花の名ばかり知っている

宿題が終わらなくてベッドの中でもペンを持っていたくらいにやばい夜が明けて、私は絶望した。ない。頑張って書いた5枚がない。あとハーミーからもらったお気に入りの羽根ペンもない。鞄の中も引き出しの中もひっくり返したけど全く見当たらない。そのうちに外の鐘が鳴ってしまって泣く泣く慌ててぐちゃぐちゃに詰め込んだ鞄を抱えて寮を飛び出した。帰ったらまた探さなきゃ。
頑張って階段に飛び乗り駆け下りて大広間へ転がり込むように入ると、ギリギリ食事が残っており世界に感謝した。朝はちゃんと食べないとね、お腹すいちゃうからね。この前魔法薬学の授業中にずっとぐうぐうお腹を鳴らせていたせいで減点されたのはとても痛かったんだぜ……お腹も心も……。パンを口いっぱいに頬張りもぐもぐ咀嚼しては牛乳で流し込む。と、途中で詰まったように苦しくなって胸をドンドン叩く。胸を叩くのは机は違うが近くのスリザリン生が「モンキーがいる」と笑ってるようだがドラミングじゃねえから!しかしドンドン叩いても一向に苦しい。そういうときに限ってコップの中が空。ウ、ウオオ、ピンチ!

「急いで食べ過ぎだよ、はい飲んで」
「ウ、ウグッ、ウウゥ……ップハァ!助かったありが…………」

トントンと背中を優しく叩かれ、ついでに水の入ったゴブレットを差し出され、一気に煽ると楽になった。口周りを軽く手で拭って振り向くと、おや?おやおやおや?あれ?

「ナマエ、また寝坊したんだね?」
「…………」
「……どうしたの?」
「…………ルーピン、せんせい?」

首を傾げると、ルーピン先生は噴き出して「何その呼び方、監督生だからって君も僕をからかうのかい?」と言う。かんとくせい。監督生ってあれだろ、パーシーがやってたやつ……いや待て監督生って学生で、いやそりゃそうだよなだってルーピン先生グリフィンドールの制服着てるし。お似合いですね。じゃねえんだわ、ええ?どういうこと?戸惑う私がいる反面、ものすごく、デジャび…ヴゅ……。

「僕の顔になにかついてるかい?」
「……目と鼻と口と傷が…」
「ああ、うん……これは、その……」

思わずいつも通り答えると、ルーピン先生はもにょもにょと言いにくそうに自分の顔を触った。多分この傷出来たてホヤホヤだ、薬塗りたてホヤホヤだろうな。数時間後にはぺっかぺかのもち肌になっているはず。まあ気にすんな、と肩を軽く叩いてゴブレットの中を飲み干し、鞄を持った。ちらりと見ると、ルーピン先生はにっこり笑って先導するように歩いてくれた。あざすざす。
さて、ここまで流してしまったが、うーむ、これはつまり……タイムスリップ?前回もそうだったってことかな。全く実感がないけど、皺と白髪のないルーピン先生を見れば納得だ。でも実際いつなんだろな。日付とかわからんし、多分年単位だし。あれ?ルーピン先生ってそういやいくつなんだろ。ハリーパパと同年代なら中年だろ……う……し…………。

「えっハリーの両親がいる!?」
「!? きゅ、急にどうしたの!?」

思わず大声をあげてしまうと、ルーピン先生がびくっとして振り向いた。あわわわ。どうしよ。どうすればいいんだ。もちつけぺったん。違うおちつけ。なにか数えろ、素数!いち!終わり!アーイヤバカ。典型的な間違いをすんじゃあない。とりあえず視線を上に向けると、雲の隙間から微かに青い空が見えた。ふむ、そういえばルーピン先生に出来たてホヤホヤの傷があるってことは、たぶん。

「昨日って満月かあ」
「えっ!?」
「えっ!?」

私の様子を見て不思議そうに顔を前に戻したルーピン先生が、酷く真っ青な形相でぐりんっとこっちを見た。




私の目の前に仁王立ちするもじゃもじゃ眼鏡をじっと見返す。ついで眼鏡の隣にいる黒髪。後方に泣きそうなルーピン先生と、慰めるほわほわした子。これはよくある屋上の図なのでは。私が容疑者ってか、ルーピン先生のこといぢめてないよ!っつーかどうしてこんなことになっているんだか。首を傾げると、黒髪の立体的な眉がピクリと動く。

「テメェ、いつから知ってやがった」
「なんのこと」
「まあまあ落ち着けってシリウス。ほら杖持って」
「しりうす」
「なんだよ」

いや杖出すなよ向けるな向けるな。敵意はないんだぜ。その場のノリで両手を顔の横にあげると、そのままサラッと拘束されてしまった。容疑者じゃねえってばよ。っていうかシリウスっていうと、同年代──、

「……シリウス・ブラック?」
「あ?なんだよ」
「ガラ悪」
「喧嘩売ってんのかテメェ!」
「あーもうシリウスうるさい!ナマエもうるさい!話が進まないだろ!」

眼鏡がぷくっと頬を膨らませる。可愛くないんだよなあ。そして眼鏡はピンと人差し指を立てると、私の前に突きつけた。

「僕と破れぬ誓いを交わそう」
「ジッ、ジェームズ!」
「だってそれが一番じゃないか?ナマエは確かにリリーの友人だけど、信用できるとは限らないだろう。例えリーマス、君が彼女に懐いていてもだ」
「ナマエが裏切るとは限らないだろう」
「だそうだよ?リーマスが優しくてよかったね、誓いはまた後でね。ところでリーマスが人狼だっていつ知ったの?」

べらべらと早口で話されて少し頭がついていっていない。え、えーと、破れぬ誓いってなんだ、初めて聞いた。義兄弟の誓い的な、五分五分の盃的なやつか?英国式だとウイスキー飲まされたりすんのか。お酒は好きだけどこの身体じゃなあ……。それから、あー、リーマスが私に懐いてる?それはどうでもいいな、うむ。どちらかというと私がルーピン先生に懐いてた側だし。で、ルーピン先生が人狼だったか。

「いつだっけな……去年?いやその前だったかも……」
「誰に聞いた」
「マダムポンフリー」
「なんだって!?」

どうしてマダムがそんなことを!?と眼鏡が騒ぎ出す。そこへ、フラフラとルーピン先生が近づいてきた。拘束されている私の手に杖を一振りして自由にしてくれた。ヤッター。そして何故かそのまま私の手を握った。祈るように組まれた手が少し震えている。

「どう、思った?僕が人狼だって聞いて、こわいって、」
「いやーあんときそんな余裕なかったし、へえーって感じ」
「……へえーってかんじ」
「……そうなんだ、みたいな?」
「…………」

何故かルーピン先生は遠い目をしてハハハと笑っている。何か答え方間違ったかな。首を傾げると、横からべちりと叩かれた。痛くないけど痛い。は?なに?

「ナマエって本当にバカだよな」
「モンキーからしたら些細なことなのかもね」
「喧嘩売ってんのかもじゃ眼鏡」

チッと舌打ちすると、「誰がもじゃ眼鏡だって!?」と騒ぎ出す眼鏡にため息を吐いた。この中にハリーの親がいるってマジ?ルーピン先生とシリブラがいるなら眼鏡かほわほわした子しかいないじゃん。この眼鏡はないな、うん、ない。じゃああのほわほわした子か……でも似てないんだよなあ……あっルーピン先生人望あるからこの中とは限らないじゃん!きっとそうだわ。私は安心してへらっと笑うと、眼鏡から「なんかムカつく」と舌打ちされた。こちらのセリフである!


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