近いような症状だぞ。この教室は前科ありって?いくら魔法界でもそれは危険だろ。素人目には判断がつきにくいし、ハリーを医務室へと進言すると、シビレル先生にあなたはお黙りなさい!と言われてしまった。ハリーが訴える。

「ひどい、頭痛がします」
「まあ!あなたは間違いなくあたくしの部屋の透視振動の強さに刺激を受けたのですわ!」
「はあ?」
「今ここを出ていけば機会を失いますわよ、これまでに見たことのないほどの、」
「……ナマエ」

頭を振ったハリーに、助けを求められるようにぎゅっと抱きつかれた。しかしその力も弱く。私は心得たと頷き、ハリーを支え持ち上げるようにぐっと踏ん張った。多分これで合ってるはず。

「ポッター、ミョウジ、何をしているのです!はやく続きを、」
「ハリーを医務室へ連れていきます」
「なんですって!?センスのないあなたにはわからないでしょうけれど、この透視振動はあたくしでさえ経験が少ないとても大きなものですのよ!?」
「遠いどっかのことより目の前の生徒の命の方が大事だろうが!」

思わずシビレル先生に吠えるように怒鳴ってしまい、教室中がシン…と一瞬静まり返った。うわ。寮点減るかな。悔しいが仕方がない。
シビレル先生が静かな間に、ふらふらするハリーを支えつつ出口へ向かう。しまった、ここ梯子なんだよな。背負って降りられるかな。そう思っていると、ロンが杖を出して「ウィンガーディアムレヴィオーサ」と呪文を唱えた。ハリーの身体が浮いて、ゆっくり下へ降りて行く。ナイス!親指を立てると、ロンは未だ青い顔をしていたけど頷いた。全く頼れるダチだぜ。

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