くんくんすんすんはっくしょん
ぐい、と鼻水など一滴も出ていないけど袖で隠すように鼻を拭う。気に入らない、ああ気に入らない。

「どうした、機嫌が悪いな」
「すごく嫌な気分なんだ」
「感情の起伏が乏しいスコルにしては珍しいな」
「その一言さえ癪に障る気分なんだ」

更に珍しい、明日は雨でも降りそうだな。心底どうでも良さそうにエイブリーが言う。いいから行くぞ、とローブを引っ張られた。

ホグワーツの廊下に転々と嫌な匂いが染み付いている。それも二つ。一つは嗅いだことのないとても不快な匂いだ。どこかの森のものかもしれない土と、魔力が少し残った不快な匂い。それからもう一つは薄いが確かにはっきりとわかる乱暴な匂い、あれは動物のものだろう。質の悪い肉を食べてきた唾液のような臭さと汚い匂い。ああ気に入らない、僕の縄張りが荒らされている。
前者は城のあちこちに漂っているから、おそらく誰かの匂いだろう。もしかするとクィレルのものかもしれない。あいつは嫌いだ、ニンニクなんてものさっさと捨てて欲しい。後者はルートが決まっている。玄関から入り左の第二階段を登って女子トイレの前を通り四階の踊り場を通過して廊下の途中で途切れている。四階の廊下といえば、新学期にダンブルドアが話していたような。
臭い鍋をかき混ぜながらエイブリーに問う。四階の廊下には何がいるんだ?

「さあな、生き物でもいるのか?」
「うん」
「確実に?」
「うん」
「誰かが秘密のペットでも飼っているんじゃないか?」
「とっても不快だよ」
「飼い主はマグルか」

ダンブルドアが擁護するほど珍しく興味深い動物なんだろう。微塵もそう思っていない声色でエイブリーはヒキガエルの内臓を鍋に入れた。ぷしゅり、破裂するような音がして鍋の色が変わる。蓋をして火を強めた。エイブリーが棚からクコの実を持ってくる。

「それ、入れるのかい?」
「いい案だと思う」
「オーケー、ならあと三十秒経ってからにしよう」
「オーケー」

「ワーグ、エイブリー、諸君は一体何を作っている?」

スネイプ教授は不可解だという声で言った。エイブリーが簡潔に「新薬を」と返答する。合わせるように頷くと、それは熱心なことですな、と微塵もそう思っていない上辺だけの賛辞を述べた。熱心な生徒にスリザリン三点。加点されたことにエイブリーはにっこりと笑う。これで何が出来ても安心だ。僕の考えだとまた裏庭の花を枯れさせる魔法薬が出来そうだ。スリザリンきって大馬鹿野郎鼻タレ野郎草木を腐らせる魔法薬に乾杯!グリフィンドールのウィーズリーの双子とリー・ジョーダンの嫌味がすっと耳に入る。ジョージ・ウィーズリーの言葉に僕も乾杯がしたくなった。ニンニク畑が腐るなら本望だ。
エイブリーがクコの実を入れると、パチパチと薬の表面に火花が立った。とても綺麗だ。ふふふ、と笑っていると、後方でバシュン!と爆発する音がした。グリフィンドール二点減点!すかさずすぐにスネイプ教授が怒鳴り声と魔法を飛ばし、爆発した鍋を消した。

「一体何を入れたらあんなに爆発するんだ」
「さあ、クソ爆弾とか?」

はっくしょん。くしゃみが出た。漂う煙のせいだろう。エイブリーに、綺麗なハンカチを鼻に当てられた。

「爆発させたのはアリシア・スピネットだ、気をつけろ」
「おや、珍しいね」

はっくしょん

「アンジェリーナ・ジョンソンはどうしたんだ?」
「さあな」

興味が無いから知らん。実に単純な答えだ。爆発の影響は広範囲だったようだ。スネイプ教授が教室中杖を振り回して歩く。細かい飛沫が棚の端や壁にぺたりぺたりと付いていた。

「スコル、ローブについている」
「ありがとうエイブリー」

エイブリーが僕の鼻に当てていたハンカチを、僕のローブにも付いていた小指の爪にも満たないシミに当てた。ハンカチがシミを吸うと、そのまま彼は僕にハンカチを寄越す。はっくしょん。不思議な顔でエイブリーを見る。

「洗って返せ」
「親切かと思ったのに」
「どうせ洗うのはしもべ妖精だろう」
「なら尚更じゃないか」

何故そんな面倒なことをするんだ。しかしエイブリーがそういうのだから、と僕はハンカチを畳んでローブのポケットに仕舞った。


月にもそっぽむかれたい1/2

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