114

図書館に用があったのは嘘じゃない。返却期限ギリギリの本を持って入ると、なにやら談話スペースの一角が賑わっていた。返却手続きをして野次馬根性でその一角を覗くと、なにやらスリザリン生とダームストラング生が盛り上がっているらしかった。なんだ。楽しそうでいいね。しかし用はないので踵を覆すと、おやモンキーじゃないか、という声。振り向くと、マルフォイくんがいて、そのお仲間とその中にノットくんもいた。

「1人か?ポッターにフラれたのか?」
「そうそう」
「……適当に流すなよ、面白みがない」
「クラムにもフラれたんだろう?」
「…………どなた?」

マルフォイくんと同じトーンで話しかけてきたのは見知らぬダームストラング生だった。金髪の髪をふぁさっとして、ニヤニヤと笑みを浮かべている。友達だったか?ってレベルの馴れ馴れしさに、ついマルフォイくんに聞いてしまった。

「これは失礼、僕はエゴロウナ・コートフだ。クラムの友人として、証言者にもなった男さ」
「……証言者?」
「ああ。君とクラムの恋物語のね」

きゃらきゃらと笑い声が響く。実に楽しそうだ。しかし私は少し首を傾げて頭を悩ませた。恋物語の証言者……?っていうかいぇごろーなってどっかで聞いたことあるような……なんだっけな……。思い出せない。ムムムと眉間に皺を寄せたままいると、ノットくんがボソリと「リータ・スキーターの記事だ」と助け舟を出してくれた。あっ、あーー!

「あれ君か!テキトー言ってくれおってからに、ほんっっと面倒なんだけど」

ガッと近づき下から睨みつけると、いぇごろーなは少しビビッたように後退した。おいこら根性無し、喧嘩買われる覚悟で売れよな。俺の杖を持った拳が火を吹くぜ。つまり拳。

「や、野蛮なモンキーとは本当らしいな。だがクラムと図書館で密会していたのも、グレンジャーと取り合っていたのも事実だろう?」
「違うからこんな怒ってんだろうが。思い込みで勝手に人の名前を使うなバッキャロー。いつか足元救われんぞ」
「何故君如きにそんなことを言われなきゃならない!」
「私如きにそんなこと言われるようなことをしでかしてるって気づけっつの。まだ未成年で学生だから許されるかもしんねーけどな、大人になったら法も守っちゃくれないんだぞ」

私が名誉毀損で訴えたら勝てるってわけだ。金で揉み消されない限りは。多分揉み消されるからなんとも言えないけど。っていうかアレッこれも脅迫罪?いやいやそこまでのもんじゃ……ギリギリの橋か、やっべ足元救われるブーメランじゃん。ここらで退散しとこ。私も結構小さい人間である。しかし背後から待て!と止められる。なんじゃいな。

「じゃあ君はクラムを好きじゃないというのか!?」
「…………彼はあれかい?拗らせたファン?」
「なんだその言い方は!僕はクラムの1番のファンだぞ!」
「あーはいはい把握、どこの沼にもいるよねこういう面倒なオタク」
「おまえは何を言っているんだ」

マルフォイくんか憮然とした表情で言う。というかここまでやいのやいの言わず黙っていてくれるスリザリン生も珍しいものだ。今日はハーミーに喧嘩を売ったパンジーちゃんとやらがいないこともあるらしい。案外男子だけだと静かなんだね。面倒なオタクはうるさいけども。

「1番のオタクなら、クラムくんに迷惑をかけることをしちゃダメだよ。ファンっていうのは良くも悪くも周囲の人にその人はどんな人かっていうのを知らしめちゃうから、よくあるじゃん民度ってやつ。クラム選手のファンキッズ多いからーとか言われたくないっしょ?」
「なんだそれは」
「まあ聞きなって。君彼女いる?クリスマスパーティー誰誘った?」
「何の話だ」
「いいから」
「クリスマスパーティーは……レイブンクローのマリエッタ嬢を。あまり美人ではないが、笑うと可愛い」
「ダームストラング生ってみんな直球なん?」

デジャヴな感じで思わず真顔でマルフォイくんたちを見ると、彼らはきょとんとしていた。は、ははーん、そういうことね。ダームストラング生っていうか西洋人ってことね。そういや普通に廊下でキスする人種だったわ、いちいち照れる私バカじゃん。っていうかどうりで覚えがあったわけだ、マリエッタの相手か。マリエッタ結構面食いじゃん。

「こほん、失礼。じゃあいぇごろーなはマリエッタにフラれた?」
「な、なぜそんなことを聞く!失礼じゃないか」
「その失礼なことをクラムくんにしたんだよ君は」

はっきり言うと、いぇごろーなは固まった。目を丸くして、私を見る。うんうんと頷くと、わなわなと口が震え出した。

「そんなことは、」
「したでしょ、クラムくんの個人的な問題を全国的に?いや世界的に?広めちゃったよね。クラムくんはどう思うかわからないけど、少なくとも世界中の人の何人かはクラムくんが二股をかける男だと思ったかもしれませんな」

どんどん青くなっていくいぇごろーなに若干罪悪感を抱きつつ、私も迷惑こうむってるんでNDK?NDK?と周囲を回りたくなった。ぐっと我慢して、肩をすくめる。

「まだ10代思春期真っ只中のただの青年だ、同世代でしょ。1番のファンっていうなら配慮してあげな。それと、ハーミーやハリーはもっと幼いんだからこっちのことも考えてくれよな」

そんでもって情けは人の為ならず、因果応報で大体のことはブーメランで帰ってくんだからな。え、知らない?日本のことわざ。イッツァジャパニーズコトワザ。いや、カクゲン?なんていうのこれ?思わずノット先生を見ると、綺麗なクイーンズイングリッシュで「proverb」と答えてくれた。ナイス。

「僕はクラムになんてことを……」
「何様なんだモンキー。偉そうに説教か」
「事実だっつの。君らも知ってるでしょうが、呪い混じりの手紙大量に届いてて死活問題なんだよ。記事のせいで死人出たらどうすんだ、冗談で言ってるわけじゃない」

フンッと鼻を上げてマルフォイくんが私を睨む。私も大人気なく睨み返して言うと、なんとマルフォイくんの顔が真っ青になってしまった。そして俯いてしまう。これには私もびっくりした。え、えっ、何どうした!?私なんか変なこと言った!?どっか地雷踏んだ!?いつもならさらに文句を重ねてくるはずなのに。わたわたとする私に、お付の2人もわたわたし始めた。どうしたマルフォイくん。そしてどうやら全てを知っているらしいノット先生が「なるほど、興味深い」とだけ呟いた。今日のスリザリンマジでどうした???

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -