声もかたちも熱情もない

ドキドキと胸が高鳴ってとか、顔が赤くなってとか、そんな初々しい感情じゃない。そばに居たいとかそういうつもりもない。生徒と教師の距離感はちゃんと押し計らないと教師がいなくなってしまう可能性もあるし絶対ダメ。とはいえ、見るくらいなら許されるんじゃないかなーと思っているものの……スネイプ先生的にはNGらしい。

「ミスミョウジ、節穴で我輩を見つめてもレポートは書き上がらないが?」
「そうなんすよね……」
「さっさと書け愚鈍」

辛辣〜!しかしそこがいい!とか盲目的なことは言わない。普通に嫌だ。愚鈍。グサリと刺さった。私はため息を吐いて、書き直しのレポートの修正をする。
普通に書き終わらなくて遅刻した提出、いたらいいな〜いややっぱ減点は嫌だ怒られたくないいないでくれお願いしますと思いながら地下室へ来たらスネイプ先生がいて、しかも採点しててドッキドキ!確実に寮点減る!恐怖!だがスネイプ先生はご機嫌だったのかなんだか知らないが、まさかの減点はしない方向だった。私はめちゃくちゃ驚いた。そんで更にスネイプ先生は目の前で私のレポートの赤ペン先生をしてくれて、そのまま「直せ」と突き返され、ふよふよと飛んできた椅子と羽根ペンと参考書に私は何を求められているか理解し、こうして地下室なうだ。ラッキーなのかアンラッキーなのか、消灯までに帰れたら超ラッキーだ。
ぺらぺらと参考書を捲っては書き、捲っては書き、途中スネイプ先生に見られてドキッと冷や汗を流して何も言われなかった胸を撫で下ろし、「英語も読めぬとは嘆かわしい」と言われればヒエッとまた書き直す。これが恋の高鳴りでたまるか、どちらというと命の脈動だわ。
しかし、時折視線が合うとなんだかグッと来てしまう。恋とはげに不思議なものなり。
最後に訂正箇所をざっと見直してスネイプ先生の元へ出す。

「……フン、いいだろう。次の小テストが楽しみですな」
「イーヤー!」
「騒ぐな、出ていきたまえ」
「ウッス」

近いうちに小テストがあることをネタバレされてしまった。内心であざすとお礼を言う。実際に言ったら範囲変えられるかもしれないからお口チャーック。シェーマスたちとヤマはんなきゃ。

「スネイプ先生おやすみなさーい!」

去り際にそう言って教室を出ると、ピシャリと扉が閉められた。返事代わりにしては乱雑だけどまあいいや。どうせ早寝はしなさそうだしな、あの人。

きっかけはいつだったかな。時折目が合ったり、時折声が優しかったり、そんなところが重なってだろうか。後者は当社比ってやつだから私にとっては飴と鞭の飴でも人からしたら苦い飴になるだろうけど。別にDV的なものに惚れやすいというわけではない、はずだ。そう思いたい。
私がスネイプ先生のことを好いているというのは多分誰も知らない。私も態度に出してるつもりないし、皆はスネイプ先生なんかありえないと思ってるはずだし、秘密の恋ってやつだ。矢印は1本だけアンド一方通行。クーッ寂しいね!これで私が10代のキャピキャピガールだったらガンガンいってたかもしれない。無知な若造は愛に走りやすい。でも残念ながらそこまでの若さはなく、しかしこれでも居心地のよい愛を作っているつもりだ。まあ、バレている存在もいるんですけど。

「返事のこない挨拶をよく繰り返せるな」
「君も返事しようね?はいこんにちは」
「席を詰めろ」
「返事しようね!?」

数占い学の教室に来る前に、廊下ですれ違い様にこんにちはー!と挨拶して華麗に無視されていたのを見られていたらしい。ノットくんにも無視されて悲しいぜ。思春期ボーイ許してやろう。へらっと笑うとフン、と鼻で笑われた。厳しい。

「先週のレポートは」
「バッチリ」
「見せろ」
「あっらー?ノット先生が?レポートをやられていない?ノット先生ともあろうお人が?」
「コンフリン」
「ワーーーー!!やめろ!!」

慌ててレポートの紙束を胸に抱える。あっっぶねえ!やめろ!燃やすどころか爆発させるんじゃない!発想が野蛮!グリフィンドールより野蛮!思いつく限りの文句を垂れると、ノットくんは黙って片手を出した。……えっ?なに?私が悪いみたいな態度何?なんで?渋々渡すと、彼は私のレポートを読んでからひとつ頷き「Bだな」と笑った。嘲笑うって方の笑いね。合格点は超えてるんだからいいじゃねえかB。Bになんの文句があるって言うのさ。

「ちなみにノット先生は?」
「A+だろうな」
「自信満々かよ。っていうか人を馬鹿にするために……?傷ついたわー流石スリザリン人の心を抉るのが上手い」
「褒めるな」
「褒めてねえわ」

うるせえわ。ぎゃいぎゃいと普通のトーンの声で軽口混じりの会話を続けていると、ベクトル先生が入室する。教室内はほどほどに騒がしくほどほどに静かになった。私も口を閉じる。ふと空いていた窓からふわりと薬草の匂いがした。どこかが薬草学を外でやってるらしい。独特の匂いは、やはり黒い背中を思い出させた。
授業が終わるとノットくんは図書館へ行くと言うので、私もレポートの資料をとりについていくことにした。ついでにノット先生セレクトの優秀な参考書も借りるつもりである。便乗便乗、頭の良い奴が友達にいると助かることがたくさんで嬉しいねえ。なお軽く人の心を抉りやすいのが玉に瑕。と、図書館へ行く階段の手前でコツコツという足音を耳にした。この足音は。振り返ると、予想通り無視されたばかりのスネイプ先生がこちらへ歩いていた。足音でわかるとか私は犬か。

「グリフィンドールがスリザリン生と何をしている」
「これから図書館行くとこっす」
「ほう、レポートの勉強かね?熱心なことだ」
「あざす」

ノットくんは別に嫌味だぞと小声で教えてくれなくてもいいんだよ。知ってるから。スネイプ先生の話すことは5割嫌味で4割お説教で1割ポッターだから。わざわざレポートと言ったってことは私の昨日のレポートなんか不備あったのかな。昨日チェックしてくれたときは何も言ってなかったじゃん!と内心で文句を言う。口に出したら終わり。グリフィンドール30点減点。しかし今日はノットくんがいるから嫌味も早く終わるかも、と思っていたらまさかの裏切りおにぎりがあった。

「では、僕はこれで」
「ノットくん!?」
「来週の実験は期待している」
「はい、頑張ります!」

期待している!?頑張ります!?まるで熱心な教師と生徒の会話だ。鳥肌立った。マジかよという目でノットくんの背中とスネイプ先生を交互に見ると、スネイプ先生から「人間が珍しいなら大広間へ行くといい」と言われてしまった。人里初めてのモンキーってか。今日も絶好調ですねスネイプてんてー。
へらりと笑うと、スネイプ先生はぽかんと私の頭を羊皮紙の束で叩いた。その武器をそのまま渡される。

「…………A!!???」

エーーッ!?と廊下に私の声が響き渡る。なんだなんだと生徒たちが振り返って、スネイプ先生の姿を見るや顔をぎゅるんっと前に戻した。ちなみにAとエーッ!?はかけてないしダジャレではない。レポートに書かれていた評価が信じられないAだったからエーッてことで別にダジャレではない。大事なことだから2回言いました。
思わずスネイプ先生のローブの裾を掴んでしまった。

「夢ですか!?マジですか!?ドッキリ!?」
「離したまえ」
「魔法薬学でAとか初めてなんですけど!?」
「離せ」
「アッハイスンマセン!」

ワントーン下がった声に、手を叩かれる前に自分で離した。一瞬の感触であった。そんなことはどうでもよくて、ニヤニヤしてしまう。ほんとにぃー?えぇー?マジでぇー?昨日のアレでぇー?うへへへこれは寮に戻ったらソッコーでロンに自慢してしまう。

「用はそれだけだ、図書館へ行って勉強するように。返事」
「ハイ!頑張ります!」

ピシッと立って敬礼すると、スネイプ先生は鼻で笑うこともなくスタスタと去っていく。じわじわとした喜びの中で私はその背を見送った。
わざわざレポート届けてくれるとか無いし、初めてだし、Aって、昨日何度も書き直したのにAってことはAが取れるまで教えてくれたってことだろ。掠れたインクで書かれた教授の名前を指でなぞり、紙ごと抱きしめた。そういうとこだぞスネイプ先生ーッ!

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