- ナノ -

完成した真っ白な薬を瓶に詰めて提出する。スネイプ教授は他の生徒が出した青い薬と見比べて、眉間の皺を深くする。それを見る前にエイブリーは用は終わったと荷物をまとめていた。眉間に皺を刻みながらも何も言わずに教授はボードに何かを書き込む。今年も魔法薬学は落第ギリギリかもしれない。いつも思うが、僕とエイブリーは魔法薬学で遊びすぎなのかもしれない。
行くぞ、と声をかけられ、僕も荷物をまとめなければと教壇を背にすれば、スネイプ教授が「ワーグは残りなさい」と言った。

「またですか」
「貴様も残るか?エイブリー」
「いいえ、私のレポートは完璧ですから」
「フン、嫌味な奴め」

レポートの内容でよく残される僕に、もう慣れたというようにエイブリーは僕の分の荷物も持って教室を出ていく。夕食に間に合うといいなあ。
他の生徒がみんな出ていくのを待ってから、僕も慣れた動きで準備室の鍵を開けて入る。おい、勝手に入るな。はっくしょん!準備室に入った途端、あの嫌な匂いがした。うっ、と顔が歪み、鼻を両手で塞ぐ。

「……どうした」
「きょうじゅ、あれ、あのローブはなに」

部屋の壁にかけてある真っ黒なローブを目でさすと、スネイプ教授は妙だと言う声で「ただのローブだが」と言う。そうじゃない。

「すごく臭い、一体何と会ったの?四階の廊下でしょう?」
「ワーグ」

僕が問うと、スネイプ教授は唐突に酷く怒った雰囲気でローブと匂いを消し、僕を座らせた。臭さがなくなったためやっと鼻から手を離し、けほりと咳をする。サッとゴブレットが出された。はっくしょん。その匂いにまた鼻を塞ぐ。

「僕、これ嫌だ」
「文句を言うな」

アズカバンに送られたくなければ黙って飲め。なんて酷い言葉だ。むっと顔を顰める。スネイプ教授は偏見が過ぎる。 ごくり、一口飲むとトリカブトの匂いが喉に詰まった。けほり。咳が出るが、我慢して飲み込む。一気になんて飲めやしない、ちびちびと少しずつ嚥下する。
僕が薬を飲んでいる間に、レポートの採点をしているスネイプ教授が過去に四階の廊下に行っているのは確実だ。それも何度も。

「四階の廊下に何を置いたの?すごく嫌な匂いでした、僕の縄張りが荒らされるからやめてください」
「いつからホグワーツが貴様の縄張りになった」
「もう三年もいるんですよ?僕の匂いが校内にしっかりついてるんだ、もう僕の縄張りでしょう」
「生憎だが人間は理知が備わった文明的な生き物でしてな、そう古代の野生の本能を押しつけられても失笑するしかありませんな」
「スネイプ教授って笑うの?」

僕見たことないや、とわくわくしながら期待を込めてスネイプ教授を凝視すれば、チッと勢いよく舌打ちされた。

「あまり詮索をするな」
「早くあの生き物を追い出してよ、すごく不快だよ」
「貴様が出ていくか?」
「生徒を追い出すんですか?なんて酷い学校なんだ」
「獣を生徒にした覚えはない」
「でも僕が来てから魔法生物の被害は減ったでしょう?」

ニヤリと笑って言えば、スネイプ教授はぐっと黙った。
薬草が森の住人に食われると怒り森番を責めていたのは他でもない教授だ。

「校長のお達しだ。変えられることは出来ん、大人しく薬を早く飲んでさっさと帰れ」
「……ふうん。ならクィレル教授をどうかして欲しいなあ。鼻がひん曲がりそうだ」
「気に入らないのなら、野生らしく喰らえばよろしい」
「……いいの?」

冗談だ。僕に人を食べる趣味はないし、そもそも人肉というのはあまり美味しくない。好きだという人もいるけど、人の血は臭くて嫌だ。
しかし冗談だというのにスネイプ教授は低い声で「さっさと飲んで帰れ」と怒ってしまった。ユーモアが通じないなあ。 怒られてしまっては仕方が無い、残ったゴブレットの中の数滴をぺろりと舐め取り机に置く。けほり、咳をして机の上のチョコレートを一つ拝借した。不器用な教授の気遣いだ。ほろりと蕩けるチョコレートがじんわりと体を温める。
ありがとう、と声をかけて教室を出ると、思ったより空気は冷たかった。
明日は雨だといいな。もっとトリカブトの匂いが強い薬なんて、飲みたくない。


月にもそっぽむかれたい2/2