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どうやら今年も帰れま10らしいな。
目を開き真っ先に入ってきた灰色の天井に絶望して両手で目を覆った。溜息も出るってもんだ。私、本当いつになったら帰れるんだよいい加減にしてくれ。
とりあえずこのままいても仕方ない、と起き上がる。ベッドに寝かされていたようで、起き上がる反動でベッドがギッと汚く鳴った。部屋を見回しても去年と同じ、ベッドに石の台に、パイプ机とノート。ノートに何か変化はないかと一枚ぺらりとめくってみた。
「……無い」
去年私が適当に書いたあの言葉は全て無かった。綺麗に消されている。
代わりに目に入って来たのは、墨で書いたような太く荒い文字。「君は、生きたいか」
「…………クソッタレ」
ノートを部屋の隅に放り投げる。壁に当たり、バサリと落ちた。パイプ机を衝動のままに蹴りあげる。ガコンッと音を立てて揺れたが、倒れることは無かった。そのままイライラをとにかくぶつけたいと部屋の壁とか床とか全てに八つ当たりをするが、何も変化はなかった。
硬い壁に拳をぶつけても痛みはないし、どんなに動いても私の体が疲れることは無かった。去年とまるで同じ、空腹を感じることももちろんない。本当、気味が悪い。
っつーかなに?君は、生きたいかって。何様なの?もしかして私誘拐犯に殺されそうになってる?おいおい冗談じゃねーぞ。そもそも誘拐犯はなんの目的なんだよマジ意味わかんねえええ。
身体はなんともないが、精神的に疲れ、諦めて宿題をすることにした。この宿題を無くせばまた戻るんだろうけど。頭が痛い。うそ、これも実際は痛くもなんともないのだ。私の身体どうしちゃったの。
数時間なのかわからないが、時計も無く窓もない部屋でひたすら宿題を片付けた。私、超集中能力を目覚めさせる実験をされているのかもしれない。それくらいお茶目に考えていないと発狂しそうだ。
宿題が終わってから、部屋の隅に落ちたままのノートを見るが、「君は、生きたいか」の文字に変わりはない。なんだその句読点癪に障る。F〇ck。どっと心が疲れ、もういいや、とベッドに寝転び、枕に顔を埋める。おいカビくせぇぞ洗っとけよ。不潔ゥ。
「……あー、クソだりぃ」
ぎゅるん、視界が暗転した。