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ほくほくと柔らかそうな黄色い身が小鉢に移される。湯気が立ち、ふわりと香りが舞う。煮汁とねっとりと絡み合い、深緑と黄色が艶やかに照らされ、濃紺色の小鉢と見た目からも魅了し輝く。箸を身に入れると、固さを感じさせずほろりと割れ、つまめば汁が溢れるようにぽたりと落ちる。その姿は情事を思い起こさせるように甘美だった。
たまらず口に入れると、下の上でじゅくりと汁ととろとろの身が溶け合い、脳が痺れるような濃厚な匂いが広がる。ああ、これは、これはーーーー




「かぼちゃじゃねえかあああ!」

ふざけんな!しね!F〇ck!頭をかきむしりながらおえっと嘔吐く。心底嫌な夢を見た。ふざけんな!何が情事だこの野郎!馬鹿野郎この野郎!

「ミスミョウジ!?起きたのですか、どうしたんです!?」
「どうもこうもないっす私の嫌いな食べ物殿堂入りの野郎が私の夢に──って、あれ?ここどこ?私なんで寝間着?」
「どこにも問題はありませんね?ああ、良かった、すぐにマクゴナガル教授にお知らせを!」

この勢い、デジャヴ。白衣のナイチンゲールことマダムポンフリーから緑色の湯気が立つ紫色のどろどろした液体を渡される。マダムは私が飲んだことを確認せずにばたばたと医務室を出ていった。これ捨てて誤魔化せるんじゃね?飲みたかないわ。とりあえずベッド横のテーブルに置くと、ダメですよ、と声が聞こえた。隣のベッドを見ると、見たことある人がいる。

「誰っすか」
「僕はコリン!1年生です。あなたはナマエ・ミョウジですよね?ハリーと仲がいいジャパニーズ!」
「よくわかんないけど、よろしくコリン」
「あなたのことも僕、調べたんです!ご両親がいなくて1人で生活してるんですよね?僕よりも小さいときからなんて本当にすごい!しかも日本から英国までホグワーツに入学するため単身で来たとか、言語の壁がありながらもあなたは今や有名人!あっ一緒に写真いいですか!?」
「とりあえず落ち着け少年」

一人暮らし歴はそりゃあるが10歳未満でするわけないし単身で来たのは事実だけど不本意だぞ。ホグワーツに入学どころかホグワーツを知らなかったぞ。どうにも変な話だぞ。どこから訂正をすればいいのやらと痛み始めたこめかみをぐりぐりと解す。とりあえず写真は承諾しておいた。写真くらい撮るさ、私の若い子についていくために磨いた自撮り技術を見よ。えっスマホじゃないの?無理。

「僕、あなたの話を聞いてとても憧れたんです!一度ならず二度までも友人のために命を張るなんて、とってもかっこいい!まさにヒーローだ!」
「…………なんだって?」
「ハーマイオニー・グレンジャーを守るためにバジリスクと戦ったんでしょう?バジリスクの目に杖を刺したとかで、先生方もあなたのことを大変賞賛していました」
「………………あー……?」

バジリスク……?というと…………ああ、そうだ、思い出した、ハーミーと一緒にねっちょりした蛇に遭遇したんだった。そういえば、刺したような、刺さなかったような?私あのとき魔法出そうとしたんじゃなかった?おかしいな、いつの間に物理に。マグル育ちは抜けないってことだね。抜けたら困るわ。

「ミスミョウジ!」
「あっマクゴナガル先生!」
「こんにちはコリン、調子は良さそうですね。ミスミョウジ、具合はいかがですか?本当によかった……あなただけがなかなか起きなかったのです。本当によかった……!」
「ひょべっ」

マクゴナガル先生にぎゅっと抱きしめられ、変な声が出た。背中がボキッと鳴った気がする。若干涙声の先生に戸惑いながらも背中に手を回したら、次の瞬間「薬を飲んでいませんね?」とお説教が始まった。束の間の優しさやめて、もっと優しくして。お薬は妙な甘さで美味しくなかった。

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