105

今朝出たばかりの記事は瞬く間に校内へ広がり、かなりの頻度でハリーは「やあ優等生」とか「今日もお熱いね」なんて声をかけられたりしていた。その度にハリーは怒り、しかし反面冷静なハーミーは全てをシカトしていた。それはもう素晴らしいシカトぶりだった。あれはおそらく存在自体を抹消している。認識していないやつだ。ハーミー…なんて恐ろしい子!

「おやモンキー、愛しのポッターにフられてしまって可哀想に。所詮モンキーと人間は共存出来ないことが理解出来たかい?」
「うるせえバナナぶつけんぞ」
「ナマエ、落ち着こうね」

それからムカつくことはもうひとつ、こうして何故か私がハリーにフられたという噂も多いのだ。みんなゴシップネタ大好きかよ。すれ違いざまに言われる言葉に全て即答で返すと、その度にハリーから諌められる。認知症でよくブチ切れるおじいちゃんを相手にしているかのような対応。ハリーポッター介護士も出来るね。魔法界に介護士がいるのかは謎である。うんざりしながら先に大広間へ向かった3人を見送り、私は返却期限ギリギリの本を片手に図書館へ向かった。
夕食前の人の少ないシンとした図書館で手続きをして、私も本棚を色々と見て目当ての本を探す。第2の課題とハリーの呪文探しが終わったから、今度は私の探し物だ。…………お、あれはどうかね。上の方にある、背表紙に「移動魔法の極意」と書かれた本を目指して背伸びをする。ぐっと手を伸ばして取ろうとするが、指先が少し触れるだけで全然取れない。くっ……ここはやはり私の飛躍力と指のタイミングが肝心、と集中しようとして前を見ると、おや……なんか……暗くね?私の前にかかる影が動いた。心霊現象!?ビビりつつ、ゆっくり後ろを振り向いた。

「うおっクラムくん」
「ナマエ…………」

なになに怖い怖い。逆光で見上げるクラムくんはまさに大男で、何も動揺してませんよという体でそっと影から出る。と、クラムくんは私についてきた。何!?なんですか!?

「君ヴぁ嘘をついたな!ハームオゥンニニーとハリーポッターヴぁ何も無いと言っただろう!」
「出たよその話か」

恋するクラムくんもまた記事を鵜呑みしてるのか…はーやれやれ……。ブウンと耳元で鳴った羽音を手で払い、頭を抑えて首を振る。蚊はノーセンキュー。

「同じことハーミーに言ってみな、くだらないって言われて無視されるから」
「なんだと。だが、彼女ヴぁ第2の課題でヴぉくの話を聞こうともしなかった!」

いやそれはさ……土俵が悪かったというか……。あの状況じゃ誰だってハリーのこと心配するじゃん?だって結構危なかったじゃん?点数とか課題の前に命の危機の可能性もあったじゃん?じゃんじゃん?しかし私の意見は通らない。クラムくんは自分の鞄から新聞を出した。

「ならこの記事ヴぁなんだ!?」
「持ち歩いてんのかーい」
「確固たる証拠じゃないのか!」
「いくらでも記者が捏造出来る記事を鵜呑みにされましても!?」

さてはクラムくん通販番組のサプリとか信じて買い込むタイプだな……?占い学で壺買ってそう。
HAHAHAと笑い飛ばし、ハーミーを信じなよとアドバイスする。しかし、クラムくんはなおわーわー言ってきて、だんだん私もイライラしてきた。蚊もぶんぶんうるせえ。

「ハームオゥンニニーヴぁポッターが好きなのか!?」
「ユー何言ってんの…。んなことハーミーにちょっとでも言ってみなさいよ、そりゃもうめちゃくちゃ怖いんだから」
「だがここに証言もあるじゃないか!」
「それはマジでこっちも苦労してんだって。ほとんどないことだから、でっちあげだから!っていうかこのとんでもねえ風評被害マジで信じてんの!?ハーミーのこと信じらんないって言うわけ!?あぁん!?」

しつこいクラムくんを睨みつけてからハッとして、目を逸らした。ああ、怒鳴ってしまった、くそう。マダムピンスが飛んでこなくてセーフだが、それでも苛立つまま怒鳴りつけるのはよろしくなかった。目線を足元に固定したままもごもごと口を動かして、怒鳴ってごめん、と続ける。クラムくんは少し黙って考えたあとに、ハームオゥンニニーに直接聞く、と言って図書館を去った。……さっきの私の話聞いてた?ハーミー今その話題出すとめちゃめちゃ怖いんだよ。しかしそれでも果敢に向かっていく精神。見習いたいものだ。
クラムくんが居なくなってから、はあああと深いため息を吐いてその場にしゃがみこむ。ガシガシと片手で頭の後ろを掻いた。あーーなんか煮詰まってんだよな……。っていうかさっき本取ってもらえばよかったな。ぶーんとまた羽音がした。そろそろ刺されたかも。またため息を吐いたとき、ふとしゃがんだ目線の先にあった、赤い表紙の分厚い本が気になって手を伸ばす。気分転換的な。
ペラリと目次をめくると、色々書いてあって、その中の一つに”姿現し”というものがあった。お、これはラッキー。姿現し、私が今日調べようと思っていたものだ。先日ベクトル先生に聞いてから少し気になってたんだよね、実は。あのときは私が魔法を使うのは無理だと思ってたけど、何かヒントがあるかもしれない。

『姿現しの先には、数多の世界が存在すると考えられている。数多の世界とは、我々の知っている地球のどこかであり、宇宙のどこかであり、時間のどこかである。姿現しを失敗すると、空間と空間の間に残されるが、そこはまた別の世界であり、姿現わしは座標を繋ぐ魔法である。この座標は主に魔法使いが無意識に設定し紡ぐものであるが、理論として数字で現すことも不可能ではない。しかしそのように魔法を可視化し、何事にも使用出来るようにするということはマグルが行うことであり、我々魔法族は、己との難解な対話を経て世界と世界を繋ぐことが理想である』

「……いや意味わからん」

目頭をグリグリと指で抑えてもう一度読む。ダメだ全然わからん。なんのヒントにもならなかった。パタンと閉じて本棚に仕舞う。お疲れ様でした。こっちはどうだと仕舞った本の隣の本を開いても、姿現しについて書いてあったが何もわかりゃしなかった。体を繋げることを想像しろってどういうことやねん。体はバラバラにしたこともなければ繋げたこともない人が大勢だと思うよ。
仕方なく立ち上がり、大人しく数占い学の本でも借りようと本棚を移る。しかし、何かいい本はないかと探してもあまり良い出会いはない。手当り次第に開いてぺらぺら見ていく。8冊目の本の適当なページに指を入れて開いたときだった。

”特に3という数字は重要な役割を持っており、通説では我々は同時に3つの命をそれぞれ別世界で保有していて、3つの命が回ることにより魂に死は訪れない。”

目に入ってくるその文章に、一瞬呼吸が止まった。3つの命を保有。なんだそれ。夢中で先を読もうとして、しかし視界に入ってくる黒いものが邪魔で手で払う。でもブンブン音はなって私の周りを飛んだ。あれ待ってこれ蚊だと思ってたけどよく見たら……!?

「う、うるせー!私そんな臭くないやい!」

レラシオ!覚えたての呪文を言って杖を振る。バーン!と大きな音がして蝿が飛んで行った。と、思いきや。バーン!バーン!と続けざまに音がなり、その場の本棚から本という本がバッサーと出てきた。……うわ、やっべえ……!

「図書館で魔法使ったのは誰ですか!?」
「ご、ごめんなさへぶぅっっ!」

追い払うっていうか体当たりされてるって言うか。本乱舞状態の中で痣を作りながら助け出された私は図書館の守番にめちゃめちゃ怒られ寮点を減らされ追い出された。……ふぁさっ魔法がここまで進化するとは思ってなかったぞ……。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -