- ナノ -

こちら側の心

敬愛なるダンブルドア先生の後押しもあって我が親友ムーニーが闇の魔術に対する防衛術の教授になり、お祝いムードで街が輝いていた学期初めから数ヶ月が経った頃、ムーニーは驚く情報を贈ってきた。

「……ハリーが恋?」

手紙に書かれた息子の秘密に眼鏡がズレるほど動揺した。慌ててキッチンにいる妻へ駆け寄る。

「リリー、リリー!ハリーが恋してるって知ってたかい!?」
「騒がしいわよジェームズ。ハリーが恋?聞いたことないわ。もうそんな年頃なのね」
「それが、リーマスの手紙によるともっと前かららしいんだ!ほらここ読んで!」

リリーに手紙を差し出すと、彼女のエメラルドの瞳が文字を読む。ハリーの恋は既に長い片想いになっているらしいという内容に、流石の彼女も驚いていた。そりゃ驚くさ、ハリーはなんでも僕たちに相談してくれる子だったから、隠し事があるなんて思いもしなかった。読み終わると、リリーはひとつ頷いて言った。

「すぐにリーマスを呼んで」


リーマスとついでにシリウスとピーターも我が家へ集まると、我々大人は食卓を囲みリーマスから詳しい話を聞き出した。リーマスもあまりハリーには相談してもらっていないらしいが、父よりも知っている時点で僕のプライドが涙を流す。きっとスネイプはもっと知ってるんだ……。口を出すつもりはないけど、溺愛している息子の悩みを聞いてあげられない情けなさはある。
ハリーが片想いしている相手は、グリフィンドールの同級生らしい。ナマエ・ミョウジというアジアから来た子で、これがまた魔法が下手くそ。よく食べよく寝て、早寝遅起き。クィディッチのことを危険スポーツと呼び怖がっていると聞いたときにはシリウスが「そんな人間がいるのか!?」と驚いていたけど、同感だ。そしてハリーとの関係は良好で、よく手を繋いで移動しているところを見るそうだ。DADAの教授がマクゴナガルにこっそり聞いた話では、ナマエは幼い頃に闇の魔法使いに両親を殺され不遇な環境にいるらしい。それでも日々気丈に振る舞う強い子なのだと、すっかり教師の顔でリーマスは微笑んだ。

「ただ、彼女は保護者がいないからホグズミードには行けない。ハリーがこれ幸いと2人きりで城に残っていた」
「やるわねハリー」
「ハリーが夏季休暇以外帰ってこようとしないのはそういうわけだったのか」
「息子を取られた気分だ!」
「まあハリーのアプローチはナマエに全く通じていないようだがね」

サラッと言われたことに僕達は目を丸くした。普通に手を繋いだりハグしたりしているというのに、全く?これっぽっちも?

「ナマエは……ハリーを弟のように思っているらしい。闇の魔法使いに狙われていると知ったとき、盾くらいにはなる、自分がハリーを守ると豪語していたよ」
「すごい、頼もしいガールフレンドだね」
「ガールフレンドじゃないんだよピーター」
「でもなるかもしれないんだろう?」
「ハリーはジェームズとリリーの子だから確実だろう」
「そのあたり、ジェームズには似て欲しくないわ。しつこいんだもの」
「リリー!?」

妻の言葉にショックを受ける僕の背中を相棒がバンッと叩く。ゲラゲラ笑っているその口にリーマスの激甘ケーキを詰め込んでやりたい。ハリーは僕とリリーの良いところを詰め込んだような子だからピーターの言うとおり、そのうち家に連れてくるのだろうけど……控えめに笑うリーマスの様子を見るに、まだ先なのかもしれない。

「手助けしてやれることは無いのかよ」
「パッドフット、いい大人が子供のことに口を出すんじゃない。……と、言いたいところだけど、僕もハリーが可愛くてね」
「何かしたのか?」
「ホグズミードへの秘密の道を教えてきた。といっても、ハリーは秘密の地図を持っていたから時間の問題だったろう」
「なんだって!?」

ホグワーツの隠し通路は学生時代に知り尽くしその叡智を込めた懐かしい地図。フィルチに奪われてから行方知れずだった地図をハリーが持っていたなんて、聞いていない。しかしじわじわと込み上げる嬉しさに破顔した。そうこなくっちゃ。僕たちは何も言わずに目を合わせてニヤリと笑う。空気を察したリリーが、呆れたようにため息を吐いたが、もちろん彼女も行くだろうさ。

予想通り、クリスマスの夜、ハリーはホグズミード村に現れた。リリーには散々怒られたが、透明マントをプレゼントして良かった。マダムロスメルタの店で観葉植物の影に隠れて待ち構えていると、ホグワーツの夕食が終わった頃に小さなカップル未満が入店してきた。手を引かれてコートをしっかり着てマフラーをぐるぐるに巻いた黒髪の少女も入ってくる。我が息子はしっかりエスコートしているようで鼻が高い。「すごい着込みだな」「まん丸だね」と小さくシリウスと話していると、リリーが僕の太ももを抓った。
ハリーは観葉植物を隔てた隣の席へ座った。あまりの近さにバレやしないかとドキドキしたが、どうやら両親よりも目の前の子に夢中らしい。ジェームズそっくりだって、うるさいよ。

「バタービールをふたつ」
「んー……チーズマッシュポテトとソーセージもください」
「…………さっき夕食食べてたよね?」
「どっかの誰かさんに引っ張られたからケーキ食べてねえんだなこれが」
「ごめんってば!ならケーキ食べなよ!」
「ロックケーキ食べ終わるまでに何時間かかると…?」
「大鍋ケーキもあるよ」
「2人でこの量はきつい」

食い意地の張った子だなあ。確かに大鍋ケーキの量は多いから大変だろうけど、せっかくのクリスマスにケーキを食いっぱぐれるのは可哀想だ。モリモリケーキを飲み込んでいくリーマスから少し分けてあげたい。
チラリと葉の間から盗み見る。コートを脱ぎマフラーを解いたナマエは、なんというか……。

「普通だな」
「もっと美人でもよかったんじゃないか」
「なんてこというのあなたたち!」
「シッ、気づかれるよリリー」

おろおろしながらも、ピーターだって僕たちの意見に頷いた。リリーの眉がキッと上がった。しかし、言った通りなのだ。特に美人という訳では無い、ハリーの友人であるハーマイオニーの方が目鼻立ちも整っているだろう。ハリーよりも低い身長はかつてのピーターのような小動物さを思わせる。服を着込んでいるようだから実際のスタイルはわからないが、顔周りを見るに太ってはいないようだ。ぼんやりのんびりした表情は、まるでデートを楽しんでいるようには見えない。しかし、時折ハリーを見つめる瞳がどこか甘やかなのは脈アリ、というところか?彼女を知っているリーマスに確認の目線を送る。しかし、リーマスは首を振った。リリーもわかっているというように頷く。……リリー?

「あれは、愛だけれど恋じゃないわね。私とセブのようなものよ」
「スネイプは君のこと好きじゃないか!」
「声が大きいわジェームズ。だから、私がセブを見るのと同じ温度かしら。……あ、ほら、手を握ったわ」

即座に様子を見に首を戻す。ハリーは確かにナマエの手を握っている。が、ナマエはハリーの手を普通に握り返して、「タコが増えたねえ」なんて笑っていた。危険スポーツ頑張ってるから、とかそうじゃないよ!クィディッチは危険じゃない!それからハリーもクィディッチ語りを始めたらダメだ!

「ウッドがこうゴールを守って……でもこっちからブラッジャーが来てたんだ!」
「うんうん」
「そうしたら、ウッドは箒をこう……すごいだろう!?」
「うんうん。あ、ソーセージこっちでーす」

キラキラと目を輝かせてハリーは楽しそうにクィディッチの話をする。ウッドのプレイは確かにすごい。隣のパッドフットがそわそわしているくらいだ。しかし我が息子よ、クリスマスナイトの話のチョイスがそれか?愛の言葉のひとつやふたつくらいないのかい?
ナマエは慣れたように相槌を打ち会話を続けている。そして、驚くことに2人はそのままクィディッチの話をして食事を終え、城へ帰って行った。カランと鳴ったドアベルを呆然と聞く。

「……雪を使ったプレイ方法がどうのとか、クリスマスデートで話すかい!?ナマエも真剣に雪の中にブラッジャーを入れて投げろとか、危険なのは君もじゃないか!」
「素晴らしいキーパーだ、今年もグリフィンドールが優勝杯だな」
「ナマエは温厚だけど過激なんだね、リーマスみたいだ」
「僕はナマエほどじゃないさ。彼女、寮点をとられすぎてスネイプに平気で言い返す肝の持ち主だからね」
「ああ、そりゃ最高だ……会って話せる日は何年後だ?」

頭を抱える僕の向かいにいた妻は、「誰に似たのかしらね」とため息を吐いた。ああ、次にハリーが帰ってきたとき、僕はなんとアドバイスすればいいのだろう。