好き嫌いの温床

きゃあ!という誰かの悲鳴と共に、べちゃり。頭に衝撃が来て、ぬるついて、髪先からぽたりと液体が落ちていく。鞄をアリシアに預けて額についた卵の殻をとって、とりあえずトイレに言ってザッと洗ってから廊下へ戻り軽くジャンプをする。クラウチングスタートの姿勢を取り、ぐっと尻を引き締めて廊下を蹴った。

「ウィーズリーズテメェら今日は許さねえぞゴラ!!!!」

そして楽しそうなクソガキ×2の笑い声が廊下に響いた後、グリフィンドール3点減点!というマクゴナガル先生の怒鳴り声がわんわん木霊した。



気づいたら謎の電車に揺られて学生時代、それも10代前半に戻っていた超ヤバ現象が起こった。誘拐とかタイムスリップとか色々考えたけど距離的にもあたおかじゃねーかと私は思考を放棄した。そして魔法界というファンタジー世界で最近流行りのラノベのようなチートもないがなんとか生きている私だが、ぶっちゃけね、クソガキにはほとほと困っている。同級生は皆年下のガキンチョであるのは確かで最初は大人ぶってみたものの、その中に元気でそっくりな悪ガキが2名いた。名をウィーズリーという。ジョージとフレッドは見分けがつかないから私は誤魔化して名字で呼んでるんだけど、それも彼らは気に入らないらしい。双子チャレンジは入学してからというものほぼ毎日開催されて毎日間違えてます。そしてその度に罰ゲームだとか言ってイタズラを仕掛けられてしまう。それと卵は関係ないけど。あれはただの嫌がらせ。つまり質の悪いクソガキ共ってわけよ。
魔法を使われてしまうとこっちの分は圧倒的に悪い。でも私には奴らにはない知識と経験がある……ってわけで飛んできたよくわからん魔法を廊下に突っ立ってる鎧から拝借した盾で弾き返し赤毛を一匹捕まえる。こめかみにグーを当ててぐりぐりすると「ギャー!」と悲鳴が上がった。

「いってえ!」
「は?自業自得だが?卵の殻もいてえのだが?」
「悪かったってナマエ!」
「は?謝って済んだらスネイプ先生はいらんのだが?」

こういうときマクゴナガル先生よりも効くのが蝙蝠の化身ことスネイプ先生である。

「ほう」
「待っていま嫌な声聞こえた」

ギッと双子の片方からDADA教室のボロい箪笥を割ったような悲鳴がして、私の体はカチンと固まった。アレマジで動かねえな。瞼もダメだな。……魔法〜!生徒に向けるな〜!

「グリフィンドール10点減点!フィルチさんに回収されるまで頭を冷やしていろ愚か者どもめ」
「ギュイイ〜」
「グ〜」
「シレンシオ!」

だから生徒に魔法向けんなって〜!私たちの必死の悲鳴もかき消されてしまった。喉が鳴るだけで口も舌も動かせない。わあ魔法ってすごい。マヌケな三体の象が廊下をしばし彩る。通り行く生徒の笑いの的。その後スネイプ先生の言った通りフィルチさんに回収されてマクゴナガル先生にさらに減点され何故か双子には私のせいにされてしまったが、元々の現況はあいつら!じゃん!
まあこんな毎日をわやわやと送っていたものの、とある日、ついに事件は起きた。

ガチャンッと音を立てて嵌められた手錠。冷たく鈍色が光り、片手がずんと重くなる。それを持って遊んでいた赤毛の顔がサッと青くなる。……おい待てなんだその顔!?

「外れないなんてことないよね!?」
「……たぶん」
「多分!?はっきりしろや!」
「俺たちには無理」
「なんで曲がり角でぶつかっただけでこうなんるんだよォーー!」

オーノォー!頭を抱えようにも片手がふさがっていてなんともマヌケな姿。ちなみに私と一緒に繋がれてしまったもう片方は呆然と嵌った手錠を見ていた。「フレッド!しっかりしろ!」と自由な片方がゲラゲラ笑いながら励ましているのでコイツはフレッドのほうらしい。失礼だなオイ、呆然としたいのは私の方だぞ。被害者イズ私。激ヤバ現象からエブリデイ厄日とは思ってたけどいつにも増して厄日。

「っていうかお前らには出来ないって何?鍵あるでしょ鍵」
「あるわけないだろ」
「あるわけあるだろ手錠だぞ」
「アロホモラ」
「……効いてないけど?」
「だから言っただろ、無いんだって」

鍵穴が。暫定ジョージはそう続けた。サッと私の顔から血が引いていく。鍵穴が…無い…?うそじゃんそんなわけないじゃん、と慌てて手を上げたり下げたりして必死に探してみるけど、つるつるした金属面ばかりで凹凸もほぼ無く確かに鍵穴は見当たらなかった。そして引っ張っても捻っても全く外れる気配がない。……無いじゃん。えっこれ詰みか?嘘だろ?もう関節外すしかないの?こういうときってどうすればいいんだ、映画とかだと銃とかで撃ったりして……そうだ壊せばいいんじゃないか!?多分なんか強い衝撃で壊れるでしょ。私は手を振りあげて手錠を壁に叩きつけようとし──てフレッドに止められた。

「何してんだお前!?」
「叩けば壊れると思って」
「俺も繋がってるんだぞ!?イカれてんのか!?」
「ぼーっとしてたキミに言われたかないね、他に壊す方法あるワケ?え?」
「それは……」
「じゃあここで叩き壊すか、それでもダメなら先生のところに駆け込むしかないじゃんよ」
「「それはダメだ!」」

口を揃えた双子にアン?と首を傾げた。何がダメなんだ。それ以外ないだろ、だって鍵穴がないんだから。鍵穴が無い錠とか聞いたことないぞ、これ終身刑用の手錠?なんつーもん持って遊んでんのよウィーズリーのガキンチョは。魔法界こわ。双子は絶対にだめだ!と強調した。

「これは、……これはフィルチの管理人室から拝借したものだ」
「しかもご丁寧に厳重な鍵付きのボックスに入れられてたヤツ」
「間違いなく何かあるシロモノだぜ」
「おまいらがそれを盗んだおかげで今こうだが???」

私を巻き込むなよ〜!しかし言い分はわかった、つまり明らかにやばそうなものを盗んだからバレたらもっとやばい、ということだな。なるほど。……いやバカか?モンキーの私が言うのもなんだがさらなるバカなのか??そんなものを振り回して遊んでんなよ!案の定コレだよ!やれやれ過ぎるぜ、と頭を振る私にジョージは真剣な顔をした。

「だから…俺たちがこれの開け方を解明するまで我が相棒とモンキーはンッフ……ンンッ、仲良く、手を繋いでるしかな、ぶっふぉ」
「笑いが隠せてねえよ」
「うそだろ……」
「こっちのセリフだよ」

なんで被害者ヅラしてんだフレッドくんよオイ。ジョージの大きい笑い声がげらげら響く。いや、冷静に考えて外れるまで手を繋ぐとか無理がありすぎるじゃん。まず寮とかどうすんの。風呂は?トイレは?問題が山積みすぎる。こんなこと、私の明日はどうなっちゃうのぉ〜!?

まあ詳細は永遠に墓に持っていくつもりだが、手錠が取れたのは3日後で私たちは揃って大量減点をされた挙句スネイプ先生に怒られマクゴナガル先生に怒られなんとダンブルドア先生にも怒られたことを言っておく。あと子供で助かったわマジ、これが思春期とかだったら悲惨だった。あ〜早くおうち帰りて〜〜!

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