この憧憬に誰も触れないで

心地よい眠りから突然の地震、もとい揺さぶりによって無理やり目覚めさせられる。ショボショボの目をどうにかこじ開けると、アンジーのにっこり笑顔がそこにあった。しーと口元に立てられた指と暗い部屋に察した。まだ日の出前なんですけど。
よろよろと起き上がると、アンジーは小声で「下でハリーが待ってるわよ」と言って部屋を出ていく。わざわざ起こしに来てくれたらしい。ハリーの手の者だな……くっ……。しかしここで二度寝をキメたら今日のハリーのご機嫌は間違いなく最低で雷が落ちるかもしれない。魔王か。でもご機嫌ななめのハリーはそういうとこあるから……私は頑張ってのろのろと休日の相棒芋ジャー着替えてのっそりと階段を下った。談話室にはハリーが一人ソファに座っていた。あれ。アンジーたちはもういないらしい。もしや思ってたより支度に時間がかかってた?それはすまねえが集合時間が悪いと思うんだよな。

「ナマエ、おはよう」
「おーう……はよう………」
「起きて」

起きてる、起きてるから肩を揺らさないでくれ。わかったわかったとハリーの背中を軽く叩く。朝から元気なハリーがにっこり笑った。おや可愛い。そして眠い。いつもよりもゆっくりな歩みを急かすようにハリーが私の手を引く。寮の外に出た途端ひんやりした空気が身を包み、ぞわぞわ立った鳥肌に一瞬ハッと目が覚めた。
アンジーが起こしてくれたという点でもう察した人もいるかもしれないが、私はこれから何を血迷ったか危険スポーツの練習を見に行くことになっている。ハリーのお願いだ。私よりも背が高くなったくせにわざと座って上目遣いには勝てなかったよ……。ハーミーの「ハリーに甘すぎるわ」という言葉がとても刺さった。それが昨日のこと、で、今日。早起きなら1週間前くらいに言って欲しかったっつーのが本音なところ。こちとら健康優良児でもなければ最低でも6時間は寝ないと疲れが身体に残るんだよ。君たちも成長期なんだからちゃんと寝なさい。消灯時間に寝ない方が悪いと言われればその通り過ぎて何も言えないグリフィンドール生です、どうもおはようございます。
練習場につくと、メンバーのみんなが既に箒に乗ってひゅんひゅん動いていた。ハリーもサッと乗っかる。

「まずは準備運動だから、見ててね」
「……準備運動は地上でするものでは?」
「どうして?」
「どうして???」

いきなりのカルチャーショックに驚きを隠せない。乗ってから準備運動なの?箒と身体は一体化してる的なアレか?ボールは友達を超えてんのか?飛んでいくハリーの背中にしょっぱい視線を送ってしまった。
みんなが空中で準備運動をしているらしい間、私はベンチに座ってチャックを上まで閉じた上着の中に体育座りした膝を突っ込む。団子状態ってやつだ。見栄えは悪いけど温かいんだよこれ。「おいブラッジャーが増えてるぞ!」「あのブラッジャー動かねえな、壊れてんのか?」「あんな可愛らしいの叩いたら怒るからね」とクスクス笑い声が頭上から聞こえてくる。ブラッジャーってなんぞ。叩くもんなのか。内心首を傾げ、現実では眠気にかっくんかっくん揺れているとしばらくして「ナマエ!」との声に目を開ける。

「起きてましたよちゃんと」
「……本当に?」
「ほんとほんと。準備運動終わり?」
「うん。これ見て、説明するよ。手足出して」
「へーい」

ハリーは私の団子状態を見慣れてるから問答無用とばかりに人の上着のチャックを下ろしてくれよった。胸に吹き込む風にぞわっとする。手足を外へ出して下げられたチャックをまた上まで上げながら、ハリーが見せてきた鞄のようなデカいケースの中を覗く。金色の小玉とデカい木の玉が1つずつと、デカい木の玉を挟んだ状態でボールみたいなものが2つ。

「これがクアッフル。チェイサーがこれを使って得点を入れる。アンジェリーナとアリシアとケイティがグリフィンドールのチェイサーなんだ」
「美人三姉妹がフォアードか、いいじゃん」
「サッカーじゃないから。……コホン、それからこれがブラッジャーっていう暴れ玉。ビーターが棍棒でブラッジャーを打って相手を妨害したり、味方の手助けしたりするんだ。フレッドとジョージはすごく優秀だよ」
「双子とか適任すぎるじゃん。ボール離さなそう」

上を仰ぎみると、丁度頭上を双子が通る。空中で棍棒を振る動作をしてウインクしてきた。ファンサがすげえ。ファンサうちわ作ってったら試合でやってくれるぞこの双子。ケラケラ笑うとハリーが私の袖を引いた。少しムッとした顔だ。ハイ、よそ見してすみません。

「ボールじゃなくてブラッジャー。リピートアフターミー、ブラッジャー」
「ぶらじゃー」
「ブラッジャー」
「……ぶろっじょぁー?」
「全然ダメ」
「発音の授業かコレ?」

ぶるぁっ……ぶろぁっ……いや無理わかんない。なんとなく察してくれよ。このまま続けていると舌を攣る。そう主張すると、ハリーは苦笑して頷いた。そしてゴールを指をさす。

「あれがゴールで、クアッフルを入れると10点になる。ゴール前にはキーパーがいて、ウッドがゴールを通すことは滅多にないよ」
「グリフィンドールの守護神か、つえーぞこれは。えーと、チェイサーが3人でビーターが2人にキーパーが1人、……ハリーはシ……シイ……いやビ……?ビーカーみたいな……あっシーカー!」
「そう!そうだよ!ナマエ覚えててくれたんだ、すごい!」

覚えてるだけで褒めてくれるハリーについ私も童心に返って喜んでしまった。ニコニコにつられてニコニコになる。シーカーは花形で、残った金のスニッチという玉を獲る役目なんだとか。スニッチを獲ると、150点入ると同時に試合終了らしい。

「いやバグってるだろなんだそれ。最後に来るウルトラサービス問題じゃねーの。いいのかそれで」
「僕の父さんもシーカーだったんだ」
「とんだサラブレッドだぜ」

人に当てはめていいのかわからないが、父親譲りの運動能力、というか箒能力?ならハリーパパもそれはもうビュンビュンしてたんでしょうね。嬉しそうなハリーの頭をぐしゃぐしゃに撫でる。気づけば朝日が昇り、当たりは黄金色になっていた。ブブブ、とハリーの手の中のスニッチが眩しく光を反射する。音だけ聞くと虫です。ハリーはスニッチを箱に収め、クアッフルを手に取った。

「大体のルールは理解したよね。じゃあナマエもやろう!楽しさを知るにはやるのが一番だよ!」
「お断りします」
「えっ?」

不思議そうな顔で真っ直ぐ見つめられても、Noと言える人間に私はなりたい。その後どうなったかはご想像にお任せしたいが、翌日はめちゃくちゃ筋肉痛だった。私はハリーの上目遣いに弱いということだけ言っておく。

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