僕は嘘をつかない

私は普段魔法薬学での授業は基本ぼっちだ。ぼっちだけど常にスネイプ先生の目が光ってるからぼっちって感じがしない。教卓の前席強すぎる。ついでに周りは優秀なスリザリンの子たちだからなんだかんだ間違うときは彼らが鼻で笑い罵倒しながら教えてくれる。二言目には罵倒だから私が思春期男子だったら今頃新たな扉を開いていたかも。激しい飴と鞭だわ。
そんな私がペアを組むことは滅多にないわけだが、なんと今回の魔法薬は片方が常に混ぜていなければいけないらしい。つまり確実にペアが必要。……これは見学かな?ふむ、といつも使っている机の前で腕組んだ私の目の前に、カタリと椅子が置かれた。おろ?

「ノットくんじゃん」
「材料を持ってこい」
「おっといきなりパシリか?」

そしてビッと材料が書かれた紙を見せられる。
いやいやせめて挨拶くらいせえよ。やあ、とか。そんな爽やかな挨拶するノットくん見たことないけど。というか、これはノットくんがペアを組んでくれるということか?謎に思いながらも材料を準備する。違ったら本当にただのパシリですお疲れ様でした。
台の上にメモ通りに用意したブツを並べると、ノットくんは準備してくれていたらしい大鍋を火にかけた。

「ちょっと早い早い私まだ手順もよくわかってないんだけど」
「あなたの理解を待っていたら来年になる。指示を出すから言われた回数混ぜろ」
「ウィッス……」

この子最近容赦なく言ってくるようになったな…。感慨深さとムカつきと切なさを3分の1ずつ配合してぐっちゃぐちゃにした気分で火力を上げていく。ふぁいやー。
某3分クッキングの曲を脳内に流しながらお玉をぐるぐる。

「これを入れてから右に2回、左に3回」
「右、に……2回、左に……3回」
「温度を下げろ」
「あいよ」

ヒキガエルの内蔵をぶちぶちと処理している手から目を逸らし鍋に向き合う。今まではスネイプ先生が怖くて材料の準備も頑張ってたけど、改めて人がやってると見るとホラーだったよ。それを無表情でこなしていくノットくんすげえ。ほほう、と目を逸らしながら感心していると、後方からネビルの泣き声が聞こえた。ああ……ヒキガエルだもんな……ありゃ絶対ペット思い出してるな。もしくはスネイプ先生に意地悪言われたか。後者かも。スネイプ先生が私の周辺にいないということはグリフィンドールいじめタイムだ。それにしても泣き声にも動じないノットくんやっぱすげえ。
トントン、とナイフで赤い花が等間隔で切られ、そのまま鍋に投入される。

「左に5回、右に1回、左に5回、右に5回」
「うおお。ひだりに、ご……右に?」
「1」
「1回、んで左に5……右に?」
「5回だ。左しか覚えられないのか?」

そんなことはない、最初はちゃんと覚えてたよ。最初は。でも手を動かしながらわかんなくなるって言うか……ね?人はそれを忘れたという。しょんぼり。
ノットくんの指示は手際と同じように素早く、トンットンットンッといいテンポで薬作りが進んでいく。普段の私の4分の1……いやそうするといかに私がノロマかという……3分の1くらいの速さだ。サバ?なんのことだい?見事な棒読みを披露したところで鍋の火が消された。

「早くね?」
「少し冷ます必要がある。追加の材料を取ってこい」

休まぬパシリだ。ノットくんにおんぶにだっこなうだから大人しく参ります。材料棚からひょいひょいとメモに書かれたものを取る。と、後ろからとんっと肩を叩かれた。うん?振り向くとふわふわの栗毛。

「ナマエ、あなたがノットと仲良かったなんて知らなかったわ」
「仲……良く見える……?」
「違うの?」
「ンーどうだろう」

友達か、と言われると私は頷いてしまうかもしれないがノットくんは首を振るだろうな。ってことは知り合いくらいの位置か、同学年くらいの人的な位置か、そこはノットくんのみぞ知るだけども。私は苦笑し、ハーミーによくわからないと言った。とりあえず今日のペアってとこです。

「そう。いじめられているわけじゃないのね?」
「ったりめえよ、私がそんなヤワに見える?」
「パシられてるわ」
「その代わりノットくんに今日の調合の全責任が降り注いでる」
「……頑張ってね」

ハーミーさんはマジに心配そうな顔をしてグリフィンドールゾーンへと戻っていった。私がいるだけで問題ってか。杖使う系は確かに酷いかもしれないけど魔法薬学ではそうでもないんだぞ!だってすぐそこにスネイプ先生いるし!……全くもって説得力のない言い訳に自分で悲しくなってきてしまった。
席に戻ると、ノットくんは鍋の火を入れるところだった。材料を机の上に置き、今日の相棒お玉を片手にまた鍋を指示通りかき混ぜる。焦がすなよ、という忠告に焦げるの!?と驚きつつ鍋肌に沿うようにやさーしく混ぜた。そうしてポイポイと材料が入れられ、たまにチクッと言われながらかき混ぜればあら不思議、めちゃめちゃ早く薬が完成。すごい、色が教科書と同じだ。一発で出来るとかもはや感動。

「ノットくんすげえー!」
「あなたが残念なだけだ」

オブラートに包んだ言い方ありがとう。私はへらっと笑い容器の瓶を差し出した。トロリと鮮やかな紫の液体が瓶に詰められる。教卓にはもちろん今回の立役者であるノットくんに持って行ってもらう。提出したらそのまま解散だ。私はドキドキしながらノットくんを見送る、が、彼は教卓に向かう前に振り向き笑った。

「それから、俺とナマエは友人だろう」
「!? ウッ……………………ぬ、盗み聞きはよくないんだぞ!」

い、いきなり何を!?少し照れかけた私の渾身の返しにニヤリと普段は浮かべないような笑い方をして、ノットくんは薬の瓶を持って教卓へ向かった。後ろ姿を見つめながらそっと胸を抑える。はわわ。ノットくんのデレを急に浴びるとしんどいな。これがクーデレってやつか。落ち着けナマエ、ふっつーの青春っぽいことを言われただけだぞ。……うわー!友情のシー〇リーズの香りが刺さるー!不肖ナマエ・ミョウジ、セルフのトドメに胸を抑えたまま崩れ落ちるのであった──。

title by まよい庭火

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