高さのちがう肩に降る

怪しいものは食べちゃいけません!とはよく言うが、まさか市販されているものが怪しいとは思わんじゃろうて。
ハリーがホグズミードで買ってきたというやけに固くグニグニするグミのおすそ分けをもらい、それを食べながら普通に話していただけだった。突然目の前がくるくると回っていき、やべえ貧血?と思った次の瞬間、私の目の前には私がいた。私の目の前の私は私を見て目を見開いて、「僕…!?」と言った。待って今言った私って私っていうか私視点のナマエ……いや全部私じゃん!こんがらがってきた。ちなみに目の前がくるくるする前は、私の向かいにはハリーがいた。まあつまり、そう、おわかりですね?

私たち入れ替わってるう〜〜〜!?



「相手の心が見えるジェリー……入れ替わることで相手の心が見えるって言うの?」
「自分のことになるんだからある意味間違ってないだろ、鏡みたいなもんさ。それより食べた量に合わせて期間が伸びるって書いてあるけど、君たちいくつ食べたんだ?」
「うーん…?」
「あー…?」

箱の裏の小さな説明書きを見てロンが言う。はて、と首を傾げた。ケーキならまだしもグミをいくつ食べたかとか数えてないや。癖でぽりぽりと頬をかこうとしたら、指先にコツリとレンズがあたり視界がズレる。うわ、眼鏡ズレるとなんかキモい。

「ハリーの眼鏡って結構度入ってるんだね」
「う、うん。……ナマエから見た僕ってこんな感じなんだね。変なの」
「そう?」
「だって、大きく見えるよ」
「そりゃハリーが成長したからね。まあ私だって大きくなってますけどぉ!?」

でもハリー目線から見た私ちっせえな……なにこのちんちくりん。微妙な気分で自分を見下ろしていると、その視線の先に手が差し込まれた。
手をパンパンと注目するように叩いたハーミーはため息を吐いた。極論全部食べてもせいぜい一週間だからそれまでを目安になんとかするしか、らしい。え、えー!一週間ン!なが!

「先生にバレたら寮点がどれほど減らされるか!絶対隠し通すのよ」
「ナマエ、頑張ろうね」
「無茶ぶり〜」
「明日にはスネイプにバレてるにカエルチョコ1箱」
「ロン!」

ま、やるだけやってみっかあ。……んで、これトイレとかどうすりゃいいの?私の問いにハリーの顔が真っ赤になった。私の赤面した顔おもしろ。

ハリーポッターというのは魔法界の英雄であり、魔法の実力的にもその過酷な環境から頭ひとつ分出ている、と私は思っている。
そんなハリーの中に入ったわけだから、私もきっと…!なんて上手い話はなかった。残念無念また来週には私完全体シン・ナマエ。
普段より一回りくらい大きい手の扱いにちょっと違和感を感じつつ、やけにしっくりくる杖をくるりと回してピッとさす。カモンクッション!

「アクしオ!」
「ぎゃっ」「きゃあ!」「うわっ」
「ポッター!?」

「アクシオ!」
「な、なんということ…!ミスミョウジ、やはり出来るではありませんか!素晴らしい努力にグリフィンドール2点!」

この差よ。はは、魔法使って加点されるとかあるんだ、都市伝説かと思ってた。中身はハリーポッターなんだけどね!つまり魔法は結局操る人物による、ナマエちゃん学んだ。
というわけで魔法界の英雄はしばらく魔法界のへっぽことなりますごめんね!呼び寄せで棚から古い教科書が雪崩てきてその下敷きになりながら空を仰いだ。わあ……天井にほこりが……。

そして当然ながら魔法界のへっぽこはこれだけには留まらなかった。普段通りの私なんだけどハリーの見た目だとちょっとやっぱアレだよね。体調悪いのかと心配されるくらいにはダメだったね。
魔法薬学ではハーミーが私の補助について全てをフォローしてくれたから良かったものの、スネイプ先生に「ほう、英雄殿でも失敗を恐れペアの相手を選ぶのか。良いご身分なことだ…」「は?普通にダチですけど」といつもの調子で返してしまったのはガチ反省してる。すごい勢いでハーミーに足踏まれたしスネイプ先生には見たことない顔されたし前方ではドンガラガッシャンと私が鍋をひっくり返していた。すまんかった。尊い5点のことは忘れないよ!
そうして色々と冷や汗をかいた一日が終わる頃には私の姿をしたハリーがお腹を押さえていた。胃が痛いのはどう考えても私のせいだねごめん……。お詫びの気持ちも込めて夕食のチキンを献上。おゆるしくだされ。

「はあ…本当にどうなることかと…」
「ご、ごめぇん…」
「ハリーからそんな情けない声出さないで」
「スネイプのあんな顔初めて見た」
「僕もだよ…」
「エッ」

あれがハリーにとってのスネイプ先生なのかと思ってたわ。ガハハ!対ハリーへの表情大人げねーハリーめっちゃ頑張ってるぅ!と思ってたのに違ったらしい。私はスネイプてんてーの新たな顔を引き出したってことで……ごめんて。再度しゅんとすると、苦笑した私…じゃなくてハリーがラズベリーパイをくれた。

「でも、ナマエもいつもあんな感じなんだね。スリザリンの中ですごく居心地悪かった」
「ん、まーね。でも結構みんな助けてくれるよ、爆発する前とか教えてくれることあるし」
「そ、そうなんだ?」
「巻き込まれるからに決まってるだろ」

呆れたロンのツッコミを無視してラズベリーパイを食べる。普段は甘さにうっとなることも多いが、どうも食べやすいというかめっちゃ美味しく感じる。なるほどこれが英国人の味覚。不思議なものだ。

ハリーと入れ替わってみて気づいたことがいくつかある。まずハリーは背が高い。見たらわかるだろバーカっていうのはそりゃそうなんだけど、それだけじゃなくて背が高いなりの苦労がある。主に私相手だけどさ、私からしたらいつもの体で見上げるってのは普通というかそんな大したことないんだけど背が高い側からすると目を合わせたりするのって結構しっかり頭を下げないといけないから面倒なのだ。でもそれをハリーもロンもいつもやってて、これはすごいなと思った。首痛いポーズも納得。いつもあんがとね!の気持ちでロンの肩を叩くと、奴はニヤリとして「つかの間の身長を楽しめよ」と言った。ムカつくぜこんにゃろ!
そんでもって次。これはハリーポッターならではのものだと思う。

「おいポッター!」「ポッティちゃんよぉ」
「ハリーポッター、」「ハリーポッター!」

廊下を歩いているだけでそこかしこからざわざわと名前が囁かれたり、スリザリンから絡まれたり、どっかの誰かか喧嘩売られたりする。事ある毎にだ、面倒すぎるってこれ。ハリーはこんなに呼ばれる名前の中から私たちの声を聞き分けている。素直にすげえ疲れる。誰だお前の気持ちを込めて一瞥してスルーしたところでなんかわからんが更に喧嘩を売られて困ったもんだ。ハリー曰く目を合わせるな、らしいけど周りにいるのは野生動物ですかね。ウケる、まあ似たようなもんか。

「それで、数占学の──」
「おいポッター!」
「ああ、わかりみあるう」
「ハリーポッター!」
「ベクレル先生のテスト範囲ってさあ、」
「ポ ッ タ ー !」
「……ナマエ」
「うん?」

ハーミーと数占学について話していたところ、横からちょい、と袖を引かれてみれば私…じゃなくてハリーが顎で少し後ろを示す。自分の上目遣いってやっぱなんかフクザツ…と思いながら振り向くと、金髪の…あれ誰だろうね、ハッフルパフの生徒がいた。

「ポッター!お前さっきからなんなんだ、無視しやがって、お高くとまってるつもりか!?」
「いやポッターって……あ、私か。違う、えっと、僕ね。何?」
「何、だと…!?えらそうに、少し名が通ってるからといって俺を誰だと、」
「は?なんだよオイ、誰だお前」
「!?」
「ナマエ……」

うざ、と睨め付けると相手の顔が真っ赤になって破裂しそうになっていく。ぎゃんぎゃんと文句を垂れて罵倒して去っていったが、結局なんなんだ。つか悪口言うなよ。あまりの早口と勢いにポケッとして逃したのは失敗だった。私の前でハリーの悪口言うとかいい度胸だな、覚えてろよ金髪。

「あいつ誰だろ、今度ハンナに聞こ」
「ナマエ、違うそうじゃない」
「ハリーの治安を悪くするのやめろよ!」
「良くするためにすんのよ」
「やっぱり番犬のスタイルはよく出来ていたわね」

頷くハーミーに番犬言うなとツッコみ、頭を抱えるハリーの後頭部をそっと撫でる。自分の頭を撫でるって奇妙な感覚だな。ハリーは私を見あげて、照れたように笑ったがすぐにむっとした顔をした。

「こういうときに僕の顔を見るのは複雑だな」
「奇遇〜私も〜」
「早く元に戻りたい、ナマエの顔が見たいよ」
「今なら鏡でいくらでも見れるけど」
「ナマエの顔だけど、ナマエじゃないだろ。ナマエはこんな顔しない」

頬をむに、と摘んでハリーはため息を吐いた。なんか解釈に厳しいオタクみたいなこと言ってんなハリーポッター。でも気持ちはわからんでもない。ハリーポッターは芋ジャーを着ないから気をつけねばと思う。
まあこの体じゃ女子寮に上がることはまず無いけど、っていうか今日どこで寝ればいいんだろう。ハリーの部屋って確か相部屋で、ロンだけならまだしもネビルとかもいたよなあと思い出して頬をかいた。まずくね?とハリーに聞けば、顔面がボンと赤くなってしまった。私の顔めちゃくちゃ赤いの普通に面白いぞ。

しばらく図書館に行ったり談話室でおしゃべりしたりしているうちに夜になり、私は複雑だけど汚いよりはマシか、と思っていたもののハリーは「ダメ!絶対ダメ!」と顔どころか全身真っ赤になってるんじゃないかレベルの赤さで断固拒否されたため仕方なく風呂を諦め、ついでにハリーが「女子部屋に行くのはちょっと……あとナマエにあの部屋で寝かせるのもちょっと……」と難色を示したから2人で談話室で寝ることにした。あの部屋って何があるんだよ。まあロンとネビルとシェーマスとディーンだもんな……いびきがすごそう。
談話室と言っても寝袋もあるしソファもふかふかだから大丈夫だろう、と暖炉の前に並んで寝転がりながらこしょこしょ話していたところ、予想が外れて日付を越えるか超えないかのあたりでなんの予兆もなく唐突に私たちは元に戻った。気づいたら目の前にハリーがいた、そんで私は私だった。
特に後遺症もなし、食べた量がそんなでもなかったかもしれないけどもう二度と説明書きを見ずにものを食べないと誓います。ハリー体験も結構面白かったけどやっぱいつもの身体がしっくり来るなーと思いつつ、ハリーを見あげてニヤリと笑う。

「残念だったねすけべ」
「スッ…………」

やっべ赤くなりすぎて火傷みたいになってる。思春期からかいすぎたわ。や、ごめんてハリー、出来心だったんですう!


title by afaik
2023.12.3

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