- ナノ -

花の眠る夢を見た

あれ、と違和感を覚えたのは、朝起きて眠い目を擦りながらふらふらと談話室につき、そのまま大広間へ行きもそもそとサラダを食べているときだった。隣にふわりと赤毛が揺れる。

「おはようナマエ、今日は1人で来れたのね」
「んーおはよう、ジニーちゃん」
「ジニー?そんな子いたかしら。まだ寝惚けてるの?」

…………ン?ジャキッとレタスを噛んで首を傾げた。この赤毛ガール、ジニーちゃんじゃ……?ゆっくり横を向く。あれ。綺麗な赤毛が目に入る。既視感のある緑色のアーモンドアイが不思議そうに瞬きした。……えっだれ。

「どうしたの?」
「リリー!おはよう!」

私こんな友達いたっけ?と首を傾げたところで、隣からドバーン!と声が飛んでくる。ついでにダンッと私の横に手が置かれた。

「ああごめんごめん、誰かと思ったらモンキーがいたなんて。朝食はバナナじゃないのかい?」
「ジェームズ!やめて!」
「ごめんよリリー!」

朝からうるさいなこの眼鏡。そして眼鏡の青年をやはり知らないなと不思議に思いながらパンに手を伸ばす。ついでにジャムも欲しいなあとテーブルの上を見ると、向かいからコトリと私の近くにストロベリージャムが置かれた。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして。今日のストロベリージャムはとても甘くて美味しいよ」
「そうなんだ。…………そう、なんだ?」

少しボサッとした鳶色の髪を自分で軽く撫でながら、向かいに座る男の子が笑って言った。その手元のパンを2度見した。いや、あの、パンの上にジャムの山が出来てるんだよ。それはとても甘いどころじゃなくない?ホグワーツに来てからジャムが甘くなかった日はないけどさ、それはもう甘い超えてない?味覚大丈夫か?

「ナマエはいつまで経ってもムーニーの甘党に慣れないねえ」
「魔法にも慣れてねえじゃねえか」
「クィディッチにもね」
「ちょっと、何勝手に隣に座ってるのよ」
「ピーターもジャムどう?おいしいよ」
「う、うん、もらうね」

いつの間にやらメンバーが追加され私の周りは朝からやいのやいのと元気になってしまった。隣に赤毛の美少女、その向こうに先程の眼鏡、眼鏡の向かいに黒髪のイケメン、その隣に小柄ななんかちょっとほわほわした子、そして私の向かいに先程の味覚爆発ボーイだ。うーん……誰だこの人達は。全く知らないし見覚えもない。しかし、どうやらわーわー話してる彼らは私のことを知っているらしい。

「ナマエ、今日の魔法薬学は座学だからって寝ちゃダメよ、わかってる?」
「魔法薬学で座学?」

そんなんあったっけ?記憶にないな。いくら座学だからってスネイプ先生の授業で寝れるわけないし、っていうか私そんなに授業中寝てないよ!?心外だぜ。むむむっと眉間に皺を寄せると、味覚爆発ボーイの隣のほわっほわした子が小さく笑った。

「ぼくも頑張るから、頑張ろうね」
「ピーターはスラグホーンの座学いつも船漕いでるよなぁ」
「だ、だって眠くなっちゃうんだ…」
「……すらぐほーん」

すらぐほーんって誰だ。文脈的に先生の名前?いやいや知らないって誰それ。そろそろ鳥肌立ってきた。

「どうしたの、ナマエ?」
「いや、あの……スネイプ、えっ突然顔怖い」

スネイプ先生は、と言い終わる前に赤毛美少女の顔が、宿題をめちゃめちゃ溜めたロンを見るハーミーの顔くらい怖くなった。つまりめっちゃおこ。怖い。美少女の向こうからはあ、とため息を吐く声が聞こえ、ついでに舌打ちも聞こえた。

「お前人が良すぎんだろ、何言われたかわかってんのか?」
「猿頭はやっぱりすぐに忘れちゃうのかなあ」
「ジェームズ、やめてって言ってるでしょう。……ねえ、ナマエ、あなただって怒っていいのよ」
「…………なんの話?」

マジでなんの話?スネイプ先生またグリフィンドール生のこといじめたの?いつものことじゃん。机に肘をついて、手のひらに顔を預けて赤毛美少女の方を向く。どうどう、落ち着いて落ち着いて。

「まあまあスネ……いや顔。こほん、えーと、あの人にだってなんか色々、こう、あるんだよ多分。いちいち目くじら立ててちゃダメだって」
「色々って?」
「そりゃ色々だよ。私にだって色々あるしユーにだって色々あるでしょ、ねえ?」

同意を求めるように向かいの味覚爆発ボーイを見ると、彼はびくっとした。少し強ばった顔で悩んでから、顔を上げて頷いた。そ、そんな渋々同意すること……?私と同列にするなって……?ナチュラルに態度が辛辣じゃん悲しい。胸に刺さった。

「……そうだよ、リリー。だってスネイプは、僕のこと……ううん、もう少しスネイプの事情を考えた方がいいのかも。だって、最近のスリザリンは──」

デスイーター、って前も聞いたなあ。よくわからんスリザリン話になってしまったので大人しくパンをもぐもぐしながら聞く。左手がなんだ。スネイプ先生の左手ってなんかあった?指輪はないよね。わかる、結婚出来なさそうだし。口にしたら50点くらい減点されそうな失礼なことをパンと一緒に飲み込んで、指についたジャムを舐めた。同時に、ジャムと同じくらい赤い髪の毛がまた視界の端で揺れる。

「……そう、そうね、そうよね……でも私、許せなかったのよ。裏切られたような気持ちになった。ナマエはどうして許せるの?」
「どうしてって……あの人とて人の心を持っているから……?」

抽象的すぎる答えに自分でも首を傾げた。許す許さないの話じゃないしなあ、寮点が減るのは。あと3:7で私の方が悪いこと多いし。残りは八つ当たりっぽい理不尽ですけども。 っていうか朝からヘビーな話やめてください胃もたれするわ。裏切られたってスネイプ先生マジで何したのよ。寮点ゼロにしたとか?うっわあ……(ドン引き)

「人の心……」
「そんなわけないだろ、あいつはスリザリンだぞ!」
「偏見えげつねえな。この際寮はどうでもいいわい。多角的に見ようってこの前マクゴナガル先生も言ってたわい」
「……うん、確かに。そうだわ、多角的に見る、大切な事ね。私は主観的だったのかも…ありがとうナマエ、私セブと話してみる!」
「うんそりゃよかっ、えっせぶ」

何せぶって。私が驚き首を傾げると同時に、苛立った声が「モンキー余計なことするなよ!」と赤毛美少女越しに私の椅子を蹴った。足長いなと感心。ぐらりと揺れて、机に手をつくと赤毛美少女がジェームズ!と眼鏡を怒る。揺れに巻き込んでしまった味覚爆発ボーイにごめん、と謝ると、彼は首を振った。

「ううん、僕もね、ちょっと今回の件はどうかと思ってたんだ。それに僕も、スネイプのこと嫌いじゃないし…」
「リーマスもモンキーの味方かよ!」
「……え?」
「シリウスはそろそろスリザリンってだけで判断するのをやめたほうがいいよ」
「え?え?」
「どうしたの、ナマエ?」








「──りーます?」

って、確かルーピン教授の名前じゃ。その疑問と共に起き上がった。……あれ?起き上がった?

「ナマエ、起きた?……はは、頬に本の痕ついてるよ」
「……ハリー?」
「うん?……わっ!?」

あまりにほっとして目の前のハリーに抱きついてしまった。あ、あーハリーだー!ホグワーツ!ここはホグワーツ!さっきもホグワーツっぽかったけど!マジでほっとしたわ…知ってる人が全然いないってこっわ。でもあの子ルーピン先生と同じ名前だったな。夢だとしても妙にリアルな…なんかの魔法かな…魔法界こっわ……。

title by まよい庭火