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や、やっちまった───。
周囲スリザリンの中、無言で真顔で1人大鍋をぐるぐるかき回す。

「……まあ、なんだよ、お前すげぇよ」
「なんでもっと殴ってやらなかったんだ?」
「スネイプ先生のことも殴っていいと思うのよ」

こそこそと小声で、スネイプ先生の目を盗んでかけられるグリフィンドールからの声にテンションがずーんと低いまま無言で頷いていく。また、また……やっちまった………。この短期間で私は何度やらかしたのだろう。50点。50点減らされた。しかも罰則付き。なんてこった。
簡単に説明しよう。
私がキレる。マルフォイくんが杖を構える。きっと彼は私も杖で来ると思ったんだろう。予想に反して私はマルフォイくんに殴りかかる。本気で殴るつもりはなかったけど、すでに呪文を唱えていたマルフォイくんが驚き避ける。結果、私はマルフォイくんの後ろのゴイルくんにぶつかり、そしてマルフォイくんの魔法先は私ではなく──私、ではなく、ハーミーに当たってしまった。
ゴイルくんは鼻血を出した。ハーミーは魔法のせいで前歯が肥大した。しかも運悪くそこへスネイプ先生が来てしまったわけだ。スネイプ先生は擦り寄るマルフォイに味方し、ハーミーの姿を見ていつもと変わらないとほざきよった。そのときに私は「んだとクソオヤジ!」と中指を立て、ハリーもロンも多分同じようなことを言ったはず。なんか大声出しすぎてよく聞こえなかったんだよね。
……というわけで、3人揃って減点され罰則だ。特に私は中指を立てたのもいけなかったらしい。私だけ居残り延長一週間。やったね毎日スネイプ先生のお顔が見れるや……うれしくねえ……。

「猿も材料に出来たらよかったのにね」
「駄目だ、あんな汚い猿が栄養分になるわけないだろう?」

HAHAHAと大して上手くもないジョークで笑うスリザリンに視線を向けることなくひたすら大鍋をかき混ぜる。
しかも居残りだが、さっきハリーが代表選手として呼び出されいなくなったため今日の罰則はぼっちだ。明日、ハリーとロンを合わせてやるらしい。私は違う罰則だそうだ。私だけ特別だってさ。スネイプ先生実は私の事好きなのかもしれない。……なんつうしょうもないジョークを言えるテンションでもない。今日は何かな…大鍋洗いなら固形じゃないだけ楽かな……。遠い目をして次の材料を入れる。
ハーミーはスネイプ先生の言葉と魔法のショックに、泣きながら医務室へ行った。
……傷ついただろう。トラウマになったかもしれない。
私が、私が原因だ。ハーミーは巻き込まれただけなのに。私が軽率すぎた。何がみんなよりは長く生きてるだ、そんな奴の行いじゃない。ゴイルくんにも怪我をさせて、ハーミーも傷つけて、ハリーやロンも巻き込んで、寮点だって減る一方で。情けない、申し訳ない。
一体何をやっているんだ私は。





「アクシオ!」
「アキュシオ」

結局ハーミーは医務室から帰って来ず、私は落ち込みと自分に対する憤りを引きずったまま1人大鍋洗いの罰則を受けた翌日、朝からハリーに呼ばれ寮の近くの空き教室で呼び寄せ呪文の練習をする。 ハリーはハリーで代表選手の件で何かあったのかテンションが低めで、いつもよりも空気が重い状態だった。もちろん魔法もうまくいかない。モチベーションとやらがうまく上がらないし、そもそも私呪文言えてなさそうだし。ため息を吐いて、古く今にも壊れそうな椅子に体重を預け、手の中で杖を弄ぶ。

「ナマエ」
「……うん」
「大丈夫?」
「そっちこそ」
「……あんまり大丈夫じゃない」

俯きながら、ぼそぼそと話す。ハリーがむしゃくしゃというように頭をかき隣に座る。寄りかかるようにこちらに体重を預けられた。

「重い」
「……ナマエ、ハーマイオニーは大丈夫だよ」
「……うん」

わかってる。ハーミーはこんなことじゃくよくよしない強い子だ。でも、ハーミーを泣かせてしまったのは元を辿れば私で、傷つけたのも私だ。

「私、もう少し考えてから行動しないとね。ダメダメだ、反省してる」
「そんなことない。僕はナマエの行動に何度も助けられたよ」
「…………ありがと、ハリーはいい子だね」

苦笑してわしゃわしゃと頭を撫でると、ハリーは少し笑いながらくすぐったいと言う。気を遣われて励まされて、ますます情けない大人だ。

「ハリーは?なにかあったでしょ」
「うーん…ありすぎて、何から話せばいいのかわからない」
「話したいことだけでいいよ、全部聞くよ」
「…………あのね、取材を受けたんだ」
「取材?」

聞けば昨日、代表選手の集まりというやつで取材を受けて、杖のメンテナンスをして、写真を撮ったらしい。その取材がなんともムカつくもので、記者のおばさんは人の話を聞かないし、勝手にでっち上げて書くんだとか。

「それはよろしくない」
「僕は記憶にない両親に思いを馳せて泣くんだって。涙の一滴どころか瞳を潤ませてもいないのに、よくそんなこと書けるよ」

拗ねたように膨らんだ頬を指でぶすぶす指すと、ハリーはまたくすぐったいとすぐに笑った。

「まあ、記者なんて大体話を膨張して書くものだよ。最悪批判炎上目的で悪く書いて売上を伸ばすんだから、そのスケーターさんもそういうタイプなのかもね」
「スキーター、ね。……ロンとも全然だし」
「……あれから話せた?」

私の問いに、ハリーは微妙な顔で頷いた。手紙が届いてるのを教えてくれただけらしい。とても事務的な会話だ。会話の枠に入れていいのか怪しいレベル。

「それにシリ───……ううん、なんでもない」
「そう?」
「……うん。また今度、はなす」

何やら言い難いこともあるらしい。誰にだって聞かれたくない話、言いたくない話はあるものだ。私もめっちゃある。わかった、また今度ね、と頷いた。

「あーあ、記事が出来るのが怖いよ」
「私はちょっと楽しみだけどね」
「絶対あることないこと嘘ばっかり書かれるんだ。嫌な予感しかしないよ。それで、またたくさん皆から嫌味とか文句を言われるんだ!……守ってくれる?」

ハリーは私の顔を覗き込むように上目遣いでそう言った。なんだよ!可愛いなそれ!あざといな!どこでそんな技術を!ちょっと去年から腕を上げていないかい!?一体どこを目指しているというのか。アイドルか?ユー武道館ライブ目指しちゃってる?思わず噴き出し笑うと、ハリーはなにさ、と拗ねたようにそっぽを向いた。さっきので私かなり元気出たぞ。可愛いは正義を教えてくれるハリーポッター14歳、魔法界の英雄ありがとう。デビューしたら教えてくれ。

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