こわれないことば

この1週間とても長かった。授業はいつも通りなのにあまり集中出来なかったし、宿題は何故か量が多くてひいひい言っていたし、ちょびっと魔法で失敗したらそれが魔法使いとしてありえない失敗だとかでマクゴナガル先生にめちゃくちゃ怒られて、そして休日のはずの今日、本来なら昼まですやすやのはずの今日、私は朝から夕方まで変身学の教室にいた。授業の準備とか、基礎レポートの書き直しとか、書き取りとか、その他もろもろ、食事の時間はあれど1日中マクゴナガル先生の監視下でおべんきょう。スネイプ先生の罰則のほうがまだ楽だった。ようやく解放されたけど全然ルンタッタ気分じゃない、疲れてズーーンって感じ。夕食までまだ少し時間があるから一旦寮へ帰ることにしたものの、魂が抜けそう。
ハアアア……と私の深いため息が廊下に響く。聞こえたのか、廊下の向こうから嬉々としたピーブズが顔を出した。その手にくそ爆弾が握られているのを見て、大慌てで走った。やべえ!今くそ爆弾はやべえ!今当たったら私は廊下で泣きながら地団駄を踏む自信がある!そのくらい疲れている!見たいのか俺の本気を地団駄を!……ピーブズくんは見たいだろうな。あいつはそういう奴だ。

結局くそ爆弾からは逃げられず、べちゃべちゃになり廊下に伏しているところを通りかかりのダンブルドア先生に助けられてお掃除されたピカピカの綺麗な私はとぼとぼとグリフィンドール寮へ戻った。校内でのエンカウント率SSR並みのダンブルドア先生に助けてもらえたのは運が良かった。階段に置いていかれ、マダムに「今おしゃべり中なのよ!おしゃべり中なの!………んもうわかったわよ!酷い顔ね、アナタ」なんて言われてひゅるり〜と木枯らしの幻聴を背負いながら談話室へ入る。

「あら、おかえりなさい」

クルックシャンクスことクロを抱きながらレポートをやっているハーミーがまず迎えてくれた。酷い顔ね、とハーミーにも言われて苦笑する。

「ちょっと慰めておくれよ」
「あとでね、今いいところで……ちょっと!ナマエ!あとで!」
「クロはいいのに!?」
「ナマエを猫と同列には出来ないわ。ほら、あっちに行って」

ハーミーに顔をぷいっとされて少し落ち込む。しかし代打がいるらしい、あっちと差された指の方を見るとソファの背もたれからこっちを見る目が。ふらふらとそちらへ向かう。

「ロン〜!我が友よ〜!」
「ゲッ僕?嫌だよ」
「ものすごくきずついた」
「エッ、ご、ごめん……嫌っていうのは、その……僕じゃないだろ?」
「なにがよ」

片手で傷心の胸を抑えつつ、もう片手で背もたれ越しにロンの赤毛をぐしゃぐしゃと掻き回す。と、ロンが手の親指だけを立ててクイックイッと方向を示した。……うん?なんだなんだ。首を回してそっちを見ると、1人掛けのソファに座るハリーがムッとした顔で私を見ていた。

「……ハリー……」

思わず、といった具合に名前を呼ぶと、ハリーはこくりと頷いてからそっと両手を広げる。う、うううう。
救われる思いでソファのせもたれを飛び越えその腕の中に飛び込んだ。グエッと聞こえた。すまんな。ぎゅーと抱きしめると背中に手が回り、抱き締め返される。そしてなんと後頭部を優しく撫でてくれるのだ。これは優しさの塊、溶けてしまう。私が。

「オプションおいくらですか」
「……ナマエ、よっぽど疲れたみたいだね」
「おう……」

ハグはストレスを下げるとかリラックスとか色んな効果があるらしい、眉唾物だと思っていたがこれは本物だろうと確信した。疲れの塊がハリーポッターによってゴリゴリ削られていく感覚がする。アーーと喉から温泉に浸かったおっさんのような声が出る。

「ハリー最高、ありがとう、めっちゃ好き」
「……好き?」
「好き好き」
「どのくらい好き?」
「なんだそのバカップルみたいな質問は」

思わず真顔になりハリーを見る。お、おっと、思ったより近いな……すまんかった……。1人掛けとはいえソファはそこそこ広い。まともに戻った頭では今の今までハリーの上に乗っていたのも申し訳ねえとちゃんと思ったのでそっと肘掛の方に移動しようとする。した。

「……あれ?ハリー?ハリーくん?」
「どのくらい好き?」
「おっと?」

私の腰に落ち着いたらしい手はガッチリと力を緩めることはない。おやおやおや?ぐいぐいと動かそうとして、これ以上動けば私の足が攣るって体勢まで頑張ったが無駄だった。やけに疲れが戻ってしまった身体を大人しくハリーとソファに預けて、RPGの村人のように同じことしか問わなくなってしまったハリーにうむ、と考える。どのくらい好きなー……えー……この期待を込められた瞳……なんと答えるのが正解か……。

「ホグワーツの広さくらい?」
「ほんとに!?」
「ちょっと盛ったかも、ああいや嘘ですごめんてちゃんと好きだぜベイベ!」

うるっと泣きそうになった瞳に大慌てで否定した。意地悪してごめんて。ホグワーツの敷地面積知らんけど。ハリーは先ほどとは一転にっこり笑った。

「僕はクィディッチくらい好きだよ」
「……ありがとう?」

わかんねえんだよな例えが。とりあえずにっこり笑って頷いておいた。
後ろからため息が2つ聞こえて、おや、と振り返るとロンとハーミーが揃って似たような表情でこちらを見ていた。「夕食の時間よ」という声にやったー!よっしゃー!と今度は普通に膝から降りる。吹っ飛んだ疲れにいくらでも食べれそうだぜ、とウキウキする私の隣でハーミーは「あなた、そういうところよ」とよくわからんことを言っていた。

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