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どうしても思い出せなかった。
ホグズミードデイに、私が1日をどう過ごしていたのか、全く思い出せなかった。
グリフィンドール寮の門番マダムに聞いてみて、「夕方頃に一度帰ってきたかしらね?」と言われ、ずっと寮にいたわけではないらしいことがわかった。だからといって、私がどこにいたのか、他に証明してくれる人がいない。絵画に聞いてもマダムピンスに聞いても、見ていないと。それどころか、ホグズミードに行ったのでは?と言われる始末で、でもそんなはずはないのだ。行ったのなら行ったでも記憶があるはずなのに。

「ナマエ、そっちのジャムとって」
「……あいよ」
「このあとフクロウ小屋に行ったあとで厨房に行こうと思ってるんだ。見てこの靴下、ドビーにあげるんだよ。ナマエも行かない?」
「……あー、ごめん、行かない」

ハリーからの誘いに肩を竦めて答えると、ハリーはムッとする。ストロベリージャムをパンに塗って、1つを私にくれる。お、おお、ありがとう。

「どうして?」
「ちょっとやりたいことがあってさあ」

まあ嘘だけども。今のところ今日の予定は白紙だけども。ハリーから少し目を逸らすと、「ふうん……そうなんだ……」と120%疑っていますというような返事を頂いた。それにちょっとビビって様子を伺うと、ハリーはお皿の上だけを見てパンを齧っていた。ロンとはそっと目が合うも逸らされ、ハーミーからはため息を吐かれた。な、なんか、責められてる気分なんだぞ……。
3人を見送り、寮に帰る気も起きず、当てもなくぼーっと歩く。敷地が無駄に広いから迷いつつも自然と考える時間が取れるのは城のいいところかも、なんて突然ホグワーツageをしてみたところで良い案は思いつかない。ホグワーツくん媚びに慣れてそうだ。
何度脳内を整理しても私の足取りが掴めなかった。ホグズミードへ行く3人を見送った記憶はあるんだ、しっかりと。城の出口まで見送った。手を振って、そのあと、寮に帰ろうとした、はずなんだけど。もうわからない。混乱し始める脳を落ち着けるため、ふーと息を吐いて、吸った。気づくと目の前には蛇の彫刻が飾られた手すりがあった。

『強力で、3滴あればお前は心の奥底にある秘密を、この教室中に喋ることになる』

地下へ降りる階段の手前でふと思い出す。この前の魔法薬学でのスネイプ先生はそう言っていたはずだ。──真実薬ってそのまんまの名前の薬がちゃんと効けば、録音さえ出来れば私の足取りが掴めるのでは……?ピコーン!これは天才のひらめき!私は踵を翻し、図書館へ行くため目指し走りだす。途中ピーブズにちょっかい出されたけど私の足の方が早かったもんね!うそです、1回転んで無様に笑われました。
マヌケ〜〜!と大笑いするピーブズからそそくさと走り去って、あと少しで図書館の手前の階段を上がったところでドンッと何かにぶつかり尻もちをついた。

「ってて……うおっスネイプ先生!すみません!寮点だけはどうか!」
「廊下を走るな。ミスミョウジ、何をしている」
「図書館に行くところです」

ぶつかった相手はスネイプ先生らしい。即座に謝ると寮点は減らなかった。ヨシ。質問に答え、そのまますみませんでしたー!と去ろうとすると、待て、と声をかけられる。

「何故図書館に用が?」

……な、なぜ。なぜそんなことを。まさかの質問に動揺。す、スネイプ先生……?えっそんなに私が図書館に行くのおかしい?結構行ってるよ?スネイプてんてーマジで言ってる?私への偏見酷くない?ちょっと傷ついたぞオイ。
口を少し尖らせて、私が図書館に用があるのおかしいですかあと言うと、スネイプ先生は鼻で笑ってくれた。モンキーに字が読めるのか?ひ、ひでーー!ジョークにしたって酷いがスネイプてんてーは今日も絶好調らしい。

「真実薬の作り方が知りたいんですよねー。私にもわかるいい本ありません?」
「……なんだと?」
「いやだから真実薬の、」
「グリフィンドール10点減点!」
「なんで!?」

突然の減点にナン↓ッデ↑!?のような狂ったイントネーションが口から飛び出してしまった。スネイプ先生の眉間の皺が深くなる。心做しか声が1オクターブ下がった。ナン↓ッデ↑!?2桁減点は久々だぜ!?サラッと細かい数字は変わらず減っていることを暴露してしまった。

「何故貴様が真実薬を……チッ、あのとき聞いていたのか。無駄に耳は発達しているようだが…しかし頭は残念なようだな」
「いきなり粗塩対応」
「真実薬は魔法省に指針を厳重に管理されている。軽々しく口にすることではない、特に貴様のような愚か者は背伸びしたところで届かぬ代物だ。わかったのなら大人しく間抜け共のところへ帰れ」

スパンッとスネイプ先生が持っていた紙の束で頭を叩かれる。いてえ。尻に続き頭を負傷。これ以上残念になったらどうするんだ……と言い続けてもう4年になりますかね……。しかしこれは私にとっても結構死活問題だ。私はスネイプ先生に食らいついた。

「でもでも、まだ確証がないから言えないんですけど、必要かもしれないんで」
「……ポッターに関することかね?」
「ハリー?なんでハリーが出てくるんですか?」

まさかの返答に首を傾げる。スネイプ先生本当にハリーが好きだな、事ある事にハリーハリーと粘着な。液体のりより粘着度高いぞ。スネイプ先生は何がなんでも私に真実薬を諦めさせたいらしく、わーわーと沢山言ってきたがどれも私を諦めさせる理由にはならなかったが、しかし。
真実薬の作り方が置いてある本棚は教授からの閲覧許可がないと見れないらしく、私にその許可が出されることは未来永劫無いと強く言われてしまい引き下がるしか無かった。他の教員にも通達しておくと言われて、やめてえー!と縋ったが、多分意味なかった。クソ……占い学です☆とかテキトーに嘘ついてさっさと行けばよかった…そうだよ…バカ……私の正直者め……。
それでもやっぱり諦めきれず、どっか普通の棚のところに混ざってないかなと希望を抱いて図書館へ行ってみたけど、やっぱり本は無いようで。あああ……手がかりが消えた……ふりだしにもどる……。図書館でレポートを書くときの定位置となりつつある席へ座り項垂れると、ずんずんと足音がした。……おん?

「どういうつもりだ!?」
「うーわクラムくん……バッドタイミーング……」

今君の文句を聞く気力はあまりないのだけども、と内心少しやさぐれたことを考えつつ向き直る。クラムくんは私の向かいに腰掛け、バンッと机に先日の預言者新聞を叩きつけた。持ち歩いてんのかーい。

「君ヴぁ何を考えているんだ!?」
「マッ、マジトーンじゃん……。んなわけないでしょ、どう見ても私も被害者でしょ」

なに加害者扱いしてくれてんだ怒るぞコラ。上手く笑顔を浮かべる余裕もなく真顔で言うと、クラムくんは少しビクッとした。

「協力すると言っていたじゃないか!」
「いやいやそこまではっきりとは言ってないって。……言ってないよな?…………多分言ってないし。アドバイスしただけだし」

ンッンーと首を振って言うと、クラムくんは立派な眉毛を吊り上げる。確かに今の私の言い方はちょっと意地悪だったかも、ごめんね。クラムくんの吊り上がった眉とは反対に、私の眉尻は下がっていく。クラムくんは少し歪んだ鼻をふくらませて息を大きく吐くと言った。

「今後、君に、ハームオゥンニニーのことを相談するのは、やめる」

細かく句読点をいれ強調するような喋り方に、なんとも言えずただ頷くだけで返事をした。

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