その日は朝からハリーの様子がおかしかった。
「ハリー?」
「うん」
「どしたん?さっきから」
「ナマエのこと見てたいんだ」
「……ふーん?」
いつもよりも目が合うし、
「ハリー?」
「なに?」
「いや、手…」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど…まあいいか」
なんでか移動する度にずっと手を繋いでくるし、
「ハリー?」
「どうしたの?」
「いやそれこっちのセリフ。席空いてんだからそんな詰めなくてもよくね?ギッチギチなんだけど」
「ナマエのそばにいたいんだ」
「そばにいるし隣だしギッチギチなんだけどな…?」
授業が同じときは隣に隙間なくぎゅっと距離を詰めて座ってくるし、
「ヘイハリー、ギブ、褒められて加点されて嬉しいのわかったから、うぐッ、あの、ギブです、ちょっと体格差と筋力考えて、」
「うん、でも抱きしめたい」
「ぐええたすけてロン」
「無理」
事ある毎に全力でハグしたがるし、
「今日のハムサンドめっちゃうま」
「ナマエはよく噛んでて偉いね」
「うん? …………うん??」
「いつも牛乳を入れてくれるの、すごく素敵だなあって思うよ」
「お、おう…?」
「……こっち見ないでちょうだい」
「ナマエ、ハーマイオニーじゃなくて僕のこと見てね」
「…………ウス…」
それからこれでもかと私を褒めてくる。この他にも朝起きれて偉いとかちゃんと野菜食べて偉いとか初めて言われたぞ。赤ちゃんか私は。よくわからんが褒められて悪い気はしない、しないけど流石に変だろ、と熱を測ろうとしても「僕は正常だよ!むしろナマエがおかしいんだ!」なんて言う。しかもこういうときに限ってハーミーもロンも目をそらすからもうなんなんだ。
そんなこんなで昼過ぎには流石の私も疲れちまったぜ。数占い学にはハリーがいないからぶっちゃけ解放された気分だった。こんなん初めて。
「ハリー一体どうしちゃったんだ…」
「朝からすごい様子だったな」
見物だったぞ、と完全に動物園の檻の中の生物を見るようなニュアンスで喋ってくるノットくん。そういうとこだぞ。しかしあの人に対して興味無い代表取締役のようなノットくんが言うんだからやっぱ変なんだよな。
「ンー、熱は無いらしいし変なもんでも食べたんかな。朝からステーキはいくら健全な10代でもやっぱヘビーだったんじゃ」
「ポッターは健全な10代にしては下手だが」
「下手ぁ?何が?魔法も箒も上手いじゃん。まあコミュニケーションは…人によるかもだけど…」
スネイプ先生とかスリザリン生に対しては下手どころではなく喧嘩から始まることもあるけど…それはお互い様ってことでだな…ゴニョゴニョ…。頬杖をついて眉を寄せる私をノットくんは考えても無駄だと鼻で笑った。あんだとこのやろ。
授業が終わり板書した羊皮紙をまるめて鞄にいれる。と、いつもならとっとといなくなるベクレル先生がまだ教室にいた。珍しいなと思っているとパッチリ目が合い「そこのグリフィンドール生」と呼ばれる。周りを見ても教室にいるグリフィンドールは私だけだったのでハイハイナマエですミョウジですとのこのこ教卓に行くと、ドンッと紙束の山が目の前に積まれた。エ゛ッ。
「これをマクゴナガル先生の元へ持っていくように頼みますでは」
「oh……」
あきらかにどっさりの山だった。返事をする前に先生はいなくなる。は、はあい…私しかいねえもんな…。鞄を肩にかけて腕捲りをし紙の山をどっこいしょと持ち上げる。マクゴナガル先生のとこね了解ーっとこれじゃドアが開かん。誰か開けてーと声を出すと普通に帰ろうとしていたノットくんがついでにガラッと開けてくれた。
「さんきゅー」
「マクゴナガル先生には僕も用がある」
「マジ?じゃあ一緒に行こうよ。ちなみにこれ結構重いんだけど手伝ってくれる気は」
「無い」
「っすよね」
知ってた。でも一応社交辞令的な質問ってあるじゃん、まあちょっと期待してなかったら嘘になるけど、逆にノットくんが頷いてたら今日はハリーだけじゃなくノットくんもおかしな日になるからむしろ安心したわ。
時折肩からずり落ちそうになる鞄をぴょんっと跳ねることによって元の位置に戻し、えっほえっほと紙の山を運ぶ。働きアリのきもち。栄養でもなんでもないけど。丁度廊下は授業終わりの生徒でごった返しておりぶつかって山が崩れないように慎重に歩いていると、「あー!」と声がした。なんだね。
「どうしてノットといるんだ…!」
後ろから追っかけてきたらしいハリーがめちゃくちゃ睨んでいるでござる。目線の高さ的には私を、というよりは私の少し前を行くノットくんを。まあ確かにノットくんといる、というのはあながち間違っては無いけどさあ……よく見てほしいな、ノットくんは手元の本から一切目を動かしてないよハリー。ハリーに名前を呼ばれたから一旦足を止めてちらっと見てるけどマジでダルそうな顔してるよ。
「何か用か」
「どうしてお前がナマエと一緒に!」
「目的地が同じだからだが」
「だからって一緒に行く必要ないだろ!」
「そいつから誘ってきたんだ」
「事実だけど言い方クソ悪いな」
「ナマエ!?」
「うんまあ目的地一緒だから…他意はないんだけど」
「あれば窓から放り出している」
ホグワーツ治外法権やめろ。ボソリと言っているが多分コイツはマジでやる、私は内心軽くビビりながら肩をすくめた。ハリーの眉が八の字に寄りなんか迫力がすごい。
「ナマエはお前とは行かない、とっとといなくなってくれ」
「……それだけか?ポッターが僕を呼び止めなければ時間の無駄にはならなかったんだが。ああ、それと僕に突っかかる余裕があるならばさっさとその紙束を持ってやったらどうだ?重いらしい」
「〜〜ッ言われなくても!」
おまいう〜?と思っていると即座に私の腕から重みがごっそり消えた。唐突になくなるとそれはそれでバランスを崩すっていうか。おっと。隣に立つハリーは余裕そうに持っている。
「さっさと行け!」
「言われずとも」
ノットくんはちらりと私を見たあとハ、と鼻で笑いスタスタといなくなった。……理由はわからんが何かしらをバカにされたんだろうなというのはわかるぞ。なにあいつ!ムカつく!とおこなハリーの気持ちはわからんでもないが落ち着いてくれどうどう。
「ふん、スリザリンめ。……教室まで迎えに行ったのにナマエがいなかったから、僕かなり焦ったんだよ」
「マジ?迎えに来てくれたんだ。そら手間かけさせたね、ごめんごめん。てかそれ重くね?半分持つよ」
「いいよ、大丈夫。持ってもらうとしてもロンにだよ」
「ゲエッ、イヤだよ」
いつの間に後ろにいたらしいロンとハーミーを振り返って見ると、ロンはマジで嫌そうな顔をしているしハーミーはどこか呆れた様子だった。いつから見られてたんだ。
「あのねハリー、ナマエにはハッキリ言わないとダメだと思うけれど?」
「わかってるよ!でも、でも……ナマエ……」
「おう」
「………………これどこに運ぶの?」
「マクゴナガル先生のとこ」
わかった、と歩き出すハリーについていこうと足を踏み出せば、後ろからは深いため息と「マクゴナガルのところ行くのヤダなあ」というロンの声がした。なお、マクゴナガル先生にお届けしたあとのハリーは様子のおかしいところも特になくいつも通りに戻っていた。……結局なんだったんだ?