秘密をまぜても美味しくならない

魔法薬学で罰則を受けた。最近は減点だけで罰則までいかないことが多かったからちょっと落ち込みっていうかテンサゲだ。だっるしんどい面倒くさーい、なんて独り言を聞かれたらまた怒られそうだが生憎ぽつねんと一人寂しい罰則中だ。ダンッダンッと硬いなんかの魔法生物の殻?皮?を刻む。
別に今日は鍋を焦がしたとかひっくり返したとか薬草間違えたとかそういうわけじゃなくて、手際が悪いとか切り方が雑すぎるとか、挙句の果てにはメモの字が汚いなんていう小さなお小言が集まった結果の罰則だから不服なのだ。今日のスネイプ先生はご機嫌ななめだったらしい。前は理不尽も当たり前だったけど、そうじゃない時期がひと月でも続いて慣れると人は不満に思うようになるんだなあ。これはなんとなくだから確信はないけど、ちょうど下処理が必要なときに呼ばれてる気もする。バイト雇えよスネイプ先生〜。すぐにパワハラで労基に駆け込まれそう。

「時給は精神負荷代込みの値段の方がいいだろうな…」
「何の話だ」
「魔法薬学の下処理のバイト。でもホグワーツ金無いもんなぁ」
「金が無い?何故だ」
「そりゃ未だに暖房すら設置されてな……」

おい待て私は今誰と話しをしていた……?ギチッと緊張で固まった首をグギギと動かして振り返る。スネイプ先生だったらもう終わりだ、増やされるに決まってる、罰則で朝帰りでまた罰則のループに陥る。しかし振り返って目に入ったのは全身真っ黒ではなく深緑のローブにプラチナブロンドだった。

「な、なんだマルフォイくんか…ビビらせんなし……」
「なんだとはなんだ!?」
「スネイプ先生かと思った……ハァ冷や汗やっば」

握っていた包丁の柄が手のひらからの汗でぬるっとして、慌てて包丁を一旦置いて手汗を布巾で拭う。すっぽ抜けてどっか壊しても罰則追加で朝帰りで罰則の無限ループだ。絶対いや。でもマルフォイくんはチクるかもしれない……無限ループコースだ……。肩を落とすと、マルフォイくんは怪訝そうに眉を寄せた。

「ホグワーツに金が無いはずがない。このマルフォイ家が多額の寄付をしているからな!」
「オ、オウ。さようでございますね」
「なんだその口調は、気持ち悪い奴だな。それよりも、そこをどけ。鍋を持ってこい」
「は?やだよ。私は今この硬い甲殻みたいなやつを切る罰則中なワケ」
「そんなこと見てわかる。いいから持ってこい、この僕が命じているんだ」
「あれッ私もしかして使用人だったかな……」

ただの同級生のつもりだったけど自信なくなってきたわ。あまりに堂々と命じられてしまってナマエちゃん困惑。しゃーないのう。言われるがままに鍋を持っていってやると、お坊ちゃんは腕まくりをして実験の準備を始めた。

「フン、それでいい。褒めてやろう」
「そらどうも」

へらっとわらってまたダンッダンッと包丁を下ろす作業に戻る。えーと、あと2キロ切ったら、半分をみじん切りに……みじん切りだァ!?スネイプ先生の細い字で書かれた指示書にため息を吐いた。包丁でやるのか、みじん切りを。固いのに。腱鞘炎覚悟するっきゃないかあ、もうミキサーくらい置いといてくれよなホグワーツ。備品足りてないよ!気合を入れてダンダンザクザクと切り始めると、音に重なるようにしてマルフォイくんの声がする。

「お前、僕のことが好きらしいな」
ダンッダンッ
「……ア?なんて?」
ダンッダンッ
「フン、ウィーズリーの妹が話しているのを聞いた。ポッターはさぞ僕に嫉妬しているんだろうな、ハハッ、お前に惚れられるのは癪に障るが気分がいい」
ダンッダンッ
「ハリーがなに?聞こえにくくて」
「先に手を止めろモンキー!だから、お前が僕に惚れていて、つまり僕はポッターよりも上だ!」
ダンッ
「……なんだそのデマ!?」
「……なんだと?僕のどこが気に入らないというんだ!?」

思わず手が止まっちまった。びっくりでマルフォイくんをまじまじを見つめると、机ふたつ分先のマルフォイくんはそれはもう不機嫌そうに私を睨んだ。その顔になるのはどっちかっていうと私の方なのよ。えー何、恋バナー?めんどくせえことになったぞオイ。アー、えーとね、ハハ……どうしようかな…ヘイSiri!プライドを傷つけずやんわり言う方法ある?ホグワーツにWiFi飛んでないから無論返事はない。頬をかいて視線をうろうろさせて考えること数秒、息を吸った。

「人には好みってあるよね!そういうことだよ!」
「話が違う!ジネブラ・ウィーズリーはお前が僕に惚れていると!」
「つまりそれはジニーちゃんの勘違いってこと」
「……僕に惚れていないと?ポッターより僕の方が好きなのでは?」
「惚れててもらいてえみたいな言い方だな?」
「当たり前だ!ポッターよりも僕の方が魅力的だからな!」
「ワオ」

思春期ひねくれボーイめ。言わんとしていることはわからなくもないが、いやあんまりわかりたくもないが、私を使ってハリーよりも優位に立とうとするとは小癪な。さすがスリザリン。いやいや、この主語デカは良くないんだが、私もすっかりホグワーツに慣れてグリフィンドール生になったということだ。嫌な成長の感じ方だな。
ギャンギャン言うマルフォイくんを横目に包丁を置いて、刻んだ殻を測りボウルに振り分ける。

「だが、火のないところに煙は立たないというだろう!」
「火の度合いにもよると思いますけどねえ。出火元がジニーちゃんなら……マッチでもめちゃくちゃ煙そうだな」
「それはつまりお前たちは僕の話をしたということだな?」
「マルフォイくんの話?したかな……?うわ1g足りん」

自分の実験ならめんどくさってなるけど、これが後輩の実験に使われるとなるとねえ、流石にねえ。そういえばマルフォイくんの話したかな……したようなしてないような……。

──「わかった、わかったわよ。仕方ないわね、じゃあ……最後に、みんな好みの人をあげていかない?」

あっ。したわ。噂話の宝庫女子会でぺらぺら話したわ。ははーん火元これかー。どうやらあのとき話したこととちょっとニュアンスが変わって伝わってしまったようだ。噂話あるある〜尾ひれつきまくって下手すりゃ原形無くなるやつ〜。思い当たったもののどうやんわり伝えるかと考えつつ、ほんのちょっとだけ殻をダンッと切ってボウルに入れると、今度は1g多かった。なんで!?じゃあさっきのままでも良くない!?仕方なくボウルの中から切れそうな欠片を取って切って大きい方を入れた。ヨシピッタリ。ついでになんかボコボコ聞こえるけど大丈夫なのかマルフォイくん。

「おい、本当に心当たりはないのか?」
「んー……あるって言ったら?」
「ポッターめざまあみろ。そして…そうだな、明日から僕の荷物を持たせてやってもいい」
「じゃあ無い」
「じゃあ!? ……つまりあるってことじゃないか!お前のそういうところが心底嫌いだ!」
「私の何を知ってんだ」

ヤイヤイと騒ぐマルフォイくんの鍋をちょいちょい指さして沸騰を教えると、マルフォイくんは豊富なボキャブラリーで文句を言いながら鍋に向かいはじめた。口は止まらないが手元の動作は手馴れたもので、ついじっと見てしまうとマルフォイくんは勝ち誇った顔をして笑う。

「ほら見ろ、やはり僕のことが好きなんじゃないか」
「あーうんじゃあそれで」
「なんだその態度は!」

ぷんぷん憤慨しながらポッターがどうのこうのと話し出したマルフォイくんに半笑いで返し、私は残りの2キロを分けるべくまた計量器に向かった。みじん切りが終わるまでどれくらいかかるんだ……それにしてもマルフォイくんよく喋るなあ……。

後日マルフォイくんはハリーに見事に謎マウントをとり、ハリーは穏やかに微笑んで私に肩パンをし、私はみじん切りが粗いと減点されるのであった──。なんなんだ。テンサゲげんなりだよ。ダジャレではない。

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