その花は手から

図書館でレポートをやりながらカクッ…カクッ…と落ちつつある首をなんとか上げてへろへろの文字を書く。今日は休日ってのもあってちゃんとぐっすり8時間だったんだけどおかしいな〜睡魔最近有給取ってないんじゃない?やだ私の体ってブラック…!?
外からは盛り上がってる声がここまで聞こえてくる。そう、今日は例の危険スポーツの日である。練習試合らしいが大会並に盛り上がっている様子なのである。もちろん私は行かないのである。むしろハリーから「来て欲しいけど僕も頑張るからレポート頑張って」と応援されるくらいにはこっちもやばい。世知辛いね。
ハリー大天使から応援をもらってがんばろ!と思っても、だがしかし眠い、とても眠い。10分以内の仮眠ならセーフ…か…?と油断して瞼がガクッと頭と瞼が羊皮紙の上に落ちたとき、横から肩をバシンと叩かれた。

「ウグッ、いって……は……なに……?」
「寝ようとすんじゃねえよ、せめて戦え」
「戦士の方?」

まあ確かに目は覚めたが負傷しちゃったんだわ。叩かれた肩を擦りながら振り返ると、艶やかな黒髪──あ?誰?
見覚えがあるような無いような、やっぱりあるような。赤いセーター着てるからグリフィンドールだろうか。確実にスリザリンではないことは確か、スリザリンの人って入寮してから赤色つけないらしいよ。しらんけど。

「スニベリーはどうしたんだよ」
「誰だよ。人間違えてますよ」
「は?ふざけてんのかナマエ」
「間違えてない……誰だ…」
「あ?アー……チッ、スネイプだよ。いい加減スニベリーって覚えろモンキーが」

舌打ちした黒髪ちょっと長めお兄さんがぐしゃぐしゃと人の頭をかき混ぜてくる。なんなんだ。
スネイプ…ってスネイプ先生?スニベリーなんて初めて聞いたぞ。上の名前か何かかな。スネイプ先生ってスニベリー・スネイプっていうんだ〜へえ〜イニシャルSSじゃんソシャゲガチャで拝まれそうな名前してんな。

「いつも気持ち悪い馴れ合ってんじゃねえかお前ら。モンキーはスニベリーに頼らねえと出来ねえのに今日は1人…ってうお、なんだそれ……」
「あっちょっみっみるなー!」
「呪いみたいな字だな。マクゴナガル怒るぞ」
「マジレスが一番きついんだって」

でも確かにこの字はやばいが。ミミズが5匹こんがらがってのたうち回ったみたいな文字してるもんな…流石にいかんわ私も読めないもん。諦めて羊皮紙を変える。え?消しゴム呪文が私に使えるとお思いで?無理よりの無理。
黒髪襟足お兄さんは憐れんだ目をしながら私の向かいに座る。いや座るんかい。そんでもってみみずの方の羊皮紙を手に取ると、なにやら書き始めた。遊んでくつもりなのかこの人…。シャッシャッシュババッと羽根ペンを動かしたお兄さんがドヤ顔で書いたものを見せてくる。

「オラ見ろ、俺のサインだ」
「うん?」

サイン……サインなあ……。確かにアートチックに文字が書いてあるのはわかる、が、私にはイマイチなんて書いてあるのか…わからんな…申し訳ない。サインってそういうもんかと思ってすごーいと棒読みの褒め言葉を送ると黒髪ロン毛お兄さんはドヤ顔で曲線の文字を指さした。わざわざ説明してくれるらしい。読めないのバレてら!

「これがS、俺の顔みてーなもんだからデカく。それからI、R、I、U、S、Siriusだ!」
「へーかっけーじゃん……ん?シリウス?」
「おう」
「…………ぶ、らっく?」
「それはいらねえ」

いるいらないの話じゃなくない?っていうか、え、シリウス・ブラック……?マジ?実物?なんで当たり前の顔してここにいるんだコイツ……犯罪者なのではと少し背筋がさむくなる。だがシリブラは普通の青年の顔をして言った。

「ブラックなんて家もう知らねえよ。ジェームズも賛成してくれた、俺は俺だ」
「じぇーむず」
「ああ。この前からポッター家に世話になってるんだが、初めて本当の家族ってものを知った」
「……ハリー?」
「ハリー?誰だ?」

あっなんかデジャび、ヴュ……ブ、ヴ!これはアレだ、もう3回目くらいになるアレだ。魔法ワールド摩訶不思議かな。私はマジかよとびっくりしつつまじまじとシリブラを見た。今までよく見てなかったけどこんな顔してるんだ。

「グリフィンドールにハリーなんていたか?」
「いるいる、同級」
「………………覚えがねえな」
「だろうなあ」
「は?意味わかんねえ」

だろうなあ。まあそのうち会う……会う、かは知らないけど、狙うようになるさ。ハリーのパパを考えるとなんとも複雑な縁だ。むむむと眉にシワを寄せると、シリブラは私の眉に向かってデコピンをした。そして謎のドヤ顔。

「このサインやるよ。数年後には名を馳せる俺のレアなサインだ」
「ブラックジョーク?」
「ブラックじゃねえ!」
「とんちかよ。ま、ありがたくもらっとくわ、ナマエちゃんへって書いて」
「おう」
「星マークも書いといて」
「しょうがねえな」

っていうかブラックだろ。あんた今でもちゃんとブラックだよ。






「──て、起きて、ナマエ!」
「うをっ」

耳元で大きな声で呼ばれてびくっと顔を上げた。……あれ?ハリーがいるな。おかしいな…さっきまで……あれ…?

「もう夕方だよ、いつから寝てたの?」
「夕方……ハリー?」
「うん」
「……アー、あー、そうか、なるほど、把握」
「? なにが?」

首を傾げたハリーにハハハと笑って眠気まなこを擦る。苦笑したハリーにハンカチで頬を拭かれた。ん、なに?

「インクすごいついてるよ」
「うわっハンカチ黒っ……えっインク?」

やば、羊皮紙乾いてなかったらしい。寝起きの頬が真っ黒でやんす……。拭いてくれたハリーのハンカチも黒くなっちゃった、ごめん。
そんなことより早く大広間に行こうよみんな待ってるよと急かされながら伯熱したらしい危険スポーツの話を右から左へ。またスリザリンがどうのこうのと聞きつつかき集めた羊皮紙の、私の頬に潰されて読めない文字の横には下手くそな星マークがあった。



title by まよい庭火
2023.01.01

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