瞳の代償

最近、ナマエが周りにいないことは気づいていた。
前々からいつも一緒にいたわけではないが、決闘クラブの一件以来全然話してもいない。一度一度ハーマイオニーがポリジュース薬を失敗したときはお見舞いに来たらしいけど。僕も行けばよかったと呟くと、ハーマイオニーから「そんな不純な動機でお見舞いに来ないで」と少し怒られた。
クリスマスだって皆帰省する中ナマエも残るとリストに書いてあったから少し期待していたが、夕食での席は遠かったし、昼間なんて全然姿を見なかった。

そうして年を越えて、僕は周りから何かと陰口を叩かれて、ナマエと目が合うと手は振ってくれるけどそれだけで。ナマエの同室者のアリア・オーフェンとサーシャ・バクーニナが何か言ったんだってロンは言ってたし、僕も同意だけど、2人のことを信じて僕を避けているのはナマエだ。
怒りもある。どうして信じてくれないんだって思ってる。でも、石になったミセス・ノリスを見たときのナマエの様子が忘れられない。
顔面蒼白で、身体は震えて、呂律も上手く回っていなくて、その表情はまるで、奇怪な未知のものに出会ったような、とにかく酷い怯え方だった。ナマエはマグルの中で育ったらしいから、その気持ちはすごくわかる。すごくわかるし、あの様子を思い出す度に胸が痛む。わかってるんだ、ちゃんと。わかってるけど──

「寂しい……」
「さっきから何でそんなに落ち込んでるんだ?」
「見てわかるでしょう。もう、そんなに寂しいなら手紙でも書けばいいじゃない」
「無視されたら嫌だ」
「弱気ね」

ハーマイオニーをムッと睨み、進まないレポートの上で羽根ペンを転がす。手紙?ナマエに?まるでラブレターのようだ。そう考えてしまう自分が嫌だ、まるで弱みにつけこむみたいで。
それに、ナマエは僕がスリザリンの末裔って信じているから、僕から手紙が来たら次の標的は自分だと思うかも。ナマエを怯えさせたくないし、嫌われたくない。弱気だ、その通りだ。
何回目かのため息を吐いたとき、ロンは言った。

「じゃあカードにすれば?明日バレンタインだろ」
「…………バレンタインカード?」
「匿名にすりゃバレない」

パッと顔を上げて、名案を教えてくれた親友を見た。ロンは全く覚えられないと教科書の同じページとずっとにらめっこしたままだ。向かい側でサクサク文字を書き進めていくハーマイオニーが頷いた。

「そうね、それはいい案だわ。朝一番に枕元につくように送ればホラ吹きの同室者にもわからないもの」
「……それって、すごくいい案だよ。2人ともありがとう!」

そうと決まれば早速書かないと、だってバレンタインは明日だ!逸る気持ちで部屋に戻ろうとすると、ハーマイオニーが「待って」と僕を止める。すると、ハーマイオニーの方が部屋に戻って行ってしまった。どうして!?驚きながら待っていると、ハーマイオニーはすぐに戻ってきた。その手には、ピンクのカードが。

「ラベンダーから分けてもらったの。はい、これ」
「バレンタインカード…」
「ナマエだって女の子だもの、羊皮紙の端っこじゃなくてこっちの方がいいに決まってるわ」

僕って最高の友人を持ったようだ。ありがとうと笑って、早速カードを書き始める。
さて、なんて書こうかな。書きたいことがたくさんあって、ええといつもありがとう、それから────。



しかし、翌日になって僕のドキドキは恐怖の意味に変わった。
朝一番に談話室へ降りて、目の前でフレッドがピクシーに愛の告白のカードを読まれたからだ。
ロンの兄2人はゲラゲラと笑って避けていたが、僕は、僕はあのカードを読み上げられるのだと考えると背中が冷たくなる。

動揺しながら大広間へ行くと、ピンクに染まったいつもとは違う景色に唖然として、犯人のロックハートが本当に憎く思えた。スネイプよりも憎い、今はただあのカードが無事ナマエに届いて誰にも見られなかったかだけが気になってソワソワする。ハーマイオニーも顔色を悪くして「ハリー・ポッター様よりって読み上げられたら最悪だわ」なんて嫌なことを言う。頭を抱えて逃げ出したくなった。
でも、視界の端に入ったコーンフレークを頬張るナマエは本当にいつも通りの様子で、しかしナマエのことだから平静を装っているということも考えられるし、僕の頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。
そして不安な中食事をして、終えた頃に事は起こった。

「ミスミョウジへカードが届いています!」

一匹のピクシーがナマエの前に降りる。その手のカードにあっと思って立ち上がりそうになり、ロンとハーマイオニーから強い力で止められた。もしここで立ち上がったら、全部ナマエにバレてしまう。せめてピクシーが僕の名前を言わないことを祈るしか無かった。

「"いつもあなたの元気に勇気をもらっています。あなたが落ち込んでいると私も落ち込むし、あなたが嬉しそうにしていると私も嬉しいです。ここ最近あなたが酷くふさぎこんでいたのはとても残念でしたが、だんだん元気になってきているようで安心しました。あなたは周りからもバカにされ、自分でも卑下していますが私はそうは思いません。私はあなたの勇気と頭の良さにいつも助けられています。でも、あなたは自分のことを卑下するときはいつも周りを励ますときだから、それはあなたの魅力だと思います。私はそんなあなたの事が好きです。どうか、あなたはあなたのままでいてください。何色にも染まらないでください。あなたに今後素敵な幸運が訪れますように。親愛なるナマエへ、あなたのファンより"
…………ご本人様からのご希望で匿名でお届けいたしました!ハッピーバレンタイン!」

「…………どうも……」

たった一言のナマエの反応が、彼女の本心を表していた。
茶化されたと思った声だった、信じていない声だった、新手のいじめ?と呟く声が僕の胸に深く刺さる。
そういうつもりじゃなかった。全部ロックハートのせいだ。最悪だ。
ハーマイオニーがフォローしてくれたけど、それも悔しくて、僕は俯きウインナーを噛み締める。
チラリと横目で見たナマエは、手紙をローブの内側にしまい何事も無かったようにガトーショコラを食べていた。

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