- ナノ -

架空の恋に名前をつける

(「ああ、だからここは──」「は?意味わかんないんだけどちょっとまってってば」)
会話の内容は聞こえないが、2人のことだから勉強の話でもしているのだと思う。しかし、話の内容なんてどうでもか良くて、一冊の本を2人で覗き込む、肩が触れ合い自然に距離が近くなる。男女が中庭のベンチでそんなことをやっていれば勘ぐるのは当たり前で、ハーマイオニーはハラハラしながらそれを横目にしていた。

「あ、あの、ハリー?気持ちはわかるけれど」
「わかる?わかるだって?何がわかるんだ?僕は何も言ってない」
「今にもキスしそうな距離だよな」
「ロン!」

図書館の端っこから中庭を見下ろしてロンがぽつりと言うと、その途端バタン!と分厚い本が閉じられた。ハリーが閉じたのだ。杖に手を伸ばそうとするから、その手を捕まえて落ち着きなさい、と声をかけた。

「いい、ハリー?ナマエはね、ノットとは付き合ってないのよ、そういう感情もないの。だから安心して、」
「ナマエになくとも向こうにはあるかも」
「ロンは余計なこと言わないで」
「いや、ロンの言う通りだ。ノットには少なからず下心があるはず、だって──」

ハリーが指さした先、ベンチに座っていた2人が立ち上がった。立った拍子にナマエが少しバランスを崩し転びそうになる。(「うわっとっと──」)その腰をノットがスマートに支えた。さらにナマエの手を引き体勢を戻させ、一言二言話しナマエがノットの肩をぺしりと叩く。(「おい、気をつけろ。……少し痩せた方が」「ありが、うるせーー!一言余計だっつの」)叩かれたほうのノットから、少し笑みが零れてつられるようにナマエが微笑む。ハーマイオニーは一部始終を見て、少し苦い気持ちになった。確かにナマエはノットをそういう目で見ていないと言っていたが、それはそのときだったからであって、いつか恋の花が開くときがあるかもしれない。そしてそれは今だったかも、と考えると、祝福したい気持ちよりも先に取られてしまう、というどろどろとして不純物がたくさん混ざった魔法薬のような気持ち悪いものがお腹の底に落ちていった気がした。
ハーマイオニーでさえそうだったの。ハリーはもはや机に突っ伏して羊皮紙の表面をカリカリと爪でかいている。唯一平気そうなのはロンで、彼は普通にナマエたちを見下ろして「へえ」とてきとうな相槌を打っていた。ハリーがジトリとロンを一瞥した。

「ロンは悔しくないの?ナマエがスリザリンにとられてもいいの?」
「別に…とられるってわけじゃないだろ?」
「とられるだろ!」
「おいおいハリー、あいつを誰だと思ってるんだ?グリフィンドールが誇るモンキーだぞ、上手くいくわけないって。もしくっついても、すぐダメになるさ」

まるでわかったようにロンが肩をすくめる。ナマエだから上手くいくわけが無い、とは思わないが、ハーマイオニーもすぐに破局するのではとは思っていた。そもそも、ナマエにそういう付き合いを求めるのは少し違うと思うのだ。あまりにもかけ離れていて、想像つかないというのもあるが、ハリーは納得しなかった。

「ダメにならなかったら?そのままけ、けっこ──」
「それはないわ、ノットは純血でしょう」
「それに、スリザリン」

即座にハーマイオニーが否定し、ロンが決定打を下す。しかしハリーの顔はどんどん蒼白になっていく。

「駆け落ちしたらどうしよう……」
「それはないだろ」

ロンが噴き出して否定した、が、ハーマイオニーは一瞬考えてしまった。ナマエだ。ナマエは時折頭の回転が素早くなり、本能と理性の両者が合致して加速するときがある。それに加えてノットは既に財力があり、彼自身も秀才で冷静な判断が下せる。行動力は言わずもがな、もし駆け落ちなんてことになったら本当に見つけ出せなくなるのではないか──?

「ダメ!そんなのダメよ!」

ハーマイオニーがグッと手を握りしめて窓を開けた。ロンとハリーが身を乗り出す彼女を慌てて支える。

「ハーマイオニー!?」「あぶない!」
「ナマエーー!」

ハーマイオニーの声で2人が振り返る。片手で目に影を作ったナマエがこちらに向かって大きく手を振った。

「ナマエー!その男はダメよー!ダメなのよーー!!」

ナマエがぶんぶん手を振りながら、ノットのほうを見て何かを話す。(「今ハーミーなんて言ってた?」「……さあ?」)ノットがナマエの肩を抱き寄せ、わざとらしく髪に触れる。ナマエはされるがままで、ハーマイオニーはキャッと声を上げた。ノットがこちらを仰ぎ見る。その表情はまるで挑戦するようにニヤリと笑っていて、わなわなと手が震えた。今、ノットはハーマイオニーに対して宣戦布告をしたのだ。ナマエはノットの手の内にいると言外に告げてきた。それを察知し、ハーマイオニーの中の炎がめらめらと燃え上がっていく。

「あの男……受けて立つわ…!」




「……ハーミー気合い入ってね?なんかあったのかな」
「さあな。それより、早く戻るぞ。さっき話した件の検証がしたい」
「へーへー研究熱心なことで…いやなんで肩組んだ?」
「そういう気分だ」
「……ふーん?」