Thank you for
3rd Anniversary!

※ロン視点



夏休みのあいだ何度も手紙でやりとりをしても、実際に会ったときほどの楽しさに勝るものは無い。待ち合わせをして新学期に必要なものを買い、フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーでアイスを食べて休憩しているとふいにハーマイオニーが言い出した。
彼女がぺらぺら次から次へおしゃべりし出すのはいつものことだが、今みたいな3人だけになったとき、ここにいないあいつの話題を真っ先に出すのはハリーではなくハーマイオニーだった。

「ナマエから返事が来なかったわ、今年も!」
「うん…」

怒ったように言うハーマイオニーに、ハリーは少し沈んだ声で返事をする。またそれか、と僕はため息を吐いた。溶けかけたアイスをベロリと舐め取る。

「いつものことだろ。ナマエのことだから、フクロウ小屋までたどり着かないのさ」
「そんなわけないでしょ!」
「じゃあ手紙のスペルがわからないんだ」
「またそんなこと言って!あなたって人は!」

気の強い声を右から左へ流しハリーを見ると、ハリーは僕の「フクロウ小屋にたどり着かない」って言葉にハッとした顔をした。おおかた「やっぱり僕がいないと」とでも思っているのだろう。
ハリーはナマエのことを大人だと思ってるし尊敬してるらしいが、誰よりもナマエのことを赤ちゃんだとも思っている。どちらにせよ、ハリーにとってのベイビーに間違いは無いけど……ウワア、自分で考えて鳥肌が立った。親友の恋愛事は身内の恋愛を見ているようでソワソワする。

「何度も誘ったのに一度も返事をくれなかったのよ。今日も結局来てくれないし」
「寝るのに忙しいから手紙なんて書いてる暇ないんじゃない」
「ハリーへのカードすら無かったなんて、いくら忙しくても…いいえ、寝るのに忙しいなんてありえないわ」
「ナマエならありえるよ」
「ハリー…あなたね……」

ありえる。呆れ顔のハーマイオニーに頷いてみせると、ハーマイオニーは眉間を揉んだ後それを認めた。クリスマスだろうが関係ない、それがナマエだ。
ただ、いくらナマエといえどハリーの誕生日祝いがないのは意外だった。何事にもぼけっとしている奴だけど、ハリーには誠実に向き合っている。そしてハリーに対して一番甘い。もちろんナマエへのハリーのそれとは違うものだとなんとなくわかるが、他とは違うということもはっきりしている。ナマエは自覚していないものの、周りから見たら明らかだった。

ナマエは夏休みになると途端に付き合いが悪くなる。手紙すら出さないし、ダイアゴン横丁で偶然会ったことも無い。だからといってジャパンに帰っているわけでもないらしい。だが、直接聞いてもナマエはいつもはぐらかすばかりで、夏休みのことは言いたくないことなのだと初めの頃に察した。付き合いが長くなっても未だに言ってくれないのは僕たちもまたあいつに秘密を隠しているからかもしれない。でも話したら話してくれるのか。ナマエのことだから聞き流してまた自分のことは秘密にするかも、そういうやつだから。
アイスのコーンをかじりながらハリーがぺったりとテーブルに頬をつけた。深いため息と共にぼろぼろとコーンの食べかすが地面へ落ちていく。

「ナマエに会いたい」
「ハリー……」
「そもそもハリーってどうしてナマエにそんなにぞっこんなんだ?趣味悪いや」
「ロン!」
「君だってそう思うだろ、ナマエよりもっと美人な人は多いし、ナマエよりもっと……アー……性格のいい人もいるよ。別にあいつの性格が悪いとは思ったことないけど、比べればってこと」
「そうかなあ」

肩を竦めて言ったが、ハリーは話を聞いているのかいないのかぼんやりした様子だ。ハーマイオニーは「どうしてそんな意地悪言うの!」と怒っているが、ナマエと会ったことがあってハリーがナマエに矢印を向けているって知ったら10人中8……いや9人はなんで?って思うだろう。実際パーシーはそう言ってたし……ああ、でもフレッドとジョージはなんか納得してた。ハリーの趣味は悪いし苦労するとかなんとか言ってたけど、まさしくその通りになるなんて。ハリーがアプローチしても吹く風、というかそよ風にもなっていないような態度だ。それでも好きなんだもんなあ、見てるこっちが困る。

「ナマエは……不思議だよね」

ハリーがぽつりと言った。よくわからず聞き返すと、ハリーは自分でも上手く言葉に出来ないようであー、うー、と口ごもっている。

「だから、その……ナマエは、彼女は……僕たちに無いものを持ってると思わないか?」
「君だってそうだろ、僕たちに無いものを持ってる」
「違う、そういうのじゃないんだ。魔法とか頭の良さとかとは違って、……空気?そうだ、空気だ。ナマエはクッションみたいな空気だと思わないか?」
「空気ぃ?へんなこというなよ、僕たちと変わらないだろ」

食べ終わったアイススプーンをゴミ箱に放り投げる。きっと夏の暑さで、もしくはナマエに会えないストレスでハリーがおかしくなったんだ。呆れて首を振る、とハリーはムッとした顔で言う。

「ナマエはスリザリンのノットとも友達になってるだろ!」
「ハリー、ナマエ以外にもスリザリンの生徒と友達の人はちゃんといるのよ。グリフィンドールでもね?」
「そんなのわかってる!でもノットは純血主義だ。あいつは隠そうともしないし、実際にナマエに対してクソッタレな言葉を吐いたことだってある。でも2人は友達だろ?」
「ナマエってやっぱりおかしい奴だよ」
「確かにロンからしたらそうかもしれないけど、うーん…僕からしてもその辺は理解出来ないけど、でも」
「あら、私はわかるわよ」
「え?」

ふふんと得意げに、でも注目されて少し恥ずかしそうにハーマイオニーが笑った。ハリーが予想外というように目を丸くして、少し鼻にシワが寄っている。

「単純なことよ。ナマエにとって、心底血はどうでもいいってこと。ノットは純血を気にしてるけどナマエには気にすることでは無いから、気にしないの。ね、わかりやすいでしょう?」
「ハーマイオニー、それ、ナマエから聞いたの?」
「いいえ、でも見ていたらわかるわ」
「僕も見てたのに」
「ハリーと私もまた違うものを持ってるってことね」

ハリーが少し不機嫌そうな表情になり、気にするなよとその肩を軽く叩いた。ハーマイオニーの言ってることもわかるからこそだろう。わかりやすい理由で何よりだ、でもやっぱり僕にはわからない。これもハリーの言うように僕とは違うものってことなんだろうな。もちろん文句もあるけど、ここで反論したらやぶ蛇だってことぐらい僕にもわかる。僕は文句を呑み込んで、代わりにジョークを取り出した。

「でも、僕たちは持っててナマエだけが持ってないものもあるだろ」
「……ロン、あなたね。また意地悪言うつもり?」
「ナマエが持ってないもの?」
「僕たちは箒に乗れて、あいつは乗れない」

笑いながら言うと、ハーマイオニーはあっと言う顔をして、それからハリーは気まずそうに目を逸らしてから数回頷いた。
1年生の頃、僕たちがまだ仲良くなかった頃の飛行術の授業は酷かった。誰よりも低い位置でそっと浮いては「う〜〜〜やっぱ無理!シートベルト無いじゃん!安全装置!むり!」と騒いでいた姿は忘れられない。あの頃はまさしく変な奴だと思ってた。……いや、今でもあまり印象は変わらないかな。夏休みが明けたら箒に乗らせてみようかな、とむくむく湧いてきた悪戯心はうるさいハーマイオニーには黙っておこう。
ナマエはおかしな奴だ。でも、今は僕たちの友達で、いつか一緒にアイスを食べられたらきっともっと楽しい。


風は何から逃げてるの

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